[チェブラーシカ]

7月21日より渋谷ユーロスペースにて公開(以後、8月より名古屋シネマティークなど全国で公開予定)

監督:ロマン・カチャーノフ/原作:エドワード・ウスペンスキー『チェブラーシュカとなかまたち』(新読書社)/(1969・71・74年/ロシア/1時間4分/配給:プチグラパブリッシング)
公式サイト http://www.cheb.tv/

Monthly Feature『チェブラーシカ』
(プチグラ伊藤 高さんロング・インタビュー、グッズ紹介)

チェブラーシカは、不思議な新種の動物だ。小熊のようにも子猿のようにも見えるが、動物園の動物学者も「学問上どの檻に入れたらいいかわからん」と匙を投げる。発見されたのは果物屋さん。南の国から輸入されたオレンジの箱の中で、スヤスヤ眠っていたのだ。起きてもすぐコテッと倒れるので、果物屋のオジサンは「ばったりたおれやさん=チェブラーシカ」と命名する。でも動物園には入れてもらえず、古道具屋(ディスカウント・ストア)の前の、古い電話ボックスに住むことになるのだった。ところで、その動物園に「勤務」しているワニのゲーナは、都会での独り暮らしに孤独と退屈を感じていた。思い立って「ともだち募集」のポスターを街に張ったら、やってきたのは、まず迷子の子犬トービクを連れた少女ガーリャ。それからもちろんチェブラーシカも電話ボックスの張り紙を見て訪ねてきた。ライオンのレフ・チャンドル卿や、キリンや子猫もやってきて、みんなで「ともだちの家」を作ることにする。そこに悪戯ばかりしているイジワルなおばあさん、シャパクリャクがやってきて、飼い鼠のラリースカと悪戯三昧。さて、どうなることやら……ってのが第1話「こんにちわチェブラーシカ」(69)だ。第2話「ピオネールに入りたい」(71)では、ソ連版のボーイスカウトみたいな若者組織、ピオネールに憧れたチェブが、ゲーナと一緒に子供の遊び場を作ったり、屑鉄を集めたりしてボランティアに励むお話。第3話「チェブラーシカと怪盗おばあさん」(74)は、海水浴に行こうとモスクワ発ヤルタ行きの列車に乗ったチェブとゲーナが、シャパクリャクばあさんに切符を盗まれて苦労するというエピソード。とぼとぼ線路を歩いて、密猟者に出会ったり、子供たちの泳ぐ川を汚す公害工場を懲らしめたりする、ちょっといい話だ。

ロシア人なら誰でも知ってるという国民的なアイドル・キャラクター、チェブラーシカ。原作の童話の他、多種類の絵本も刊行されていて、日本でも知る人ぞ知る存在らしい。とにかくキュートなチェブと、とっても紳士なゲーナのコンビが繰り広げる可愛らしい、それでいてちょっぴりロシアンな哀感も漂う、独特の雰囲気のパペット・アニメーションである。さまざまな劇中歌も実に味わい深くて、一度見たらトリコになっちゃうはず。

監督のロマン・カチャーノフはユーリ・ノルンシュテイン(『話の話』など)の師匠にあたる人物で、ノルンシュテインも本作の制作に参加しているらしい。アニメ作家が国家的に保護されていた旧ソ連時代の作品で、アナログながらも丁寧で繊細な作りが、実にいい感じだ。宮崎駿や高畑勲、大塚康生など日本のアニメ作家、というかアンチ手塚アニメ(ディズニーアニメ?)派が憧れた「ソ連の味」が随所に漂っているのも見どころのひとつ。例えば「友達の家」工事現場には「働き者表彰板」があり、「ピオネール」という共産主義の理念を校外学習する10〜15歳の青年組織が登場し、広大な大地をゆくシベリア鉄道も出てくる。「今日はチェブラーシカの名前のお祝いだ」とか、チョウザメ(キャビアの親)の密漁とか、鉄屑の回収が奨励されてるとかってのも、土地柄や時代を反映していて面白い。でも驚くのは現代にも通じる普遍性だ。「この街にはどのくらいいるのかな、ひとりぼっちの人、哀しくても慰めてもらえない人が……」と呟くチェブの台詞は、ケータイやメールで「ともだち募集」する現代人の孤独をも射程に捉えている(それは19世紀ロシア文学的な孤独でもある)。あるいは「いいことしても有名になれない」と歌う、元スパイという設定らしいシャパクリャクばあさん。彼女は日本の(青島幸夫演じる)「いじわるバアさん」みたいに、実は凄くいい人でもあったりするんだけど、その歌にドキッとするのは、有名になるために犯罪に走るかのような昨今の世相をも痛烈に思い出させるからだ。また子供の遊び場が不足していて、幼い子が危険な遊びをするのをゲーナが止めてまわったり、公害企業のボスの場当たり的な対応にゲーナの怒りが爆発するってのも、他人事じゃない気もする。そんなペーソスや社会風刺を背景に隠しながら、「残念なことに誕生日は1年に一度だけ」とか「なぜ今日という日は終わる、一日が一年あればいいのに」とかって素朴にナンセンスな歌を、ゲーナがアコーディオンを奏でながらちょっと哀しげに歌ってみせるのが、洒落てるというか、何だか妙に可笑しいのである。実はどのお話も、ワニのゲーナが真の主役かもって思うんだけど、ズルいくらいキョーアクな可愛さで迫る「チェブちゃん」ことチェブラーシカの仕草や発想(ちなみに僕は「トホホ系」キャラと秘かに呼んでいる)に、ついつい振り回されるゲーナの気持ちが、よーくわかってしまえば、もうあなたはチェブ中毒。とても良くできた日本版オリジナルのチェブ人形を速攻ゲットしちゃうことになるのは必至だろう。2001年の夏は、あの首の傾げ方にズキュンとヤラれちゃう人続出!ってな予感がする。

Text:梶浦秀麿

Copyright (c) 2001 UNZIP