[ブロウ] BLOW

2001年9月15日よりみゆき座ほか全国東宝洋画系にて公開

監督:テッド・デミ/脚本:デヴィット・マッケンナ、ニック・カサヴェテス/製作総指揮:ジョルジア・カサンデス/出演:ジョニー・デップ、ペネロペ・クルス、ポール・ルーベンス、フランカ・ポテンテ、レイチェル・グリフィス、レイ・リオッタほか(2001年/アメリカ映画/2時間3分/ギャガ・ヒューマックス共同配給)

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ローリング・ストーンズの曲をバックに映る、のんびりとした農園の作業光景…しかし、作業の行程を追うに連れ、「あれ?」と思う。ライフルを持った男。白い粉。そして気が付く。それはコロンビアでのコカイン栽培から精製、そして空輸までの光景だ。この映画は、1970年代にコカインの密輸ルートを確立させ、最盛期にはアメリカのドラッグマーケットの80%を動かし、まさしく“アメリカ”を手に入れた男、ジョージ・ユングの伝記である。

ブロウ(BLOW)とは、マリファナ、コカイン等のドラッグ吸引を意味する俗語であり、人生の満開状態であり、また奈落への運命の一撃も意味する言葉である。ジョージ(ジョニー・デップ)のブロウ的人生は、幼馴染みのトゥナ(イーサン・サブリー)と一緒に、カリフォルニアへ移り住んだ時から始まった。恋人になったスチュワーデスのバーバラ(フランカ・ポテンテ)からマリファナ販売の元締め、ゲイのデレック(ポール・ルーベンス)を紹介され、ビーチでの小売りから商売を始めるが、たちまち商才を発揮。“ボストン・ジョージ”と異名をとり、ビーチの有名人となる。やがて東部に上質のマリファナがない事に目をつけたジョージは、バーバラに運び屋をさせて販路を開拓。また、マリファナを大量に手に入れるために生産地を押さえて、小型飛行機で運ぶことを思い付く。だが、ひたすら楽しかった時代は長くは続かなかった。恋の悲しい終わり、マリファナの不法所持による逮捕…。しかし、この時入った刑務所には、ジョージの人生をさらに劇的なものとする新しい出合いが待っていた…。


この映画は、よくあるドラッグ・カルチャーの映画でもなければ、アクション映画でもない。1人の男の、夢と愛を描いたドラマである。ジョニー・デップ演じるジョージは、マリファナ、そしてコカインの密売を生業としているが、そこには暗さや罪悪感というものが感じられない。あくまでもビジネスとして楽しんでいるように見える。本作において、ジョージがドラッグディーラーであることは、ドラマの背景にしか過ぎず、むしろ親と子の関係、夫と妻の関係など、ジョージの人間性に焦点があたっている。

ジョージがのちに結婚する女性、情熱的でセクシーなマーサ役にはペネロペ・クルス。初登場シーンのスローモーションには、なんとなくLUX(シャンプー)のテレビCMを思い出してしまい、これは日本のファンへのサービスか?と思ってしまったが、劇中ではLUXでの彼女とは違う、新しい魅力を発見できる筈だ。“ビッチ”ぶりさえも可愛く魅力的な彼女は、まさに旬の女優である。

ドラッグの売人でゲイのデレックに、ティム・バートン監督の「ピーウィーの大冒険」で映画デビューしたポール・ルーベンス。ピーウィー役で大成功を納めながら、ポルノ映画館での不名誉な嫌疑が原因で、芸能界での地位を失った彼である。「ブロウ」をきっかけに再浮上した、というからファンには嬉しいことだろう。彼のキャラクターを創造する力はやはり突出しており、デレックを印象的なキャラクターにしている。裏切られてもなぜか憎めないところのあるデレックは、ポール・ルーベンスのはまり役だと言えるだろう。

「なんとなく楽しみたい」という人にも「心に沁みる映画がみたい」という人にもおすすめできる作品。もっともファンには、ジョニー・デップのお腹が出た姿だけは我慢できないかもしれないが…。

Text : nakamura*UNZIP


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