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木製の丸い盤上で青いビー玉を駒にして独りで遊ぶゲーム、ソリタリア(ソリテアとも言う)をしながら、「眠り」についての御託を並べる------ってな渋い夢から物語は始まる。寝ていた優男スパイク(実は元中国系マフィアの用心棒、ジークンドーの使い手)を、強面のジェット(実は元警察官)が起こす。小悪党レンジィ率いるコンビニ強盗グループと一戦交えるなんてのは、彼らカウボーイ=賞金稼ぎにとっては寝惚けててもできる仕事のようだ。まあ「肝心の賞金はいつもいつも手に入れ損ねる貧乏な賞金稼ぎチーム」ってのがパターンなので、今回の賞金くらいはゲットして当然。ところでそのコンビニには、ハロウィン関連の商品が並んでいる------どうやら太陽系中が10月31日のキリスト教系イベントを採用しているらしい。この時代=2071年には、地球の1/3の重力で1年の長さは約2倍のはずの火星だろうがどこだろうが、みんな1Gに調整されて何故かアメリカの都市(NYかLAか)みたいになってるらしいのだ(結構ムチャクチャなテラフォーミング=地球化・アメリカ化が行われてるって設定みたいね)。
んで、スパイクとジェットがヘボ将棋をやってるうちに、彼らの船ビバップ号は位相差空間ゲートを抜けて、火星の巨大クレーターに築かれたアルバシティへ到着する。スパイクらと行動を共にしてきた、いつも薄着の賞金稼ぎ(実は冷凍睡眠以前の記憶を無くしたイカサマ・ギャンブラー)フェイは、抜け駆けして賞金首のハッカーを追っていて、第7高速道路上で起こった大規模なバイオ・テロ事件に遭遇しちゃう。未知の病原菌か生物兵器の使用が噂され、その犯人には3億ウーロンの賞金が賭けられた。つい盛り上がっちゃう一行だったが、スパイクは聞き込みにまわったイスラム系移民街モロッカンストリートで、ラシードという男から「あんたにピッタリの壺じゃ」とでかい土産をもらうハメになるし、フェイはフェイで、追っていたハッカー、リー・サムソンの居場所を突き止めるも、あっさり逃げられて帽子のみが戦利品という有様だ。だがリーもどうやらバイオ・テロ犯につながってるらしい。 さて、ビバップ号に居着いてるフニャフニャ・ガキんちょハッカー(実は自称13歳の少女)エドの独特なハッキングによると、フェイが見た犯人らしき男は、3年前に解散した火星陸軍特殊部隊第7班所属のヴィンセントのようだ。だが彼は2年前、2068年のタイタンの戦争で戦死したことになっていた……。一方ジェットの方もISSP(太陽系刑事警察機構)の旧友から、チェリオスケミカルという製薬会社に火星陸軍が関与しているらしいという情報を得る。チェリオスケミカルに侵入したスパイクは、マーシャルアーツの使い手エレクトラと一戦を交え、さらに軍仕様の重武装をした警備員達に追われて、軍の関与を確信する。どうやらエレクトラはヴィンセントの同僚だったらしい。ヴィンセントと、彼を実験に使った極秘兵器の開発者メンデロ博士とを、軍の方も内密に探しているようなのだ……。 一介の賞金稼ぎにはデカすぎるヤマだが、全市を巻き込んだテロ予告がなされるに至って、スパイクも俄然やる気をみせる。そんな時、愛犬アインと「ハロウィンごっこ」をしつつ、街でリーの居場所を突き止めたらしいエドから連絡が入る。現場に急行したフェイはうっかりヴィンセントの手に陥ち、そのヴィンセントとのモノレール上での対決でスパイクは深手を負う。九死に一生を得たスパイクは、再びモロッカンストリートのラシードに会いに行き、壺の中にあった青いビー玉の正体と開発者のメンデロ博士について尋ねる。そこであっさり軍に捕まってみせ、製薬会社の地下牢でエレクトラと再会したスパイクには、実は秘策があったようだ。いよいよハロウィンの夜が来た。テロ予告を無視して華々しくパレードが始まる。はたしてこの事件の結末は……? 太陽系を股にかける賞金稼ぎ=俗称「カウボーイ」の物語である。もともと、98年4/3放映開始のTV版は12話(+総集編)で打ち切られ、その後WOWOWで全26話(98年10/23〜99年4/4)を無事オンエアして、一部の(たぶん宮崎アニメとか『エヴァ』なんかよりはもっと極小だけど)熱狂的ファンを生み、なんでか2000年日本SF大会で星雲賞メディア部門を受賞したってなSFアニメ・シリーズ『カウボーイビバップ』(ビデオ他では全9巻+オマケ1巻がレンタルおよび発売中)。その劇場版オリジナル・アニメーションがやっと登場した。「太陽系を舞台にしたSFノワール活劇」ってのが基本スタンスなんだけど、背景のSF設定は酷くいい加減なご都合主義で、もうアタマ悪くてもいいじゃんってなおバカぶりはTVシリーズと同じ(←ひどい言い分だな)。本作も開き直ったかのように現在の地球上、しかもNYとかの話みたいである。どこかで見たようなギャング映画やらノワール映画(ジョン・ウー好きなんだろうなぁ)やらのパクリだらけな雰囲気優先ストーリーなのも相変わらずなんだけど、ま、『ルパンIII世』とか『なんとかブライガー』へのオマージュなのねと思って諦めてみると、結構面白いかも。現在の日本アニメの「技術面での高水準さ」(そして内容の無さ)を示す格好の見本とは言えるだろう。あ、そうそう、『ビバップ』はなにより音楽がいいのだった。アシッド・ジャズを巧みにサンプリングしたTV版OP曲「Tank!」など、菅野よう子(『MACROSS PLUS』『ブレンパワード』、今井美樹や小泉今日子のCDにも参加)+シートベルツの音楽の評価が突出して高くて、1stアルバムは異様な売れ方をして4タイトルで約70万枚のセールスを記録したというから、劇場版もまずは音楽のクオリティの高さを味わうべし。 で、物語はビバップ号のクルー達が最終4話でバラバラになる直前、22話と23話の間にあった事件を描いたもの。再登場キャラなどファンサービス・ネタも多いが、TV版を見てなくても筋はわかるようにはしてあるので、初めての人も安心だ(笑)。そのTV版での「コミカルな場面もちょこちょこあります、でも基本は古臭いセンチメンタル・ハードボイルドなんです」ってな雰囲気はそのままに、劇場版ならではのグレードアップした派手さで展開するのがミソなのである。 冒頭のコンビニ内アクションをはじめ、製薬会社内でのカンフー対決、洋上(たぶん運河かなんかの上)を走るモノレール上でのガン&爆弾アクション、意味無しのような気もする凝りまくった空中戦(いったい『ビバップ』世界では航空管制はどうなってるのだ? 地上車は地球の現状と同じで警察と賞金稼ぎと悪者と軍だけが飛行できるのか?ってなムチャクチャさ)、そしてクライマックスの、何故かエッフェル塔もどきのタワー上層での、光る蝶が乱舞する中でのジョン・ウー調死闘……と盛り沢山なアクション・シーンの数々は、さすがに動きが素晴らしい(でも必然性のないヌードみたいな違和感は常にあるけど)。 また『人狼』監督の沖浦啓之によるタイトルバックの、どうみても「アメリカのオシャレな都市生活風景を、78年版『指輪物語』のラルフ・バクシみたく実写トレース風に再現してみました」ってな火星アルバシティの日常風景スケッチも、テクニカルな完成度は非常に高く必見モノである(だからどうしたってツッコミたくなるけど)。さらに何故かモロッコ・ロケの成果を見せつける「異国情緒を表現してみました」風の街角風景の描写もグーだ(ううツッコミ疲れてきた……)。 こういうカタチから入ったみたいな、格好だけ、雰囲気だけの舞台を用意して、メイン・モチーフはヴィンセント・ギャロもどきの敵キャラによる「世界を破滅させたい夢想」で、そこに「悲恋」が加味されるってな具合なのが劇場版の内容である。もはやオリジナリティや新しさってのは無意味なのかもしれないなあ……上っ面の「格好いい」だけをダダダっと並べられた気分だ。あ、でもゆうきまさみの漫画から盗ってきたみたいなエドのキャラ(原点は鳥山明のアラレちゃんか?)って、この手のアニメには新鮮かも。チョコチョコ出てくる彼女を見られただけで僕はOKってことにしようかな……(←って個人的な趣味だろ!)。スパイクが壺を持ち帰って、フェイとエドにそれぞれ突っ込まれてるシーンにはちょっと笑った。はてさて、今回はどうも辛口なので『ビバップ』信者には怒られそうな気もするが、確かにハマる人はハマる魅力はあると思う。ので、劇場で観て気に入ったら、ぜひレンタル・ビデオ屋に走るべし。 Text:梶浦秀麿 Copyright (c) 2001 UNZIP |