[とび★うぉーず]

2001年9月15日より全国ワーナー・マイカル・シネマズにて公開

監督:ミカエル・ヘグナー+ステファン・フエルマーク(2000年/デンマーク/1時間20分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ/宣伝:メディアボックス)

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海の中を生きるさまざまな生き物を豊かに描き出すオープニングが、子供部屋の水槽の中の魚へとスムーズにつながり、水槽を透かしてトビー少年がルアーを作っているのが見える。実は今日は両親が外出するので、アンナ叔母さんの監視のもと、家で大人しく留守番をしなきゃいけない。んだけど、叔母さんは妹ステラを昼寝させようとして寝てしまったみたいだ。「しめた」------こっそり釣りに出かけようとしたら、叔母さんの子供のパソコン・オタク少年ジェリーと、まだヨチヨチ歩きのステラも連れてくことになってしまった。ま、いいか。 目をつけていた穴場は、海辺の道路が崩れて、岩礁が飛び石のようになってる海辺の小島だ。ステラは兄が釣った空き缶にいたタツノオトシゴの赤ちゃんが可愛いと大喜びだが、トビーはイマイチ釣果があがらずムキになってしまう。そんな海遊びに夢中の3人だったが、気づくと潮が満ちて来て、彼らのいる岩場も水没しそうだ。と、何とその岩には隠し扉があって、彼らは流れ込む海水ごと小島の中の洞窟へ。探検気分で辿り着いた洞窟の奥の入り江には、ゴテゴテとメカをくっつけた船があった。そこはちょっとおかしな老博士マックリルが、地球温暖化に備えて秘密の生物実験を行っているところだったのだ!

マックリル教授が開発中なのは「サカナ薬」=人間が飲むと魚になっちゃうもので、レモネードと間違えて飲んだりしちゃいかん、とか言ってる間にステラがゴックン。ヒトデになってしまった妹をそうとは知らずに海へ投げ込んだトビーは、偶然ビデオに撮られていた彼女の変身風景を再生して愕然とする。妹を救うには48時間以内に「ニンゲン薬」を飲ませなきゃいけない。小舟で捜索に出た博士と少年達だったが、博士はうっかりニンゲン薬を海中に落としてしまった。薬を取り戻し、ステラを見つけるために、トビーとジェリーはサカナ薬でトビウオとクラゲに変身して海の中へ。ステラは逃がしてあげたタツノオトシゴの赤ちゃんサーシャと再会、そして兄たちとも合流できたのだが、海底では恐ろしいことが起こっていた。小判鮫のようなブリモドキのジョーが、こぼれたニンゲン薬を飲んで急激に賢くなってしまったのだ。サメのシャークを弟子にして、海の生き物に少しづつ薬を与えて、瞬く間に独裁帝国を築き上げるジョー。沈没したタンカーの中では魚達がオートメーション工場のように働き、でかい魚はバスのような交通機関になり、カニは軍隊として海底の秩序を守る……。人間並みの知能を持ったジョーは、ニンゲン薬の秘密を知るものを探していた。そんな世界に迷い込んだトビー、ジェリー、ステラ、サーシャの運命はいかに?

映画館ギョーカイを震撼させた、郊外型シネコン(シネマコンプレックス)の雄、ワーナー・マイカル・シネマズ。ウチの近所にもあるので、映画の日とか1,200円になる夜9時過ぎとかにフラリと出かける、なんて利用の仕方で結構重宝してる。座席も綺麗だしね。んで、今年はそこの10周年記念と銘打って、子供向け+ファミリー向けの良質な作品を1,000円で観せる「シネマエキスポ10」とう企画上映シリーズをやっているのだった。本作は、その第5弾である。『とび★うぉーず』ってな邦題に「ん?」と思って侮ってはいけない。これがなっかなかよくできたアニメーションなのである。デンマーク製ってのも珍しいが、本国では『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や『チキンラン』よりヒットしたらしい。日本でいえば『千と千尋』みたいな国民アニメなのかしら。 アニメ映像の質感の印象は、ディズニーアニメに対抗したワーナーアニメってな感じ? で、要所要所に一応CGも使ったりしてて、海の中の描写などなどのクオリティは高い。劇中とエンディングに流れる主題歌のポップス(「突然世界が真っ逆さま/不安が消えた」とか「大声で叫びたい」みたいな、新しい世界に出会った歓びと不安を歌うものだけど、何か日本の恋愛を謳った歌謡曲にもありそうな歌詞で、程良いダブル・ミーニング感がいいのだ)をはじめ、全体的に今風ミュージカル・アニメになってるのも、本家(?)のお約束というか伝統をきっちりこなしているようで及第点をあげられるだろう。

なによりストーリーが巧みなエンターティンメントに仕上がっていて、程良い作りこみによるファンタジーのバランスが絶妙なのだ。「飲み薬で魚化/人間化する」こと自体はウソなんだけど、ちゃんと手順を踏んで「らしく」しているのが、ファンタジーのモラルを踏まえているってことなのだ。また48時間以内に薬を飲まないと一生お魚になってしまうってタイムリミット設定は、映画の尺にマッチした王道をいくサスペンス手段として正しいと言えるだろう。個人的には、魚達が「知性化」される描写にグッときた。『ポストマン』の原作を書いてるデイヴィッド・ブリンの<知性化>シリーズ(イルカやサルなど動物の知能を人工的に向上させて、人間化した亜人類達と人類が共存している未来世界を背景にしたSF連作である。ハヤカワ文庫『スタータイド・ライジング』『サンダイバー』『知性化戦争』、そして<知性化の嵐>3部作第一弾『変革への序章』も出るゾ!)やら、星野宣之の漫画『ブルー・シティ』(海面上昇で陸地が水没した世界で、独裁的科学者に無理に変化させられた海棲人類と人類とが戦う未完のSF活劇!)なんかを、子供向けに巧みにデフォルメしたようなSF的アイデアの使い方にニヤニヤさせられたのである。「こういうのを観た子供が、未来の良質なSF魂を継いでいってくれるんだろうなぁ……」ってなジジ臭い感慨があったりして(笑)。『ザ・フライ』とかを思わすハリウッド・ホラーの味も含んだクライマックスも、怖すぎず、でも適度に恐ろしいのがよい。

とにかく鬱陶しくも内向的な某オシイ系アニメやら、暗けりゃリアルだと思ってるような重度オタク向けとかH系いろいろetc.の、子供に見せられないようなアニメも多い中、こういうわかりやすく友情や勇気、家族愛なんてメッセージを説教臭くなく手際の良く盛り込んだ秀作は、やっぱりホッとするのだった(特にオタク少年ジェリーの変貌描写が、なんとも腑に落ちるレベルなのがいい)。まあ、キャラ・デザインが古臭いってう致命的な欠点などもあるにはあるのだが、ファミリー向けアニメとしては文句なし。劇場でちっちゃい子の反応をじっと見てみたいなあって思わせる、良質なアニメであることは保証する。

Text : 梶浦秀麿



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