[ソードフィッシュ] SWORDFISH

2001年11月3日より丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にてロードショー

監督:ドミニク・セナ/製作:ジョエル・シルバー、ジョナサン・D・クレイン/特殊効果:ボイド・シャーミス/出演:ジョン・トラボルタ、ヒュー・ジャックマン、ハル・ベリー、ドン・チードル、サム・シェパードほか(2001年/アメリカ/1時間39分/配給:ワーナーブラザース)

Monthly Feature『ソードフィッシュ』
(コラム“ジョン・トラボルタ”、“Visual Effects”)
∵公式サイト



(C)2001 Warner Bros.All Rights Reserved.
「ハリウッドはクソみたいな映画を作ってる……」と、カメラに向かって気楽に語っている男(ジョン・トラボルタ)がいる----後にゲイブリエル・シアーとわかるが、それが本名なのかは不明だ。「『狼たちの午後』は、『スカーフェイス』と『ゴッド・ファーザー』を除けばアル・パチーノの傑作だが……」と話し続ける。1972年の真夏の午後、ブルックリンで実際にあった若者2人による無計画な銀行強盗および籠城事件をモチーフにした『狼たちの午後』(75→日本公開76)は、結末が良識的すぎるからクソだと言いたいらしい。「20人、30人と人質が死ぬ……脳みその色までわかる……そんな結末にならなきゃ嘘だよ」。コーヒーショップで対面している男が反論する。「その映画は失敗だね、コケるよ。ハッピーエンドじゃない。最後は必ず正義が勝つ、犯人はやられる運命さ」と。その男、スタンリー・ジョブソン(ヒュー・ジャックマン)はどこか緊張気味だ。二人でコーヒーショップを出ると、周囲はSWATだらけ、パトカーが包囲し、スナイパーも山程いるようだ。向かい側に銀行があり、そこの22人の人質は、全員C-4爆弾とボールベアリング箱を装着させられているという。それぞれの首輪スイッチは、ゲイブリエルが起爆するか、彼から離れすぎると爆発する。と、人質が一人、事態を甘く見たSWAT隊員によって強引に救出されかけて……。「やめろ!」というスタンリーの声も虚しく、目の前で凶悪な惨事が、有り得ない移動視覚で捉えられる----いきなり観客の度肝をぬく始まりだ。

その4日前。ロサンゼルス空港で、フィンランドからの旅行者が入国審査に引っかかる。別名義のパスポートが見つかったのだ。ワシントンDCに「アクセル・トーバルズ(ルドルフ・マーティン)が拘束された」と連絡が入る。同じ頃、テキサス州ミッドランドの寂れた油田の工事現場で、スタンリーは暇つぶしにゴルフの練習をしていた。と、ジンジャー(ハル・ベリー)と名乗る美女が乗り付けた。「こんな野暮ったい男がNSA(国家安全保障局)も恐れたハッカーなの?」と挑発する彼女は、どうやらヤバイ仕事の依頼に来たようだ。かつてスタンリーは名うてのハッカーだった(96年にコンピュータ雑誌の表紙を飾ったほどの)。彼はFBIによる一般市民のeメール監視システムに侵入してシステムを破壊した罪で逮捕され、現在は仮釈放中の身だ。パソコンに近づくことを禁じられ、こんな辺鄙な場所に隠遁するハメになったらしい。「仕事ならしないぞ」と突っぱねる彼だったが「最近、ホリーに会ってる?」とジンジャーは訊く。思わず別れた妻に電話するスタンリー。「メリッサ、ホリーはいるか?」と尋ねるが、豪邸住まいらしい元妻は娘には会わせないの一点張り。「しつこいとラリーの弁護士に言うわよ」「やつはポルノ王だぞ」「映画投資家よ」と虚しい口論が続く。ジンジャーは、スタンリーが愛娘の親権をめぐってこの20ヶ月に6回も訴訟を起こし、敗訴し続けていることまで知っていた。「報酬は1,000万ドル。ボスに会うだけで10万ドル払うわ」と誘う彼女に、スタンリーはつい屈してしまうのだった。

空港で捕まったアクセル・トーバルズは、フィンランド出身の有名なハッカーだ。24の国で訴えられている国際的な犯罪者である。FBIのサイバー犯罪取締官のロバーツ(ドン・チードル)が取り調べを始める。「ここはアメリカだぞ“イケア”君」「イケアはスウェーデンの家具だ」とフィンランド大使館員の通訳が入る。英語も喋れる癖にフィンランド語しか話さないつもりだ。入国理由も「『サバイバー』を観たくて」なんてふざけてやがる。苛烈な尋問にようやくトーバルズは雇い主について呟く----「お前はあの男の恐ろしさを知らない。彼は現実を越えた世界にいる。空想を現実にしてしまう男……」。数分後、偽の副局長からの電話でロバーツが少し離れた隙に、トーバルズは何者かに射殺されていた。署内で暗殺? これは国家組織ぐるみの陰謀なのか……。同じ頃、ロスのクラブのVIPルームでスタンリーはジンジャーのボスに対面する。「2,500キロの長旅はあの10万でチャラだ」とゲイブリエルは優雅に微笑み、テーブルについたスタンリーの膝元には美女がひざまづいてチャックを開ける。ノートパソコンを彼に向けたゲイブリエルは言う----「国防省の128ビット暗号のデータベースだ。最高のハッカーは60分で侵入できると聞いた。俺は60秒で破る男を探してる」。と、彼の手下のマーコ(ヴィニー・ジョーンズ)が頭に銃を突きつけ、唐突な“性と死のタイム・トライアル”が始まった。下半身を紅い唇に責められ、側頭部にサイレンサーの金属を感じながら、すさまじい勢いでキーボードを叩くスタンリー。「55…45…彼女、最高だろ……20、19秒……」とゲイブリエルの声。時間切れの瞬間、「待て!」と、汗だくのスタンリーは画面を見せる----「認証されました」。

こうしてスタンリーはゲイブリエルの計画に加担することになる。ゲイブリエルの豪華な隠れ家には、最新鋭のマルチコンピュータ・システムが用意されていた。FBIのオタク室もスタンリーのロス入りに気づく。翌日、こっそりホリー(キャムリン・グライムス)に会いに行ったスタンリーは、健気な娘との絆を深め、マリブの豪邸まで送って余韻に浸る。そこでうっかりロバーツ達に捕まったスタンリーは、司法取引を持ちかけられることになる----「情報をリークすれば娘と暮らせるようにしてやる」。実はかつてスタンリーを逮捕したのもロバーツだったのだ。「トーバルズは死んだよ。お前も殺されんようにな」と別れ際にロバーツは言う。戻ると、ジンジャーが自分の身体に盗聴器を仕掛けているところに出くわす。彼女は「DEA(麻薬取締局)の潜入捜査官なの」と身分を明かし、ゲイブリエル・シアーの資金の流れと黒幕を調査しているとスタンリーに告白するのだった。「ハッキング用のワームを作ったら、お金をもらって逃げて」と忠告するジンジャー。見つかるギリギリのタイミングでゲイブリエルが現れ、スタンリーを下見に誘う。ワールド・バンクの向かいにあるコーヒーショップで、ゲイブリエルは「ソードフィッシュ作戦」について語った。それは80年代初めにDEAが実行し、86年に作戦終了した麻薬捜査のおとり作戦で、そこで発生した利益は政府の闇資金としてプールされ、15年後の現在は95億ドルに膨らんでいるという。「それを頂く」と彼は不敵に笑う。実は上院議員で犯罪対策委員会議長のライズマン(サム・シェパード)が彼のスポンサーであり、FBIの捜査情報は筒抜けだったのだが、途中で計画中止を言い出すライズマンに従わず、ゲイブリエルは独走を始める。

一昼夜かけてシステム侵入用のワーム・プログラムを完成させたスタンリーは、ワイン倉庫で“あるもの”を発見。謎を感じながらもゲイブリエルと夜のドライブに出かける。「フーディ−ニを知っているか?」と有名なマジシャンの逸話をスタンリーに語るゲイブリエル。観客を騙す稀代の手品師のワザを賞賛する彼には、まだ裏があるようだ。そこでいきなり襲撃を受け、ゲイブリエルは派手なカーチェイスの挙げ句に撃退してみせた。まるで軍隊だ。やがてこれが単なるハッキング=権力者の不正な金を横取りするような「正義の悪戯」ではなく、クーデタ屋のテロ計画であることに気づく。裏を掻いてなんとか逃走するスタンリーだったが、娘は既に人質にとられていた。3台の装甲ジープとバスで白昼堂々ワールド・バンクに突入し、銀行員と客22人を人質に取って立てこもるゲイブリエル達。実は最初から直接銀行を襲い、そこで直にハッキングする計画だったのだ。ゲイブリエルは人質全員の身体に爆弾を取り付け、しかも爆弾は一定のエリア内から出ると爆破する仕掛けになっていた。娘を取り戻すために現場に戻ったスタンリーは、そこで最初の惨事を目撃するのだった。ホリー、そしてもう一人の命を盾に取られ、スタンリーはワームに仕組んだトラップを解除し、95億ドルをゲイブリエルの指定したモンテカルロの秘密口座への入金を実行せざるを得ない。ついで警察に逃走用の飛行機を要求したガブリエルは、人質を載せたバスで空港へ向かう----振りをして方向を変える。都心へと向かうバスは、さらなる惨事と予想もつかない結末へ向けて、滑空することになるのだった……。

いきなりのド派手なVFXシーンに続いて、まったく先の読めないサスペンスフルな展開が続く……まさにめまいのしそうな娯楽クライム・アクション映画である。初っぱなだけじゃない派手な爆発に銃撃戦の数々、カーチェイスあり、色っぽいネーチャンあり(笑)、ゴージャスなライフスタイル描写あり、政治家の暗躍あり、ユーモラスな会話あり、そして「父娘の愛情」も……なんて感じで、刺激的だったりわかりやすかったり感情移入しやすい表現を散りばめて、まず娯楽大作としてきっちり成立させているのが凄い。まあハッキング描写のいい加減さや(無意味に)空を飛ぶバスとかは個人的には買わないんだけど、ハッカー描写をリアルにやっても一般人には面白くない(あんまり正しい描写は模倣犯を生むしね)とか、VFXに頼り過ぎずに「ロスの高層ビル街を飛ぶバス」で実写ロケ撮影の迫力をって心意気なんだろうとか、好意的に解釈しとこう。とにかくスリルとアクションと意味ありげな伏線だらけで、一瞬たりとも目を離せない、なかなか欲張りな映画なのだ。

で、そうした娯楽に徹した観せ方にこだわった上で、背景には大人な(笑)複雑さも隠し込んである。敵味方が入れ替わったり際どい結論に達したりという結構入り組んだ政治的立場、一筋縄ではいかない左派・右派のバランスで彩られた構造は、実は厄介な問題提起でもあるのだ。ハッカーとクラッカー(正しいコンピュータ犯罪者と正しくないコンピュータ犯罪者)、右翼テロと左翼テロ、国家機関の犯罪と私的犯罪、イスラエル派(モサド支援のユダヤ系企業)とアラブ派(石油メジャーや軍需産業)……などなど、アメリカ国内の各勢力を複雑に絡めて、どっちが「正義」かを単純に決めることの難しさ、相対的にしか正しさを決められない事態を、巧妙に背後関係に仕掛けてあることに気づくと、別の愉しみ方ができそうだ。

例えばFBIの電子情報盗聴システムは個人情報を盗み見するもので、国家の安全管理(危機管理)の面からは「正しい」が、主人公のハッカー(そして個人の自由やプライバシーを守ろうとする左派)にとっては「悪」だ。物語の始まる前に、そのシステムを破壊したことで主人公は犯罪者となり、代償として妻子とパソコン、豊かな暮らしなどを失っている。さて、自由度が高い社会ではテロや組織的犯罪を未然に防ぐことは困難になる。それゆえにFBIやNSAが存在するのだが、それでも観客は娘思いの主人公サイドに共感し、彼の「正しい犯罪」に肩入れするだろう(ポルノ王と再婚して裕福に暮らす元妻が、対照的に悪人として描かれてもいるし)。そして、これもFBIと同じ国家組織である麻薬取締局=DEAが、80年代の麻薬撲滅のための囮捜査「ソードフィッシュ」作戦で不正に儲けた裏金というのも「悪」で、それを奪取する行為も「正しい犯罪」のような気がする。実際に行われたこの作戦、麻薬取引から得た資金をマネーロンダリングする偽の口座を実際に開設し、最終的に取引に関係した複数の大物政治家や銀行幹部、裁判官、数名のコロンビアの売人が逮捕されたという。裏金がプールされている云々は映画上のフィクションらしいが、政府主導でなされたというこの作戦自体は「麻薬取引で利益を得た」という点において犯罪である。というか、これもまた「正しい犯罪」だったのだ。

さて、奪取目標の裏金はDEAのもの、潜入しているDEA捜査員の真の目的は、それなら隠蔽か暴露か? 追跡しているFBIも、黒幕が自らの機関の上層部やNSAと繋がる可能性もあるので油断できない。さらに元モサド(アメリカの支援してきたユダヤ国家イスラエルの秘密諜報部)が絡むとなるとCIAの犯罪という線も浮かんでくる。さらにフーバー長官直属の秘密組織の存在(望月三起也『ケネディ騎士団』みたいなのかな?)まで仄めかされて、事態はますますトンデモな陰謀史観めいてくる。この状態で(つまり以上の勢力全てが本当に関連していたとして)何が成されれば正義が行われたことになるのか? ひとまず主人公に寄り添ったカタチで、ささやかな正義がなされた感があるにはある。だが、もう一方の主役級の男がアメリカ流ホラ話に出てくるようなタダの「痛快で陽気な詐欺師」ならば話は楽なのに、微妙にヤな立ち位置にいるのがシコリを残すのだ。

本作が「その映画は失敗だね、コケるよ。ハッピーエンドじゃない。最後は必ず正義が勝つ、犯人はやられる運命さ」(劇中の台詞)というテーゼに挑戦した、アンハッピーエンドで正義が負けて犯人が勝つ映画なのにコケない映画なのだ、と考えるとヘンな気分になる(いや、観終わってすぐの感触はハッピーエンドのようでそうじゃないようで、正義が勝って犯人がやられたのかどうなのかが微妙な気分なんだけどさ)。ハッピーエンド風の結末に隠し味みたいに添えられた不気味な感触が、この映画の新しさでもあるのだ。ひょっとするとこの映画の真相とは、「我が国の自由を犯すもの」を国連や国際世論に縛られずにやっつけてくれる「(アメリカの)正義の味方」の誕生秘話、ないし「(アメリカにとって)正しいテロリスト」の理想像の提示、なのかもしれない。こうなりゃ個人的にはアメコミのヒーローとして『ソードフィッシュ』マンと『アンブレイカブル』マンを闘わせてみたい。トラちゃんVSブルース・ウィルス、かなり皮肉の効いた漫画になりそうな気がするのだが……。あ、でもこの映画は「ミスディレクション(誤誘導)」がキイワードになってるので、僕の観方も「ミスディレクション=誤読の仕掛け」にひっかかってるのかもしれないなぁ……「真相」は劇場で観て確かめて欲しい(笑)。

製作は『マトリックス』のジョエル・シルバー。監督は『カリフォルニア』『60セカンズ』のドミニク・セナだ。主人公、天才ハッカーのスタンリーを演じているのは、『Xメン』で主役のウルヴァリンを、公開中の『恋する遺伝子』ではヒロインを慰めるお調子者エディを演じたヒュー・ジャックマン。今回も一応主役だけど、役回りは悪役をひきたてる側かな。娘との親子愛はちょっと『ブロウ』のジョニー・ディップの役回りとダブる感じ。ラストは『ターミネーター』を思い出したりもした。で、彼を誘惑してハッキング計画に引き込むジンジャー役は、『Xメン』でストームを演じたハル・ベリー(他に『ブーメラン』『フリントストーン』『エグゼクティブ・デシジョン』など)。『ブルワース』ではブラック・パンサー(黒人解放運動の過激派グループ)の娘役でウォーレン・ビーティとラブ・シーンやってたっけ。今回は(も?)お色気パートを担当して「不二子ちゃん」系の魅力を発揮するのに、その割に寸止めなのがちと惜しいかも。悪者のボスの愛人かと思ったら主人公に気があるヒロイン、と思わせて実は潜入捜査官、と思わせて実は……と観客の感情移入を二転三転させてくれるなかなか面白い役である。さて、本作で一番いい役どころなのが、その悪役のボス、大胆不敵な犯罪を計画する謎のグループのリーダーを演じたジョン・トラボルタだ。『サタデー・ナイト・フィーバー』でデビューしてディスコ・スターのイメージが強烈だったせいか一時役に恵まれず、『パルプ・フィクション』で復活して『シビル・アクション』『パーフェクト・カップル』『フェイス/オフ』などで活躍。でも『バトルフィールド・アース』で評判を下げたと思ったら、本作でまたもや大復活って感じ。『パルプ・フィクション』には出世作でのディスコ・アンサーのパロディがあったけど、本作はその『パルプ』なギャング像のパロディやら『フェィス/オフ』のすり替え整形ネタ(ニコラス・ケイジと外見を取り替える設定のムリさ、善玉と悪玉が入れ替わるアイデアなども)へのオマージュというかパスティーシュもあって、トラちゃんファンはニヤニヤすること必至である。また彼の手下の大男マーコ役を『ロック、ストック、トゥー・スモーキング・バレルズ』『60セカンズ』『スナッチ』のヴィニー・ジョーンズ(本物のヤーさんみたいだけど、実は元プロ・サッカー選手だ)、犯人グループを追う刑事ロバーツ役を『ブギーナイツ』『トラフィック』のドン・チードル、上院議員にして極右のライズマン議員を名優サム・シェパード(『ライト・スタッフ』『パリ、テキサス』『ヒマラヤ杉に降る雪』『ハムレット(00)』など。脚本家、監督でもある)が演じている。カッチョいい音楽はアシッドハウスの生みの親、ポール・オーケンフィールド。80年代後半のロンドンでプログレッシヴ・ハウスの全盛期に活躍し、90年代のエレクトロニカ・ブームを先導した“世界最高のDJ”(DJマガジン誌)で、U2やローリング・ストーンズ、スヌープ・ドッグ、ビョークなどのリミックスも手がけているとか。

●オマケ:『ソードフィッシュ』と『バトルフィールド・アース』というトラちゃんの「テロ映画」について

「黒人解放運動の指導者、マルコムXはこんな風に言っている。『私は自衛のための暴力を、暴力とは呼ばない。知性と呼ぶ』」----金城一紀『GO』P21より

『ソードフィッシュ』の終わりの方で、ニュースにアメリカ大使館爆破テロの首謀者である世界的テロリストというのが「ビン・ハサード」とかいう名前でチラッと出てくる。ビン……ってやっぱし“アイツ”の事なんだろうなぁ。そうかあ、つまりこの映画の世界の中では、あの大惨事は未然に防がれて、“アメリカの敵”である反米過激派の連中は、“自警団”的テロリストによって退治されてめでたしめでたしってことになってるワケね。要するに、この映画は“よいテロリスト”はいかにあるべきかって話なのだ。ん? よいテロリストと悪いテロリストってあるのか?

『ソードフィッシュ』がジョン・トラボルタ主演と聞いて、つい観逃してた(嘘)彼の前主演作『バトルフィールド・アース』をしかたなく観ることにした。アメリカの新興宗教の教祖のSF小説が原作で、本国でラズベリー賞を総なめしたというこの映画。うっかり見ちゃうとサブリミナル効果で『ダイアネティックス』を読んでしまいサイエントロジー教に入信しちゃうとか、いやいや脳ミソが腐るんだとか、そんな感じの噂を耳にして、つい要らぬ心配をしてたんだけど、「ええいっ」と覚悟して見た。……心配は杞憂だったけど、聞きしに勝る“おバカ映画”であった。一部にカルト人気の『シベ超』のように後世に残るかもしれない。ストーリーは西暦3,000年の地球で、遠いサイクロ星から来た宇宙人に滅亡寸前まで追い込まれた人類(退化してる)が、現地担当のサイクロ星人の汚職の手伝いをさせられつつ隙を見て、ついに逆転勝利する話。お金はかかってるみたいで所々に立派な特撮映像もある。でもなんというか、こーゆーのをSFをバカにしたSFもどき、「サイファイ映画」っていうんだろうなぁって思った。あと、『猿の惑星』をチラっと思い出しつつも、「植民地の支配者の圧政に立ち上がる原住民」って使い古された黄金パターンを、覇権主義バリバリのアメリカ映画が今更やるかぁって気分もした。『バトルフィールド・アース』でトラボルタが演じてるのは、サイクロ大学を首席で卒業しながら、地球という未開地域へ派遣されて、「くそう出世して本社に帰り咲いてやる」と野心を燃やす不遇な男(でもナマズヒゲ)。出演者の中でドル箱スターはトラボルタのみのためか、やたら彼の描写が細かいのが笑える。あくどい老上司とこすっからい部下に挟まれた中間管理職で、酒場でクダまいてるとか、エロい女サイクロ星人を出世の武器にしたり、コネがないのを嘆いたり、なんてのもバカバカしいくらい人間臭い。そのくせ人間を下等動物だと思ったり思わなかったりする扱い方をいろいろやってて「どっちやねん!」と言いたくもなる。口癖は「相手の弱みを握れ!」なので(あ、サイエントロジー教の「教え」ってこれなのか)、とにかく彼も彼以外のサイクロ星人も人間も、みーんな嫌な性格になっていく。部下を脅し、上司を騙し、地球人にまでその遣り口、つまり「相手の弱みを握って脅して、言うことを聞かせるべし」を伝授するので、それを学んだ地球人に、見つからないよう悪巧みをされて、あっけなく敗れてしまう。なんともトホホな結末だ。

それよりこの映画、「サイクロ星人=アメリカ覇権主義の人、退化した地球原住民=イスラム原理主義過激派の人」として見れば、今回のテロ事件がすっきり読み解けたりもするってのが不気味に面白いのだ。サイクロ星人は自分達の言葉を地球人に学習させて、飛行シミュレータで飛行機械の操縦の仕方まで教える。隠しカメラを仕掛けて弱みを握る方法とかも。んで、彼らサイクロ星人の呼吸してる大気が放射能と反応して爆発する(ゆえにナマズヒゲ型の呼吸器を鼻の穴に差し込んでるって設定)ってんで、人間側の決死隊が核爆弾抱えてサイクロ星にワープ、連鎖反応で惑星がドカンってな感じで爆発しちゃうのだ。これって、アラブ系移民が英会話習ってシミュレータで飛行機の運転の仕方を学んで、んでアメリカで自爆テロするってのと同じじゃん! そうか! 『バトルフィールド・アース』ってタリバンのテロリスト養成バイブルだったのかぁ……。とすると、『ソードフィッシュ』は反『バトルフィールド・アース』、カウンターテロの推奨テキストだと言えるかも知れない。アメリカ側に立つ「正しいテロリスト」(?)をどうやって成立させるかが、この作品の隠しテーマになってる、ような気がするのは、穿った観方過ぎるかなぁ……。テロの犠牲者を外交上「やむを得ない犠牲(コラテラル・ダメージ)」とするアメリカ外交筋をモチーフにしたらしい『コラテラル・ダメージ』が公開延期され、タイトルに国家主導の囮作戦名を冠した『ソードフィッシュ』が難なく公開されるってところに、何だか「アメリカの(ヤな)良識」を感じてしまうのだ。だって言ってみれば、映画『ソードフィッシュ』って、手品仕立てで凶悪犯罪を愛国的行動にすり替える詐術、いや逆か、狂信的愛国者のための軍資金調達ハウツー映画、そのためのマジック・マニュアルみたいなもんなんだからね。ま、そういう「遣り口」自体をメタ批評したシニカルな喜劇(『スターシップ・トゥルーパーズ』の系譜か?)だとも言えるんだけどさ。

とか書いてもゲンブツを観てもらわないと何のことだかわからんだろうから、「凄い特撮だけの映画か」と侮ってる批評家タイプの映画ファンの人にも、ぜひ観てじっくり分析してもらいたい。あ、某TVブロス22(10/27-11/9)号のクロス・レヴューで「ストーリーがよくわかんないんですけど」ってのはオバサン批評家の主観(実は批評的イディオムとしての「感想口調」なんだけど)として全然OKとしても、別の某氏の「脚本家が無能」とか「演出のイロハも知らない監督」とか紋切り型の口汚い批判をしてる何か勘違いしてると思う。その下でプチグラ伊藤&ミルクマン斉藤が「よく公開できるなと不思議なほどヤバくて面白い」「なかなか推進力のある脚本もいいね」とかホメてる(「謎の核心があまりにもアヤシ過ぎる」説も含めてサスガなお二人!)のと並べて読むと、不感症で硬直した感性が垣間見えて、ただの知ったかぶり野郎みたい。もう一人の某氏の「あまりにもプロットが強引すぎる」説には肯いてもいい。けど、娯楽アクション映画で、強引でもご都合主義でもない話を観たことがないような気もするから、これでいいのだ。と、バカボンのパパになって(今回は喋り過ぎなので)ここらへんでオクチにジップしよう。


Text : 梶浦秀麿


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