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17世紀、イギリスやスペインとの覇権争いに明け暮れるフランス。仏王ルイ13世(ダニエル・メスグイッチ)は、野心を持つ枢機卿リシュリュー(スティーヴン・レイ)に操られるままであった。パリから離れたガスコーニュの村の朝。少年ダルタニアンは、元銃士で今は足が不自由な父から剣を教わっていた。「よし、守りを焦ると隙をつかれるぞ。そんなことでは国王親衛隊である銃士にはなれんぞ」「銃士が朝食前に畑仕事を?」と生意気な口をきく少年。だが彼は父をとても尊敬しているのだ。そこに黒装束の騎士が数名の仲間を連れてやってきた。「俺を忘れたか」「国王の紋章は?」とその男と父とのやり取りは険悪だ。「父は欧州一の剣士だ」と口出しするダルタニアンに「いや二番目だ」と返すその男は、今やリシュリューの私兵をまとめるフェブル(ティム・ロス)だった。税金を取り立てに来たという口実で、「泥棒め」と父を侮辱する。「王も税金、教会も税金、枢機卿も税金か!」といきり立つ父。「プランシェは?」「ここにはいない」「泥棒で、嘘つきか」。思わず少年が走り寄るが蹴り倒され、助けようとした父はフェブルに一瞬にして仕留められる。母もだ。思わず剣を抜くダルタニアンは、フェブルの顔をかすらせる早業を見せるが、蹴り倒されて昏倒してしまった。夜になって、老プランシェ(ジャン・ピエール・カスタルディ)が戻り、両親の墓を作って育ての親となる。「私が教えるのは人の殺し方ではない。人間としての生き方だ」とプランシェは言う。「そうすれば先生に?」とダルタニアン。うなずく老剣士……。
そして14年後----1625年。4頭立ての古ぼけた馬車が、村の酒場に立ち寄る。降りてきたのは成長したダルタニアン(ジャスティン・チェンバース)だ。食糧を調達しようとして荒くれ者と一悶着。飢えた子供がパンを盗もうとしただけなのに、殺そうとした騎士らを諫めての闘いだが、奇抜な戦術で圧倒する。と、「見物に来た」とトボケて言うブランシェを人質にとられるが、ハッタリをかまして退ける。「撃ちゃいいのに」とダルタニアンが言うと、ブランシェはサッと二丁拳銃を回して茶目っ気をみせるのだった。同じ頃、スペイン王の特使の乗った使節団の馬車が、片目に眼帯をした黒装束の男が率いる集団に襲撃される。冷酷に惨殺を終え、去り際に青い銃士の服を捨ててゆく。銃士が疑われ、トレヴィル銃士団長が投獄された。パリに到着したダルタニアンは、トレヴィルを訪ねて銃士達の詰め所へ。中はガランとしていて、たまたまいたらしきポルトス(スティーヴン・スピアーズ)とアラミス(ニック・モーラン)と名乗る二人は朝から酒浸りだ。「銃士だ」「アンタらが?」「そういうな、今は肩身が狭い身だ」と窮状を訴えるポルトスに、ひとまず宿を紹介してもらう。眼帯男=フェブルは枢機卿に呼ばれる。「行き過ぎだ。私は戦争する気はない。……英国からバッキンガム卿がくる。誰も殺さず、王に恥をかかせろ」「もしも殺さねばならない時は?」「好きにしろ」。 一方、ダルタニアンは紹介された宿で、王妃(カトリーヌ・ドヌーヴ)と懇意だというメイドのフランチェスカ(ミーナ・スヴァーリ)の美貌に見とれていた。だがやることは迅速にやる。その夜、トレヴィル団長を救うために銃士二人を誘って牢獄を急襲する。枢機卿の部下15名対3人の闘いだったが、見事に団長を救出。ブランシェの馬車で隠れ家まで送り届け、ダルタニアンは晴れて銃士に認められる。乾杯の儀は、剣を合わせて「我らは剣士、結束は固い(One for all. All for one.)」だ。そのまま銃士達がたむろする酒場へ連れて行かれるが、「ナイフ投げもできないのか、剣ならどうだ?」と挑発するアトス(ジェン・グレゴール・クレンプ)にゲンナリするしかない。やけ酒の仲間達。明日の王と王妃の晩餐会は何か不穏な気配があるというのに……。宿に戻るとフランチェスカの叔父だという宿主が、彼女の風呂を盗み見しているのを発見。だが誤ってダルタニアンが彼女の部屋に落ちてしまう。紳士的で純情な彼に惹かれるフランチェスカ。「鼠を追ってた」と言い訳する宿主に「また王宮の下水工事係に戻りたい?」と彼女が言う。閃いたダルタニアンは「ワニが出る」という噂もある下水道をつたって王宮の調理場へ。フェブルは貧民街で浮浪者を金でかき集め、農夫の暴動を装わせて王宮に乱入させる。何人かは手練れの剣士が混じっていた。隙あれば王妃らを暗殺しようという腹づもりだ。コックやウエイターに扮していたダルタニアンと三銃士によって、王と王妃はなんとか救出され、事なきを得るのだった。 だが翌日、さっそく枢機卿の部下達がダルタニアンの宿を捜索に来る。フランチェスカのおかげで彼らをまいて、単身、枢機卿の部屋へ。何とか彼を取り込もうとする枢機卿に、ダルタニアンは王党派の正義感で答える。「君は正直だな、そして愚かだ」と枢機卿が語るのも聞かずに去る。「欲のない人間は扱いにくい」と側に潜んでいたフェブルに語る。やがて銃士達が次々に捕らえられ始めた。仲間を助けようとする三銃士達だったが、ダルタニアンはフランチェスカの頼みで秘密行動をとることになっていた。彼女に協力を求めた王妃は、不甲斐ない王にかわって、イギリスとの戦争を回避しようとバッキンガム卿に田舎町ブリオンヌで秘密裏に会おうとしていたのだ。仲間の救出に加わらない彼を軽蔑する三銃士。だが変装した王妃を守っての「フランスを救う旅」は、もっと大変だった。フェブル達は執拗に追っ手を差し向け、草原を駆ける馬車を襲う。馬上での長い格闘の末、何とか逃げ切って、王妃を古い友人の家へ送り届ける。だが帰り道に油断したダルタニアンは、フランチェスカを奪われ、銃で撃たれて川に流されてしまう。フェブルはフランチェスカのネックレス「ブリオンヌの涙」から王妃の居場所を割り出し、村の幼い少女の命と引き替えに、王妃に「秘密会談はドゥシャン城に変更」という偽の手紙を書かせる。フランスに着いた英国使節バッキンガム公爵も、まんまと騙されてドゥシャン城で捕まってしまう。何とかブリオンヌに戻ったダルタニアンは、人質になった少女にそのことを聞かされ、仲間を求めてパリへ愛馬ストレガを疾駆させる。フェブルは銃士団長を脅かして、ダルタニアンが自らの眼帯の由縁となった少年だと知り、怒りにまかせて団長を惨殺して銃士の詰め所に放火する。枢機卿も、自分の懐刀がもはや手に負えなくなっていた。「あいつは狂ってる」とダルタニアンにフェブルと闘うよう指示する枢機卿に、「あなたのためじゃない」とダルタニアンは言い返す。酒場でクダを巻く銃士達だったが、必死に戻ったダルタニアンを信用せず、協力してくれそうもない。このままでは王妃はバッキンガム公爵との不倫の濡れ衣を着せられ、フェブルの根拠地であるドゥシャン城で殺されてしまう、フランチェスカもだ。一人、決死の覚悟で敵の居城に向かうダルタニアン。その後ろから、一人、また一人と仲間達が現れた。王室近衛銃士団VSフェブルらとの最後の決戦の火蓋は切って落とされた……! 過去、何度も何度も映画化された“三銃士(ダルタニャン)もの”の最新ヴァージョンは、なんと香港映画のワイヤーアクションを取り入れた、ハリウッド流ニュー娯楽アクション時代劇だ。ちょっと西部劇みたいな酒場での格闘や、疾走する馬車とインディアンもとい騎馬集団との長〜い闘い、さらに豪華な晩餐会での混戦もあれば、その調理場やクライマックスの梯子上での一騎打ちなど「カンフー映画かい!」って突っ込みたい「周囲にあるもの何でも使え!」的活劇シーンまである。とにかく盛りだくさんの殺陣に素直に喜ぶのが、この映画を楽しむ秘訣だろう。基本的に復讐譚であるストーリー自体は、シンプルにしようとしつつも、なかなか細かいこだわりがあって、ディテールを追う愉しみ方もありそうだ。少し大味だったり混み入ってるように感じるところもあるけど、「復讐だけに生きるな」とか、いろいろ言いたいことは山ほどあったみたいで、小さなシーンに良かれ悪しかれ印象的なのが多い。例えば人質になった幼い少女が、自分の首筋の傷をダルタニアンに見せて、「この仕返しを」とキッと言う凛々しさとか、晩餐会でウエイターに扮したダルタニアンを艶っぽい会話(剣とアレをひっかけた小ネタ)でからかう貴婦人のシーン(オチもないので熟年向けギャグかな)とか……。そういう本筋に不必要でもある小ネタがアチコチに入ってる分、ドライブ感を途切れさせるきらいもあるのだが、ま、「盛りだくさんで様々な愉しみ方ができる」ってホメ方は可能だろう(映画としてはダメなんだけどさ)。 僕としては、なにより「黒い悪魔」、「メン・イン・ブラック」とあだ名される眼帯の黒騎士フェブルが凄くイイ!と思ったのだった。残忍で冷酷、太刀捌きのあっけないまでの素早さ、騎馬民族のように俊敏に馬に乗る格好よさ、悪魔のような狡知・狂気etc....。こりゃあまるで『SW』のダース・ベイダーに匹敵する“悪の魅力”だ。演じているのは『PLANET OF THE APES 猿の惑星』でもチンパンジーの悪役セード将軍を熱演していたティム・ロス(あ、スタントがやってる部分もあるけどね)。本作の見どころは、まず彼のなりきった悪役フェブルにあると個人的には「必見」と言っておこう。この映画のハードでソリッドな側面を、彼一人で醸し出してるのを感じて欲しい。あ、もちろんクレジットされてる順だと、カトリーヌ・ドヌーヴ(『ダンサー・イン・ザ・ダーク』など)がトップ。さすがの名女優ぶりで王妃を演じ、ちょっとコミカルなシーンでも無理なく活躍。二番手がヒロインで宿のメイドのフランチェスカ役のミーナ・スヴァーリ(『アメリカン・ビューティ』『恋は負けない』『アメリカン・パイ』など)、原作ではコンスタンスに相当する役だが、なかなか美味しい勝ち気な娘を好演。主人公とは、うっかり裸を見られ合う場面(「女の裸は初めてなの?」「全裸はね」ってお風呂シーンと、裸で寝てるダルタニアンを起こしてうっかり見た「ご立派よ」シーンの対比が笑える)はあるのに、ラブ・シーンはほのぼのヴァージョンのみってのが微妙なとこか。後半では強い女ぶりを露わにしたりもするのだった(撃たれてもケロッとしてたり、馬車に乗り込むのも介添えを頼まない勝ち気ぶりにちょっと唖然とするけど)。そして三番目が枢機卿リシュリューを演じるスティーヴン・リー(『クライング・ゲーム』『ことの終わり』『写真家の女たち』など)、で、ティム・ロス演じるフェブル(原作ではローシュフォールに相当する)と来て、5番目にクレジットされるのがダルタニアンを演じるジャスティン・チェンバースなのだ(『ウェディング・プランナー』でジェニファー・ロペスに求婚する陽気なイタリア系青年を軽薄に演じてた。モデル出身の新進俳優だ)。主役なのに5番目……。これは演技力+知名度の順なの? なんにせよ、豪華な脇役陣に支えられた厚みも、本作の見どころになっている。 個人的には『カプリコン1』がベストだと思う職人肌のピーター・ハイアムズ(他に『ハノーバー・ストリート/哀愁の街かど』『アウトランド』『2010年』『レリック』『エンド・オブ・デイズ』など)が監督で、撮影も行っている。また武術監督(スタント・コレオグラファー)に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明』などで有名なシャン・シンシンを迎えて、香港ワイヤーアクションによる斬新な格闘シーンを導入。でも背景(フィリップ・ハリソン)や衣装(レイモンド・ヒューズ)にはリアルさを追求して、当時の薄汚れた感じ、電気なんてない時代の雰囲気を再現しようとしてもいる。さらに音楽(デイヴィッド・アーノルド)はジョン・ウィリアムズばりの勇壮さで迫る(そのそれぞれは凄くいいのだけど、それゆえの全体のミスマッチ感覚にはちょっと途方に暮れるかも)。 さて『三銃士』と言えばアレクサンドル・デュマの名作『ダルタニゃン物語』三部作の第一部にあたるもの。この第三部からチョイスされた映画がデカプー主演の『仮面の男』だったんだけど、本作はその30年前の話なワケだ。どうもこの2作だけだと三銃士そのものの魅力がイマイチ伝わらないかもなぁ。この『ヤング・ブラッド』、原題は『The Musketeer(銃士)』ってなっていて、三銃士(The Three Musketeers)より、あくまでダルタニアンを主役として描いたものなのだった。最近、署名運動で日本版全11巻(ブッキング刊)が復刊したので(講談社文庫版は図書館か古本屋でさがそう)、興味を持った人は挑戦してみるべし。もちろんディズニー版『三銃士』をはじめ、映画も数十種類あるので、この機会にいろいろ観比べてみるのもいいかもしれない。 Text : 梶浦秀麿 Copyright (c) 2001 UNZIP |