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「羊の群れに紛れた狼は、さみしい牙で 己の身を裂く」----とある初夏の地方都市。高校生の高城一砂[タカシロ・カズナ](小栗旬)は最近、無性に眠い。そして滴る赤い液体と少女のイメージの夢を頻繁に見る。平穏な学校生活への疎外感を感じているが、その表現の仕方がわからないでいた。「みんなよく笑う……ヤエガシはめったに笑わない。そこが気に入っている」----八重樫葉[ヤエガシ・ヨウ](美波)は同じ美術部員で、彼に好意を寄せていた。だが、唐突な発作がカズナを襲う。心配げなヤエガシに、彼は貧血だと言い訳する。カズナは幼い頃に母が他界し、叔父の江田夫婦のもとに預けられて何不自由なく育った。だが、そろそろ養子にならないかと言う叔父さん(田中健)と叔母さん(永島映子)に、何故かいい返事ができない。病弱な姉だけを連れ、自分を捨てて去った父、志砂[しずな](利重剛)へのわだかまりがあったのだ。彼はふと、4駅ほど離れた生家を訪ねることにする。誰もいないはずの古い屋敷には、姉の千砂[チズナ](加藤夏季)が独りで住んでいた。父は半年前に自殺したらしい。そのことを叔父夫婦から聞かされていなかったカズナは、ますます不信感を募らせる。ヤエガシにスケッチのモデルを頼まれたカズナは、彼女の手に付いた真っ赤な絵の具を見てまたしても発作に襲われる。彼女の血が欲しい----ヤエガシを押し倒した彼は、我に返ると逃げ出してしまうのだった。チズナから聞いた母方の一族だけに伝わる病を発症したことに愕然とするカズナ。高城家の者は、人の血が欲しくなる吸血鬼病の家系なのだった。ヤエガシも、叔父夫婦も傷つけたくない彼は、心にもない悪態を付いて彼女達を遠ざけ、姉との二人暮らしを選ぶ。夏休みということもあって、古い屋敷で文字通り傷を舐め合いながら静かに暮らす姉弟。「自分を守ってくれる」といった父を失い、死を望んでいた姉は、弟という「病を分かち合える仲間」を得て、二人だけの世界を築き上げようとしていた。医者だった父の弟子である水無瀬[ミナセ](鈴木一真)は、チズナに恋心を抱いていたのだが、治療不可能なこの病に罹った者は、センチメンタルな疎外感に酔うことに懸命で、彼の気持ちに応えることができない。「私達が死ねば終わるから……私とカズナ、この世で二人だけ」……。一方、ヤエガシはカズナの本心が知りたくて執拗に彼を追い、病気の秘密を知ってしまう。それでも彼を想うヤエガシは、ある行動で彼の閉じた心を開こうとするのだった……。
思春期の疎外感や存在の不安、抑えがたい性衝動なんてのを「吸血病」という架空の病でシンボライズした、なんともセンチメンタルな10代の青春「ひと夏の経験」モノ。と言っちゃえば身も蓋もないけど、原作の漫画自体がいかにもAC(アダルト・チルドレン)向けな同人誌的ファンタジーなので、それを図らずも批評的に再構成して明確に映画化してみせたって功績はホメるべきかも。いくらでも暗く重くなりそうな題材を、すがすがしい後味の残る映像で表現しているのは、「ホラー・タッチで始めておいて、逃げてんじゃん」とも批判できそうだけど、まあすっきりしていてよい……のかなぁ。僕は登場人物の名前(一砂に千砂に葉、どう読むの?って感じ)だけでNGって気分になってしまったけど、『エヴァンゲリオン』から『永遠の仔』に連なる系統でのカルト人気漫画であることは確かなので、原作ファンは必ず劇場に行くべし。 |