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函館の高校生、日野ひかる(宮崎あおい)がある朝目覚めると、お尻にシッポが生えていた! 大正湯という銭湯の次女である彼女は思わず悲鳴を上げる。同じ頃、団地でも悲鳴が上がった。父一人娘一人でがんばる市役所勤めの古田はるお(大泉洋)も、便所でシッポが生えてることに気づいたのだ。キタキツネの、らしきシッポはいったい何故いきなりこの二人のお尻に生えてしまったのだろうか? さて、なんとかシッポを隠して学校へのバスに飛び乗るひかるを、三流ゴシップ紙「函館スクープ」の記者、早川(萩原聖人)が激写してしまった。部数アップを目指す編集長(木下ほうか)の命を受け、早川はシッポ人間を探し回ることになるのだった。学校では好きな隼人君(勝地涼)を、ぎこちなく無視してしまい、体育も見学するひかる。「秘密守れる?」と明かした親友の千穂(野村恵里)は、ここぞとばかりに隼人に接近し、とってもブルーな状況に陥るのだった。やがて父(徳井優)も母(松田美由紀)も赤毛のみちる姉ちゃん(松田一沙)も巻き込んでしまうことになり、噂も広まって函館はてんやわんやの大騒ぎに。一方、娘まゆ(前原星良)の保育園の保母さん(栗田麗)に好意を持ってる古田さんだが、とても打ち明けられず、役所でも隠し通すのだが、ある時、まゆの描いた「パパの絵」にシッポが……。開き直ってカミングアウトしたひかるだったが、事態は思わぬ方向へと二転三転。はてさてこの騒動の結末はいかに?
函館を舞台にしたキュートな「ほのぼの系ファンタジー」映画である。青山真治『EUREKA(ユリイカ)』や塩田明彦『害虫』に暗い女の子役で出てた宮崎あおいの主演作で、その前2作を観た人は「おお!彼女が笑ってる、明るい! カワイー」なんてビックリするかも(笑)。彼女をアイドル的に描いた映画でもあるので、一人でバスに乗ってたりするシーンがプロモ・ビデオのように妙に長かったりするのは愛嬌か。プロモ・ビデオといえば、この映画、函館観光映画の趣もあるのだった。冒頭の銭湯の前のシーンでは、カット毎に観光馬車が行き来したりする(やり過ぎのような気も……)し、函館山からの夜景やロープウェイをバックに恋愛成就(これも何度もロープウェイが横切るが)など、行ったことがある人にはロケーションが懐かしくも嬉しい感じ。沖縄映画や奄美観光映画が立派に成立してるんだから、「函館映画」ってのもあってもいいかと思わせるのだった(TVの観光地殺人事件や駅名殺人事件ものについてはひとまず置いとくとして)。「キタキツネ」「エキノコックス」に「ピップエレキバン」もどきと北海道ネタで味付けされた映画はめいっぱいマーケティング発想というか環境協会発想なんだけど、しっかりマスコミ批判もあり、等身大の現代風の乙女心の描写もあり、なにより感動できる家族愛が描かれているのがいい。最初はさんざん持ち上げて、すぐ貶しまくる、みたいなマスメディアの習性を皮肉ってるのもアリガチだけど面白い。しかもクライマックスはちょうどタイムリーに20周年記念再公開の『E.T.』パロディってのも微笑ましいのだった。「モー娘。」のせいで何でも「。」つけるのが流行ったけど、この映画ではタイトルからもわかるように、街中の「ハ」行が何でも「パピプペポ」になっちゃうシーンがある。これはなかなか新鮮な現代アート的驚きがあってウヒャウヒャ笑ってしまった。 1999年函館港イルミナシオン映画祭・第4回シナリオ大賞の準グランプリ作品である今井雅子の脚本を、『GLOW/僕らはここに…』『sWinG maN』の前田哲が映画化したもの。2001年函館イルミナシオン映画祭でプレミア上映され、2002年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にも出品され、北海道地区で先行上映されている。主題歌・挿入歌を、北海道出身のガールズ・バンドWhiteberryが担当。主題歌の「炭酸水」は『カメレオン』に収録されている。さてキャスト。冒頭に書いた宮崎あおいはこの後、中原俊『富江 最終章』や及川中『ラヴァーズ・キス』(ん? これって吉田秋生の?)が控えてる弱冠15歳にして演技派と注目されてる女優である。前田哲カントクと『モンスターズ・インク』を観た感想「わたしはたくさん笑いましたが、監督は泣いていたようです(笑)」ってのがスタジオ・ボイス5月号に載っていたので読んでみよう。あと思ったより出番が少ないのが個人的にちと不満な公務員・古田さん役の大泉洋って、TV「パ・パ・パ・パフィ」でさんざん「気持ち悪い」とかいじくり回されてたヒトだよなぁ確か。そう思ってみるとより味わい深いかも。あと調査団長役で田中要次がカメオで出るとか細かい遊びも多い。あ、宮崎あおいの家族、父親の徳井優(「引っ越しのサカイ」のCMでブレイク)も、母親の松田美由紀もいいんだけど、特筆すべきは赤毛の姉、みちるを演じた松田一沙(『死びとの恋わずらい』『リリイ・シュシュのすべて』)。彼女の赤毛にまつわるエピソードは泣かせる。つー感じで、キタキツネ型のシッポが生えるSF的根拠や、クライマックスに唐突に出てくる調査団って何とか、いろいろ腑に落ちない部分とか展開の甘さとかはあるけれど、なんだかホノボノできるのは請け合うので、ぜひ劇場で観てみて欲しいのだった。 Text:梶浦秀麿 Copyright (c) 2001 UNZIP |