[翼をください] Lost and Delirious
2002年4月27日よりシネスイッチ銀座にて公開

監督:レア・プール/原作:スーザン・スワン『The Wives of Bath』/脚本:ジュディス・トンプソン/出演:パイパー・ペラーボ、ジェシカ・パレ、ミーシャ・バートン、ジャッキー・バロウズ、グレアム・グリーン他
(2001年/カナダ/1時間40分/配給:アルバトロス・フィルム)

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父からは「マウス(鼠ちゃん)」と呼ばれていたメアリー・ブラッドフォード(ミーシャ・バートン)は、トロント郊外にある女子寄宿学校へ向かう父の車の中で、憂鬱な想いに捕らわれていた。3年前に母が癌で死に、再婚した父と継母に疎まれるようにして、ここに入れられることになったのだ。母の形見のコンパクトに映る自分の顔に、亡き妻の面影を見てしまったらしい父、だが自分はその最愛の母の顔が、ぼやけて思い出せなくなっていた。それが哀しい……。同室のルームメイトはグラマーな優等生らしきヴィクトリア・モラー=愛称トリー(ジェシカ・パレ)と、イカレた不良娘らしいポーリーことポーリーン・オースター(パイパー・ペラーボ)。「迷子になった娘たちの巣へようこそ」と歓迎の辞を述べるポーリーは、フェンシングの名手でもあるが、パーティのパンチにこっそりジンを入れて皆を酔っぱらわせるような問題児だ。だがフェイ・ヴォーン校長(ジャッキー・バロウズ)は彼女をも暖かく見守っていた。ポーリーは、里親会に頼んで本当の母親に会いたいと手紙を出すような孤独を抱えてもいたからだ。良家の子女であるトリーもまた干渉しすぎる親への屈託があった。こうして内向的なメアリーも、やがて親に見捨てられたもの同士として認め合うことになる。トリーとポーリーがベッドで愛し合う姿を目撃して、最初はびっくりするのだが、ふたりの愛し合う様がごく自然なので、次第に慣れていくのだった。ポーリーは誠実なメアリーを「勇者(ブレイブ)」と呼んだりもする。そのメアリーは母の好きだったガーデニングをしたいと勇気を出して庭師のジョー(グレアム・グリーン)に手伝いを申し出たりもするのだった。3人でジョギングしている時に、傷ついたハヤブサを見つけ、ポーリーはその猛禽を世話することに執着し始める。だがある朝、お調子者のトリーの妹が仲間達と突然部屋を訪れ、姉とポリーが同じベッドで裸で寝てるのを見てしまう。噂が広まりそうになり、古い良識を持つ親に知れることを恐れたトリーは、ポーリーとの関係を解消、ノーマルであることを誇示するために近くの男子校の生徒とつきあい始めるのだった。だがポーリーはそれが許せなかった。トリーとの絆が永遠の愛だと思い込んでいた彼女は、授業での反抗的な態度もエスカレートし、もどかしい情熱を制御しきれなくなっていく。だがトリーには親や世間体を憎みながらも、それと闘う勇気はなかったのだ。どちらの気持ちもわかるメアリーは、二人の間に立ちながら、ただ見守ることしかできなかった。そして親を招いてのディナー・パーティーの後、事態は衝撃的な展開を迎えることになる……。

亡き母を想いながら寄宿学校で成長する一人の少女が観た、ルームメイトの女子同士の激しい愛の顛末----その純粋さ故に傷つくティーンの少女達の姿を、授業でのシェクスピア解釈や野生の猛禽ハヤブサの調教などをディテールにして描いてゆく思春期映画である。「女の園」での閉じた平和と、閉じているが故のガーリィな想いの激しい痛みを、女流監督らしい筆致で捉えたもので、往年の美少年ギムナジウムもの少女漫画の「女子版」、というか女学生版『ifもしも…』というか、要するに思春期レズ問題をテーマにした映画だ(もっともペラ坊演じるポーリーは「レズじゃない、好きなのはトリーだけ」と叫ぶのだが)。『ヴァージン・スーサイズ』な『ボーイズ・ドント・クライ』、あるいは哀しいヴァージョンの『ショー・ミー・ラブ』とか、いろいろ似た作品を考えたくなってしまった。細かいエピソードのいくつかが興味深い「ガーリィ要素」を匂わせていたり、『マクベス』の授業で「愛なんて!」ってマジに議論し合うシーンなどの文学趣味も面白いんだけど、欠点はそれらのディテールがうまく繋がってなくて、そのせいもあってか語り手の少女マウスのエピソードが未消化であることかな。「学園は50年代のように平和だった」なんて老成した独白が途中にあったりして「その頃をなんで知ってるねん!」とツッコミそうになったんだけど、彼女の結末での成長モノローグなどは、本当はもっと歪まないといけないのではないか? そんな風に思ったんだけど……。

カナダのトロントにある全寮制の女子寄宿学校で実際に起こった事件を基にして書かれたスーザン・スワンの小説を、ジュディス・トンプソンが脚色、『愛の瞬間』『Emporte-moi』などフランス語映画を撮り続けてきたカナダの俊英レア・プール監督が映画化したもので、彼女の初めての英語作品でもある。主演の不良ポーリー役は『コヨーテ・アグリー』主演のペラ坊ことパイパー・ペラーボ。相手役のトリーを演じるのはカナダの新鋭ジェシカ・パレ。彼女の豊かな胸とペラ坊のペチャンコな胸が絡み合う大胆なヌード・シーンは「男子」もドキドキするかもね。でも僕は『キャメロット・ガーデンの少女』『ノッティングヒルの恋人』『シックス・センス』『パップス』のミーシャ・バートン目当てで観てしまったのだが、この語り手“マウス”役って脚本的に全然固まってなくって、戸惑い気味な感じがモノローグにあってないのが、ちょっと可哀想な気がしたのだった。だいたいミーシャ15歳、ジェシカ19歳、ペラ坊24歳って実年齢の差が凄すぎる。そこらを思いながら2度観るのも面白いかも。またハリウッド映画でも活躍しているグレアム・グリーンが、ネイティヴ・アメリカンの庭師の役で、『デッド・ゾーン』に出てたジャッキー・バロウズが女校長役で出演している。イメージソングは大木彩乃「それぞれの空」、エンドクレジットで流れるぞ。

Text:梶浦秀麿

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