[華の愛−遊園驚夢−] Peony Pavilion
2002年5月11日よりテアトル新宿他にて公開

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脚本・監督:ヨン・ファン/出演:宮沢りえ、ジェイ・ウォン、ダニエル・ウー、タン・マンジア、ジャオ・ジーカン他
(2000年/中国/2時間2分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ、グルーヴコーポレーション)

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「愛は知らずに芽生え、その根は深く根を張る……遠い昔、夢の中では阿片の香りが今も……」とラン(ジョイ・ウォン)が語るまま、想いは1930年代へ----退廃的な貴族文化が燗熟期を過ぎた頃の中国の水の都、蘇州へと向かう。美しき歌姫ジェイド(宮沢りえ)が、この地方の伝統的な歌劇=崑劇を舞っている。演目はヒロインが庭園で自らの青春の無為を憂う「遊園」、夢で出会った書生と幸せなひとときを過ごす「驚夢」----ともに戯曲『牡丹亭(Peony Pavilion)』の有名なエピソードだ。それはジェイドの(そしてランの)人生をも象徴していた。彼女は得月楼という酒場で歌っているところを大富豪ロン家の当主に見初められ、第5夫人として嫁いできたのだ。広大な庭園、贅を尽くした衣装に料理、華やかに仮装しての一族の宴……しかし実際には、阿片に溺れる老いた主人に命じられるまま、宴会の余興に歌を聴かせる、そんな愛のない日々を過ごしていたのだった。そんな彼女の舞いに、主人の従姉妹である男装の麗人ランが加わる。同性愛にも似たランとの愛に慰められるジェイド。だがデカダンな生活に溺れ、他の夫人達との皮肉なやりとりにも疲れ、自らも阿片に耽溺してゆくのだった……。やがて、貴族の家にも没落の影が忍び寄る。次々と家宝は売り払われ、ジェイドに献身的だった第二執事イー(ジャウ・ジーカン)は戦場へ向かう兵役につくことになる。ついにジェイドも暇を出され、幼い娘パールを連れて路頭に迷うのだが、女学校の教師として独り暮らしをしていたランを頼って、彼女を訪ねる。特権階級の生まれであるランは、貧乏な生徒に金を分け与えるような自らの偽善を厭いながらも、激動の時代の進歩的な職業婦人=「新時代の女」としての自覚を、自らに強いていた。そしてジェイド母子も喜んで受け入れるのだが、ある日、学校に教育部の役人という逞しい青年シン(ダニエル・ウー)が派遣されて来て、その強烈な魅力に夢中になってしまう。何故かジェイドには秘密にして逢瀬を重ねるラン。そのジェイドの身体は阿片の病に蝕まれつつあった。そんな時、ロン家から第二執事イーの戦死の報を伝えられ、彼の日記を渡されたジェイド。秘した想いが綴られた日記に目を通し、娘にせがまれるまま散歩に出掛ける。そこでランとシンに出会ってしまった。「あの日起きたことを私は一生忘れない」----ランはそう回想する。ジェイドとランの、今まで決して明確化しなかった想いは、そこでひとつの局面を迎えたのだ。そして……。

かつての中国上流社会の絢爛豪華な(退廃的でもある)美を、二人の女性の運命を通して描いた“お芸術派”のミュージカル・ヒューマン・ドラマ、かな。中国の富裕階級一族の没落を背景に、片やその富に囲われた歌姫(日本なら芸妓さんか)、片や自立した職業婦人=新時代の女(共産中国の指導的女性)という両極端な立場の女性像が提示されるんだけど、本来対立するものとして描かれそうな二人を、美意識という共通項で並立しようという意志が、少女趣味なセンチメンタリズムとして、よくも悪くも貫かれている映画なのだ。なにより政治的社会派的な主張を努めて排除しよう(隠そう?)とするかのごとく、つなぎの風景まで冗長に思えるような美しい絵面への「写真(静止画)」的こだわりが横溢している。んだけど、その分どうにも感情移入しにくい思いをしたのは僕だけか。前半、京劇のルーツのひとつらしい崑劇を、劇中ミュージカルとしてこれでもかと展開するんだけど、個人的にはその甲高い声での伝統劇を、珍しくは思えても素晴らしいと思えなかったので、この映画の観方としては損してるかもしれない。あ、二回観るといいのかな? ま、あくまで僕の個人的意見では、フレーミングも下手(寄りが不自然)だしテンポもタルい、映画としてはダメダメな気がしたんだけどさ……。でも衣装や調度は凄い金かけてるので、その豪華さをこそじっくり味わうのが正しい観方なのかもね。

本作で宮沢りえ(『豪姫』『運轉手之戀』など)がモスクワ国際映画祭・最優秀女優賞を受賞。フランス・ドゥーヴィル映画祭ではBEST IMAGE賞、香港批評家協会賞では最優秀撮影賞を受賞し、昨年の東京国際映画祭でも招待作品となった。そして米「タイム」誌の2001年傑作映画ベスト10では堂々4位にランクイン(これが僕にはよくわからん)----という、話題の中国映画である。監督・脚本はヨン・ファン(『美少年の恋』など)。欧米で芸術を学び、ファッション写真家として「ハーパース・バザー」や「Vogue」等で活躍。4冊の写真集を出版し、97年にはフランス芸術文化勲章を得ている。84年から映画監督としても活躍。ジェイドを演じる宮沢りえ、はソツなく薄幸の歌姫を演じている(でも前半は優雅に暮らし、後半も従姉妹の家に居候できるって……どのくらい薄幸なのか?)。で、語り手のラン役を『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』のジョイ・ウォンが演じている(男装の麗人にして女学校教師ってのが個人的には納得いかん無茶な設定に思えたけど)。んで『美少年の恋』でデビューしたダニエル・ウー(他に『ジェネックス・コップ』など)が、ランの情欲をかき乱す美男子として登場。彼のいかにもなジゴロめいた誘惑(挑発)の仕方は官能的ではあった。女性観客ならシビレルかも。

Text:梶浦秀麿

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