|
||
幼くして両親を失い、ニューヨーク郊外で叔父夫婦に育てられたピーター・パーカー(トビー・マグワイア)は、大学進学と幼なじみの同級生メリー・ジェーン(キルスティン・ダンス卜)への恋に悩む高校3年生。勉強は得意でも華やかさに欠けるピーターは、メリー・ジェーンに思いを寄せながらも心を打ち明ける勇気がない。ある日、課外授業で遺伝子組み替えのスーパースパイダーの見学に行くが、逃げ出したクモに刺されてしまう。そして、偶然にも自分に不思議な能力が宿ったことに気づくのだ。クモのような動体視力と跳躍力、手首からは強靭なクモの糸が飛び出し天井やビルの壁面も自在に動き回ることができる力だった。しかし、目先の欲にかられ賞金稼ぎにその能力を利用した結果、皮肉にも叔父が殺害されてしまう。ピーターは心の底から後悔し、その特殊能力を正義の為に使うことを決意する。
一方、ピーターの親友ハリー(ジェームズ・フランコ)の父で、天才科学者ノーマン・オズボーン(ウィレム・デフォー)にも劇的な変化が起きる。軍事目的で開発した試薬の人体実験の副作用で二重人格になり、邪悪なサイドの性格が世界征服を企むグリーン・コブリンという怪物を生み出してしまったのだ。偶然にも強大な力を手にした2人は、ピーターとノーマンであることを知らずに、ハリーやメリー・ジェーンの運命をも巻き込んで対決する。今、摩天楼を震撼させる超人と狂人の戦いが始まった! 原作はマーヴル・コミックス社が生んだ古典的アメコミ・ヒーロー。過去にもアニメやテレビシリーズとして何度も映像化されているが、本格的な映画になるのは今回が初めてだという。スパイダーマンが世界的に愛されている理由は、彼が普通の人間と同じように、恋をし、悩むその等身大のヒーロー像にある。実際、トビー・マグワイアが演じる主人公ピーターは、勉強はできるが、グズでのろまなモテないタイプの男の子。そんな彼が、スパイダーマンとして正義のために戦う姿は、ストーリーがわかっていながらもハラハラドキドキ応援してしまう。また、グリーン・コブリンという怪物がでてくるが、これがまた、小さいころにTVで観た電子戦隊デンジマンや大洋戦隊サンバルカンにでてくるような悪の怪物なのだ。ちょっと懐かしいような、だけど、21世紀風で洗練されているグリーン・コブリンの姿に複雑な心境である。なにはともあれ、スパイダーマンが高層ビル群をスリリングかつダイナミックに飛翔する視覚効果は素晴らしい!是非、劇場で観てほしい作品である。 Text : imafuku [UNZIP] |
||
うおお燃えるぜってなVFXアクション満載、ちょいオタクな内向君メインの青春ドラマ満載、そして胸がキュンとなるような心理的葛藤をもしっかり巧みに描いた、正統派スーパーヒーロー映画としても最上の出来の娯楽大作であった。偉い、サム・ライミ監督! スーパーヒーローの楽しさも苦さもきっちり描いて、しかもラストでちゃんとホロッとさせるなんて、アメコミ映画化ものにしては大成功ではないか? 古くからのファンも今の若い子もひとまず満足できるはず。 今から思えば脳天気な超人(というか宇宙人)であるスーパーマンとも、はたまた富豪の世直し道楽でもあるバットマンとも違う、等身大の若者の心を持つミュータント・ヒーローとして、アメコミ界でも異彩を放っていた『スパイダーマン』(「あなたの親愛なる隣人」ってのがキャッチフレーズ)。前二者(『スーパーマン』と『バットマン』ね)が、原作漫画よりも映画版でやたらと悩むのは、実はスパイディ(スパイダーマンの愛称)の影響が大なのだった。その“お悩み系ヒーロー本家本元”が、生誕40周年にして劇場版大作としてついに登場したのだ(実はTV版のスペシャルが1978年に日本でも公開されているらしいけど)。しかもコロンビア映画史上最高額の166億円というメガ・バジェット! 本作は“ほぼ”日米同時公開(米は5/3、日本は5/11)となったわけだが、先行したアメリカでは初日だけで約52億円、3日間で約145億円弱=1億1400万ドルってな史上最高のオープニング記録で幕開けした。既に2004年5月7日公開予定で続編『スパイダーマン2』も決定しているらしいし、今冬には米MTVでCGアニメ・シリーズにもなるとか。ここは見逃さないように劇場に向かおう! 『死霊のはらわた』(83)でデビューしたサム・ライミ監督は、メジャー進出第1作で『ダークマン』(90)というアメコミ・ヒーロー風復讐譚を撮ってるんだけど、これがG・A・ロメロ『URAMI』と同趣向なゴタクの多い、フリークがどうのとウジウジしまくる低予算っぽい復讐映画(ヒロインは今やコーエン兄弟組として有名になったフランシス・マクドーマンドだ!)だったので、「今回も台詞で長々と心の葛藤なんて描かれたらどうしよう?」とちょい警戒してたのだ。しかもアヴァンタイトルはコミック版をポップアート風に処理したアップ(これは格好いい)の後、蜘蛛の巣とビルとキャラのイメージ映像が長々と展開されるので、「これは去年日米同時公開だったバートンの『PLANET OF THE APES/猿の惑星』と同じ勿体つけパターンか?」と、さらにヤな予感が……。でもそこは『シンプル・プラン』(98)『ラブ・オブ・ザ・ゲーム』(99)『ギフト』(00) で「巨匠」の風格もついたサム・ライミ監督。なかなかどうして堂々としたエンターティンメント大作に仕上げていて、物語はクイクイとテンポよく展開していくので一安心。よく見ればNYの高層ビル街をスイングしながら飛び回る映像って、ヘリコプター視線とも微妙に違う、ちょっと見たことないグルーヴのヴィジュアルじゃん。特にタイムズスクエア周辺を舞台に、高低差を見せるパニックアクション・シーンはとってもグーだ。んで、友情や愛(ストーカーめいた見守る愛)に悩むっていうドラマ面も、抑えたシークエンスで過不足なく描写。しつこくないのがいい。 その分(なのか?)、今回の敵役グリーン・ゴブリン=ノーマンオズボーンの、鏡を使っての葛藤シーンだけは若干長めだけど(世界中の仮面を集めてるみたいなノーマンの部屋もクドいっちゃクドい)、二面性のある人物像を(嬉々として?)演じるウィレム・デフォー(『プラトーン』『イングリッシュ・ペイシェント』『スピード2』『ルル・オン・ザ・ブリッジ』『処刑人』『イグジステンズ』『アメリカン・サイコ』『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』『ぼくの神さま』など)が、さすがの演技派ぶりで魅せる! ので、ま、いいか。主役のトビー・マグワイア(『アイス・ストーム』『ラスベガスをやっつけろ』『カラー・オブ・ハート』『サイダー・ハウス・ルール』『ワンダー・ボーイズ』『あの頃僕らは』など)も若いウジウジ君をそつなく演じ、でも無邪気にクモ能力を開発する時の楽しさや、頑なな片思いの心情をもちゃんと表現していて「巧い」と感心することしきり。僕はカメラ小僧つながりで『I love ペッカー』のエドワード・ファーロング(『ターミネーター2』デビューの)と一瞬カンチガイするという恥ずかしい観方をしてしまった。で問題の、というか一部オタクに前評判の悪いヒロインMJ役のキルスティン・ダンスト(『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』『若草物語』『ジュマンジ』『ウワサの真相』『スモール・ソルジャーズ』『ヴァージン・スーサイズ』『クロウ』『チアーズ!』など。『ガールズ・ルール』ってのもビデオ屋で見かけたような…?)も、動いてると結構可愛いので健闘してると思う。ま、原作だともっと美人系なんだけどさ。脚本がイジワルなのか、女優志望だけど向いてない(オーラがない)感じのキャラに肉付けしてあって、この皮肉な客観描写は続編以降でどんな効果をもたらすかがちょっと気にかかったのだった。あとピーターの親友でノーマンの息子ハリー・オズボーン役を、TV映画『ジェームズ・ディーン』で主役を演じ、『25年目のキス』で映画デビューしたジェームズ・フランコが演じてるのにも注目かも。なお一部の映画誌で「原作者のスタン・リーも出てる」と書いてあったけど、映画秘宝6月号のインタヴューによると「カットされた」そうで、街で『Xメン』サイクロップス・サングラスのバッタモンをピーターに売りつける(笑)というシーンはDVDまでお預けらしい。 余談。原作漫画について。1962年にマーヴル・コミックス(僕が子供の頃はマーヴェルって言ってたけど)社「アメージング・ファンタジー」誌の廃刊15号で登場した『スパイダーマン』(スタン・リー作/スティーヴ・ディッコ画)。これが意外な好評(売り上げトップ、続きを読ませろ投書殺到)を得て、すぐさま単独で月刊連載になって、以後40年も続いているのだという。詳しくはトム・デファルコ著『スパイダーマン パーフェクト・ガイド』(小学館。税別3,500円もするけど)を参照(でも「絶賛発売中」のはずなのに、どの書店にもないのは何故?)。ちなみに日本版の漫画も凝った形でスタートしたって話をしてみたい。月刊(当時は別冊)少年マガジン1970年1月号にカラー13Pで「誕生編」を掲載、翌2月号から一挙100P連載ってなヘヴィな展開で、描いてたのは池上遼一(代表作『男組』『信長』----というか、今なら『HEAT--灼熱--』か)。これが本家を凌ぐ暗さで、今読むとたまらんものがあるのだ。舞台をNYから東京に置き換え、初期は米版の怪人を流用、その正体は「都会の悪」に染まった善良な田舎者達ってな設定。しかし早くも5話目(7月号)では一度もスパイダーマンにならずに、陰で悪さしてる剣道部部長達に濡れ衣を着せられたまま不良化してゆくスパイダーマン=小森ユウなのだった。さらに次の8月号は米兵=ベトナム帰休兵によるマイカー族攻撃+ハイジャック事件という展開で、「ちくしょう彼をここまで追いやったのは誰なんだ!?」と叫んで終わるというモノ凄さ。9月号(7話)からは平井和正(『8マン』原作、<ウルフガイ><幻魔大戦>シリーズ)がストーリーを担当し、ますますルサンチマンに満ちたエグい話になってゆく。マイカー族憎しネタがしつこく出てきたりするのが笑えるんだけど、マスコミは「スパイダーマン売名大作戦」なる記事で「3億円犯人を捕まえろ」だの「ベトナム戦争を終わらせてみろ!」だのと書き立てたり、ジャズ喫茶、ゴーゴー喫茶やら明星パンチやら交通戦争やら光化学スモッグやら公害企業やら、赤軍派ならぬ紅軍派学生ゲリラ釈放がどうのとか、芸能界ダークサイドなんかまで追求されていくのが時代を感じさせてグーかも。後半は平井節全開で、犬神明ならぬ鏡明って狼化するキャラが登場したり、犯人はみな潜在意識で社会悪に復讐したりアナーキーな破滅へ突き進んだりするってなワンパターンのまま、71年9月号まで続くのだった。以上、たまたま今日、近所の書店ヴィレッジ・ヴァンガードで朝日ソノラマ版全5巻を見かけたので即買いし、熟読してしまった勢いで、長々と余談をしてしまった。ま、本家もすでに60年代の連載時に「精神科医にかかるスパイダーマン」なんてネタをやってたらしいし----これはプログラムの小野耕世センセ(日本版『スパイダーマン』の生みの親であるアメコミ大先生)のコラム参照(あ、池上+平井『スパイダーマン』は90年代にマーヴルから英訳版も出たとか)。また映画秘宝6月号P48あたりの特集によると、もっとムチャクチャなクローン話とかもあったようだから、40年続く身近なヒーローって漫画も大変だなあと思うのであった。あ、ちなみついでで、TV版はアメリカ(アニメ・特撮)も、ちょっとひどい日本版特撮モノもあったけど、忘れたことにする(詳しくはスターログ春号P29参照)。ゲームに関しては、これも映画秘宝6月号P115でレポートされてるので参考のこと。そういやブルータス4/15号が「世界のコミック・ヒーロー」を特集してたけど、これは「9.11」に愕然とするスパイダーマンがキイ・ヴィジュアル。つい「早く翻訳版だしてええっ」と身悶えしてしまったのは僕だけじゃないはず(洋書屋さん巡ろうとしたら潰れまくってたりするのにも愕然)。でも5/4の「世界ふしぎ発見」で、ベルギーでは漫画が出版物の6割を占めるってのをやってて、それなのにブルータスの特集に出てきてないのは何故かしら?ってちょっと思ったのだった。いかん、もはやアサッテな方向へ行ってるので終わろう。とにかくキテる予感がひしひしするので、映画『スパイダーマン』、見逃さないでね! Text:梶浦秀麿 |
||
Copyright (c) 2001 UNZIP |