[メルシィ!人生] Le Placard
2002年9月7日より、シネ・アミューズにて公開

監督・脚本:フランシス・ヴェベール/製作代表:アラン・ポワレ/製作指揮:フィリップ・デムーラン、アンリ・ブリシェッティ/撮影:ルチアーノ・トヴォリ/美術:ユーグ・ティッサンディエ/音楽:ウラジミール・コスマ/衣装:ジャクリーヌ・ブシャール/キャスト:ダニエル・オートゥイユ、ジェラール・ドパルデュー、ミシェール・ラロック、ミシェル・オーモン、ティエリー・レルミット、ジャン・ロシュフォールほか
(2000年/フランス/1時間24分/配給:メディアボックス)

【STORY】
まじめだけが取り柄の冴えない経理マン、フランソワ・ピニョン(ダニエル・オートゥイユ)。妻と離婚し、子供からはうざったがられ、会社でも言われるのは「いい人だけど退屈よね」…。そんなピニョンに最大の試練が訪れる。人員削減のために、解雇されることが決まったというのだ。絶望したピニョンはアパートのベランダから飛び下りようとするが、隣に越してきたベロンという老人に止められる。翌朝、ベロンはピニョンに思いもよらぬリストラ対策を提案する。それは、自分がゲイであるとカミング・アウトすることだった…! しかもピニョンはゲイのフリをする必要などなく、今まで通り行動していればいいという。驚くピニョン。早速、ベロンはレザーパンツ姿で若い男と抱き合っている合成写真をピニョンの会社に送る。するとピニョンがゲイだという噂はあっという間に広まり、社長は広報部長のギョーム(ティエリー・レルミット)を呼び出して対策会議。実はこの会社の主力製品はコンドーム。ゲイをクビにすると、差別をしたと思われ、大切なお客さんの反発をくらうことになるのだ! まわりの人達が噂に振り回されてオロオロする中、いつも通りに会社に通い続けるピニョン。果たしてどんな結果になるのか…?


【REVIEW】
フランスで記録的な大ヒットとなった『奇人たちの晩餐会』のフランシス・ヴェベール監督の最新作。フランスの映画界のトップスター達が集まった、洒落ていて、見事なコメディだ。

『八日目』『橋の上の娘』のダニエル・オートゥイユ演じる主役のピニョンは、ただそこにいるだけで哀しいほど可笑しく見える人物。目立たず、退屈な人と言われてきた彼だが、ゲイだという噂が広まったとたん、まわりの見る目がどんどん変わっていく。本人は一向に変わらないのだが、何をやっても「ゲイっぽい」と言われる始末。その様子が実に滑稽で可笑しい。差別主義のマッチョな人事部長を演じるジェラール・ドパルデュー(『グリーンカード』など出演多数。最近では『ヴィドック』『CQ』などに出演。)にも注目。自分のクビが心配でピニョンに取り入ろうとするのだが、もともとが単細胞で不器用な男だけに、心のバランスを崩してしまうのだ。その描写が面白くも可愛らしく(気の毒だが…)、ジェラール・ドパルデューの存在感はやはり強烈であった。

本作のテーマは「自分に対する他人の評価は避けがたい」ということらしい。つまり、私達は他人と共に生きているわけで、自分が何者であるかを決めているのは他人の目なんだ…と。ピニョンは他人の視線と向き合い、恥の痛みを感じ、ささやかな闘いを経て結果的には自分もまわりの人達も変えて行く。映画を見る私達を、本当の意味で勇気づけてくれるのは、『ダイハード』に出てくるようなヒーローではなく、ピニョンのようなつつましい性格の男が逆境を乗り越える姿なのかもしれない。

ピニョンの悲劇から生まれたこの喜劇は、ただ面白可笑しいだけではなく、人情味に溢れていて、見終わった時の気分は爽快だ。フランス映画もいいなと思うのは、こんな作品に出会った時である。

Text:nakamura [UNZIP]

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