[SCRATCH(スクラッチ)]
2003年3月1日〜3月28日、シブヤ・シネマソサエティにて連日レイトロードショー!(21:00〜)

監督・編集:ダグ・プレイ/プロデューサー:ブラッド・ブロンディム、アーネット・メザ/ミュージック・スーパーバイザー:キャロル・スー・ベイカー、ジョナサン・ハフター/撮影:ロバート・ベーネット/サウンドトラック:Transparent Record(2001年/アメリカ/92分/配給:ニューズベース、アーティストフィルム)

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オールドスクールの巨匠Afrika Bambaataaが、スクラッチの生みの親GrandWizard Theodoreが、スクラッチの神様Q-bertが、ヒップホップDJの全てを語る。音楽の演奏方法や音楽観までをも変えてしまったDJ達のリアルストーリー。

いまやヒップホップ・カルチャーはすっかりメインストリームなものとなった。ここ日本でも、ヒットチャートには、しっかりと和製ヒップホップグループがくい込んでいる。街を歩く男の子達のファッションには明らかにBボーイ達が影響を与えているし、電車の窓からはコンクリートの壁に描かれたグラフィティを見ることが出来る。ヒップホップと言うのは、何も音楽だけを指す言葉ではない。DJやMC(通称ラップ)はもちろん重要だが、ブレイク・ダンス、ライティング(通称グラフィティ)を含めた4大要素を中心に、ファッションや、喋り方、スタイル、思想に至るまで、その言葉の使われる意味は広い。

本作は、そのヒップホップ・カルチャーの中でもDJを中心に描いたものだ。ヒップホップDJにとって“スクラッチ”の発明は革命だった。それまでの音楽の演奏方法や音楽観までもが、全く変わってしまったのだ。以来、DJ達は単なるMCの伴奏ではなくなった。ターンテーブルは楽器となり、自身の技とレコード・コレクションを駆使して演奏するDJ達は、自らターンテーブリストと名乗り、アーティストとして認知されるようになった。現在のヒップホップ・カルチャーにおいて、最も興味深い展開を見せているのが、そういったターンテーブリスト達の作り出す音楽なのだ。コマーシャルなヒップホップには無い、ワクワクして心臓が高ぶるような魅力がそこにはある。

本作に登場するDJは、最初のターンテーブリストと言われるGrand Master DXT(ハービー・ハンコックの「Rock It」のパフォーマンスで世界中に“スクラッチ”を認知させた)、Afrika Bambaataa、Jazzy Jayといったオールドスクールの巨匠たちから、Q-Bert、DJ Shadow、Jurassic5のDJとして知られるCut ChemistとNu-Mark、Beastie Boysの専属DJ Mix Master Mike、DJ Babu(The Beat Jankies)、DJ Premier…など、蒼々たるメンバー。Q-Bertがスクラッチの芸術性について語り、ネタ探しの天才と言われるDJ Shadowがレアなレコードの発掘方法を語り、Mix Master Mikeがスクラッチの手ほどきをしてくれる…音楽ファンならこんなおトクな映画を見逃すのは絶対に損。レコード屋のポップ調に言うと“激マスト”な映画なのだ。日本からもDJ Krushがちらっと登場するが、オタクっぽい海外のDJ達の中で、一番ビジュアル的にかっこよかったのが我らがKrushだった。

映画的には2002年はドキュメンタリーの当たり年だった様に思う。『DOGTOWN & Z-BOYS』でドキュメンタリーに開眼し、最後に出会ったのが『SCRATCH』。良質のドキュメンタリーにはどんなフィクションもかなわないような気がしている。

Text:nakamura [UNZIP]


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