[偶然] Blind Chance
キェシロフスキ・コレクション〜ゆらめく愛の輪郭/ワルシャワからパリへ〜

2003年3月8日よりBunkamura ル・シネマほか全国順次公開

監督・脚本:クシシュトフ・キェシロフスキ/製作:ヤツェク・シェリゴフスキ/出演:ボグスワフ・リンダ、タデウシュ・ウォムニツキ、ズビグニェフ・ザパシェヴィチ
(1981年*検問にあい、本国では87年に公開/ポーランド/119分/配給:ビターズ・エンド)

【キェシロフスキ関連作品】
『終わりなし』
『殺人に関する短いフィルム』
『愛に関する短いフィルム』

【STORY】
医大生のヴィテク。母親は彼を産んだ時に亡くなり、彼を育てた父親の希望で医学を学んでいる。ある日、父の死の知らせを受けたヴィテクは大学を休学し、ワルシャワへ旅立つ決心をする。駅についた時、列車は発車しようとしていた。

その後の一瞬におこりうる3つの偶然のケースによって、かれはその後の人生を3様におくることになる。

もし…1
列車に乗ることができたなら。
共産党の活動家となり、かつての初恋の女性と再会する。彼が党員であったために恋人を失い、束の間の幸せも去ってしまう。そんな中、党からの辞令でフランス行きを任命されるが…。

もし…2
発車し始めた列車に乗ろうとして警備員に取り抑えられたなら。
暴力をふるったかどで刑を下され、服役中に出会った人物の誘いで地下活動の組織に加わり、そこで出会ったキリスト教を信心するようになる。ある時、警察の手入で仲間が連行されると、ヴィテクは裏切りの疑いをかけられる。失意のヴィテク。持ち上がっていたフランス行きを断念し、ラジオをきいていると…。

もし…3
列車に乗れなかったなら。
復学し、同級生と結婚する。幸せな家族生活。師の信頼を得、充実した平穏な暮らしを送っている。教授の代理で、フランス行きを承知したヴィテク。彼の乗った飛行機が離陸する…。

【REVIEW】
『スライディングドア−』、『ランローララン』の元ネタとして知られ、ほんの数分数秒の瞬間が、人生の運命をわけてしまうという3つのエピソードに分岐して描かれる、“偶然”のお話。

“偶然”とか“運命”とか“タイミング”の話は、まさにキェシロフスキーの得意とするところといった感じの作品で、『偶然』を原形とした後年の作品が、映画の技術や、配役を持ってしてもやはりオリジナルには及ばないないといった威厳がある。その一つの理由は、この『偶然』を生み出したキェシロフスキー監督自身の人生や、ポーランンドという国の背負う共産主義というものが、“運命”についての説得力みたいなものを与えるからではないだろうか。

映画として、スピーディーにコミカルに描かれているけれど、主人公がたどる3パターンの人生を、共産国ポーランドで大別される3種類の人種、党派、中立、反共産党に振り当てていて、公開された81年に本国で検閲にあい、お蔵入りになっていたというくらいだから、掘り下げると結構複雑で繊細な要素も含んでいるようだ。

けれど、政治背景とか難しいところを払拭してみたところで、ストーリーについていけないような、こ難しい作品でもないのが感心どころでもあって、ちょうどグリム童話のように教訓的な、キェシロフスキーワールドの骨頂。真面目な人がユーモアを交えて何かを表現する時しか面白さを感じなかったりするのをイメージしてもらえると良いかも知れない。真面目くさっていない、真面目なものといった感じ。

20年以上も前に、こういう映画をとっているキェシロフスキーはやっぱり偉大です。自宅でビデオで観るよりも劇場でどっぷり世界に浸りながら観ることをお勧めします。

Text:kodama yu


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