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【STORY】 夫が突然死んでしまった。 妻ウラはその現実が受け入れられずにいる。 そんな母親を優しく慰める幼い1人息子のヤツェク。 そして、死んでしまったアンテクはいまでも残した2人を優しくその傍らでみつめている。 弁護士だったアンテクの受け持っていた事件にかかわるようになったウラは、しばしば奇妙な現象を体験し、夫が今でも自分の傍にいることに気付きはじめる。夫を忘れようと、アンテクに似た手をもつ行きづりの男の誘いにのったところで、結果は、アンテクを忘れるどころか、呵責の念にさいなまれるだけの空しいものだった。 徐々にアンテクの存在を確信するようになるウラ。 アンテクの後任者によって渦中の事件が解決した時、ウラは人生の、ある選択する。 【REVIEW】 ある日突然、最愛の人が死んでしまったら? 誰もが潜在的に持つ深層心理を暴き出す達人が取り上げる、人間の究極の葛藤の世界。 遺品を整理しながら故人の思い出に浸ったり、生前知ることのなかったその人過去や、死後初めて明らかにされる真実に出会った時の戸惑いみたいなものを、どうしてこんな風に的確に描写できるのだろうと、びっくりしてしまう。それ位、後に残された者の悲しみと苦悩が見事に描写されている。実際、ウラのような境遇の女性を知っているけれど、その姿はウラにオーバーラップするなんてものではなくて、ウラそのものだった。 主人公が“妻”なので、女として加えると、キェシロフスキーって男だったよね?と思うくらい女性の心理にも絶妙に訴えている。あるいは女性と男性の違いなんて、本当のところそうは変わらないかもしれない。 キェシロフスキーは人を動揺させる主題選びに秀でた人だけれど、作家ではなく映画監督なので、当然気のきいた映像描写を忘れてはない。暖かい陽射しを感じさせる映像の中で、生きている人と死んでしまったはずの人が共存する画面は、ふと、地上と天国の中間領域であるような錯角を起こさせる。悲しいはずのテーマなのに、なぜかフワフワとして不幸せを感じないでいれるのはそのせいかもしれないし、そういった効果だけでなく、結末の伏線を示唆するエフェクトともとれる。 ゴダールしかり、ベッソンしかり、大概の奇才とよばれる監督の作品、ことその初期や後期においては、作風が高尚すぎたりする傾向がありがち。けれど、そんな難しそうな映画も、彼等のメジャーとなった作品を観た後に、だったら結構しっくりきたりする。例えば、キェシロフスキーの名前を日本に知らしめた『2人のヴェロニカ』や『トリコロール』三部作から入ってみては良いのでは? 『終わりなし』は、今回のキェシロフスキーコレクションで日本初公開。スターターはもちろん、キェシロフスキー上級者はお見逃しなく。 Text:kodama yu Copyright © 2003 UNZIP |