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【STORY】 どこからやって来たのか、映画館、広場、カフェで時間つぶしをしている風な、何をするでもない青年ヤツェク。ふと写真館に立ち寄ると、しわだらけの、可愛い女の子が写った写真を引きのばしに出す。写真館をでるとタクシー乗り場へ行く。そこで何台もタクシーを流して、ようやく1台のタクシーに乗り込んだ。 のってしばらくして、タクシーが人気のない道を走っていた時、ヤツェクは運転手の首を締め、残忍に殺害してしまう。それは衝動的な殺人だった。 殺された運転手は、意地悪く乗車拒否をしたり、若い女の子に嫌らしいことをいったりするあまり好感の持てるタイプの人間ではなかったが、人の恨みをかって殺されるまでの人間ではなかった。たまたまヤツェクをタクシーに乗せてしまったというだけのことだった。 捕まったヤツェクには死刑が宣告される。担当の新人弁護士ピョートは、裁判でヤツェクを救えなかったこと、それからヤツェクが犯行の直前にいたカフェに居合わせ、自分が弁護士になれた幸せを恋人と分かち合っていた偶然のに複雑な思いだった。その身の上、村での生活、妹の事故死、なぜ村を出てしまったか、なぜ衝動殺人を犯してしまったか、ヤツェクの口から語り始められる、殺人に至るまでの経緯。そして遂に死刑執行の日がおとずれる。 【REVIEW】 まさしく、本物の『殺人に関する短いフィルム』。 淡々としていて、だからこわくて、殺人と言うものにたいする憎悪みたいなものをかき立てられる映画。 ある青年が衝動殺人を犯す。画面に現れた瞬間から、気弱そうでそのくせ何をするかわからなそうな嫌な感じの若者が殺人者。その犠牲となるのが、また嫌な奴として描かれているさえないタクシードライバー。 死刑宣告後に青年が殺人に及んだ経緯や伏線となる生い立ち、家族に起こったことなどを弁護士に語って聞かせる場面になったところで、そんなの甘えに一喝しこそすれ同情のねんなど全く起こす気にならない。普通のドラマだったら、そこで青年に対する涙の一つでもありそうなものだけれど、そんな気分にはならないのだ。ここには何に対しても共感をおぼえさせる描写はなくて、あくまで、殺人という非情なものを客観的な視点で再認識させられる、といった感じ。 こんな風なに単刀直入なモラルの説き方というのは映画として完成させるにはかなり難しい表現法法だけれど、それが成功した時に人の心に響くものの大きさといったら他にはありえないことだと思う。だからこの映画に、こういうものをつくってしまうキェシロフスキーに衝撃を受け、影響をうけたと言う映画人が多いのも当然かも知れない。 彼の作品を通していえることだけれど、キェシロフスキーという人はいつもだれもが分かっているはずで、なのに気付かないことや思いを映画という目に見えるものにして改めて観客に気付かせるのが本当に上手。きっと物凄く頭が良くて冷静な人だったのだろう。 テーマとしてかなりヘビーでダーク。映像も、どんよりした陽射しの感じが絶妙で、なんだか逃げられない感じではあるけれど、うんざりするような世界にさえも、観客を停めておける天才の作品を一度観ることは時間の無駄ではないと思います。ただ、観るのは、精神的なコンディションの良い時をお勧めします。 Text:kodama yu Copyright © 2003 UNZIP |