[モーヴァン] Morvern Caller
2003年3月8日よりシネマライズほかにて公開

監督・脚本:リン・ラムジー/共同脚本:リアナ・ドニーニ/撮影:アルウィン・カックラー/原作:アラン・ウォーナー/出演:サマンサ・モートン、キャサリン・マクダーモット
(2002年/イギリス/97分/配給:アーティストフィルム、東北新社)

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【STORY】
クリスマスを前にして、恋人が自殺した。明りといえば、クリスマスの電飾がついたり消えたりしているだけの薄暗いモーヴァンのアパートの床に、彼の死体は横たわっている。彼がモーヴァンに残したもの。モーヴァンへのクリスマスプレゼント、そしてコンピュータの中に遺書と彼の書いた小説の原稿。誰かに彼の死を知らせなくてはいけない。モーヴァンは外に出た。駅の公衆電話が鳴る。「私はモーヴァンよ。あなたもよいクリスマスを」誰だかしらないけれど、声の主とそんな会話をして受話器を置く。モーヴァンは電話を諦めてそのまま部屋に戻った。

相変わらずそこにある彼の身体。モーヴァンは彼からのプレゼントの包みをあけてみた。革ジャンと、「君のための音楽」とかかれた編集テープ。モーヴァンはお化粧をしてパーティーにでかける。親友のラナと落ち合い、いつものばか騒ぎ。朝になって、ラナと、ラナのおばあちゃんの家によってお風呂に入る。お湯につかりながら、モーヴァンはラナに「彼がいなくなってしまった」という。「いつもの気まぐれ。すぐに戻ってくるよ」というラナにそれ以上何も言えなかった。

彼の遺書を読み返す。画面には「小説を出版社に送ってくれ。君のために書いた。」とある。モーヴァンは、小説の著者名を " morvern caller "と打ち直し、原稿をプリントアウトし始めた…。

【REVIEW】
『モーヴァン』にはイギリスらしいカッコよさがあふれている。音楽とか、ファッションとか、頑張っていない感じとか、そういうところのカッコよさの、原作と演出の波長が“うまくいっている”感じがする。そしてモーヴァンは、ブラボー!と拍手したくなるような、そんないさぎよいヒロインだ。監督のリン・ラムジーは初監督作『僕と空と麦畑』で数々の賞を受賞し、この『モーヴァン』でも国内をはじめカンヌなどの海外映画祭でも評価される注目の女流監督。

よく、イギリスを訪れた人が、イギリスに日本と通じるものを感じるなどといっているのをきくことがある。日本にはレイヴカルチャーもないし、若いうちから生活保護に守られて生活する事も普通ではないけれど、それにはなんとなくうなずける。きっと、なにかしら気質の共通点みたいなものがあるのではないだろうか?『モーヴァン』をみ終えて感じたのはそんなことだった。例えば、まずモーヴァンのようなヒロインをクールだと思ってしまった事。それは要するに、シンパシーを感じてしまっているという事だと思う。そんな事は、他の国の映画、アメリカ映画とかフランス映画とかにはない。それぞれに、それぞれのヒロインはいて、素敵だと思うことはあっても、でも決してモーヴァンタイプに出会ったことはない。大概の映画にどう転んでも異国の文化だよねぇとしばしば感じるところが、不思議と『モーヴァン』にはなかった。ただ、モーヴァンをカッコいいと思ってしまうということは、何処かの雑誌の吊り広告でみかけた『恋愛圏外体質』という言葉にカテゴリーされてしまう可能性大なのかな?なんて思うところもある。個人的にはそんな女性だって、頼もしくて悪くないじゃないと思っているのですが…。

この映画で、大切な要素となるのは音楽。自殺した“彼”によってモーヴァンのために選曲されたベルベットアンダーグラウンドの曲にのせられた、遺体をバラバラにするという衝撃的な場面には、残忍さのかわりに恋人を亡くしたモーヴァンの悲しみがあったりする。そういう選曲のセンスもイギリス的で、音楽好きの人にもグッとくるはず。

主演のサマンサ・モートンはウッディー・アレンの『ギター弾きの恋』で唖のけなげな少女役をこなしていたかと思えば、『マイノリティーリポート』にも出ていたりする、いろんな役柄をこなしている人だ。この作品の中では、当然のようにハマり役な感じ。にしても、勿論チャーミングなんだけれど、モーヴァンという役柄の、イギリス人らしいだらしないキャラクターつくりにも律儀に徹していて、女優さんって綺麗なだけじゃだめなのね…なんて感心。

原作者はスコットランド出身で、ときけば、『トレインスポッティング』を思い浮かべてしまう人も多いのでは?女性と男性の描くそれぞれの映像世界なんかを比較しながら観てみるのも面白いのではないでしょうか?

Text:kodama yu


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