[キル・ビル] KILL BILL
2003年10月25日より丸の内ピカデリー1他・全国松竹東急系にてロードショー

製作・監督・脚本:クエンティン・タランティーノ/ 原案:Q&U/アクション・コーディネーター:ユエン・ウーピン/出演:ユマ・サーマン、ルーシー・リュー、千葉真一、栗山千明、ダリル・ハンナほか
(2003年/アメリカ/1時間53分/配給:ギャガ・ヒューマックス共同配給)


→『キル・ビル』特集
(タランティーノ監督他インタビュー、記者会見、コラム)
∵公式サイト

【STORY】
テキサスの教会で、身重の花嫁(ユマ・サーマン)が散々嬲られた後に頭を撃ち抜かれる。彼女の名は×××、暗号名は“ブラックマンバ”――凄腕揃いの犯罪チーム、毒ヘビ暗殺団[The DiVAS]のメンバーだったが、組織を抜けようとしてボスのビル(デヴィッド・キャラダイン)率いる4人の仲間に、結婚式の最中に襲撃されたのだ。参列者の8名は全員死亡、だが死んだと思われた彼女は、昏睡状態で「眠れる花嫁=ザ・ブライド」として病院に収容されていた。トドメを刺しに来たエル・ドライバー、暗号名“カリフォルニア・マウンテン・スネーク”(ダリル・ハンナ)は直前に「安楽な死は与えるな」とボスに止められる。そして4年の歳月が流れた……。唐突に目覚めたザ・ブライドは病院を脱走。友も夫(?)も、お腹に宿っていた子供まで失ったことを知った彼女は、かつての仲間とボスへの復讐を決意する。今は日本ヤクザの頭領になったというオーレン石井こと“コットンマウス”(ルーシー・リュー)、カリフォルニアで平凡な主婦におさまっているらしいヴァニータ・グリーンこと“コッパーヘッド”(ヴィヴィカ・A.フォックス)が「殺すリスト」の1・2番だ。次は暗殺団で唯一の男性、ボスの弟バドこと“サイドワインダー”(マイケル・マドセン)、そして片目の暗殺者エル・ドライバー、最後はビルになるだろう。沖縄で、かつてビルの師匠だった服部半蔵(千葉真一)から一ヶ月の修行の後に刀を伝授され、東京に飛んだザ・ブライドを待つのは、クレイジー88という大勢の配下を従え、凶悪な女子高生の殺し屋ゴーゴー夕張(栗山千明)を腹心に持つオーレン石井。自身も凄腕の刺客として知られている。はたしてザ・ブライドの世界を股にかけた復讐は、完遂することができるのか?

【REVIEW】
パッパラッパ・パッパー♪ うっひゃーっっっっっ! もうサイコーっす。笑った笑った。はースッキリ。観たくてしかたなかったタラちゃんことクエンティン・タランティーノ6年ぶりの新作(監督作としては4作目)を、ついに観てしまった。ま、前後編に分かれてしまって今回はVol.1だけど、あわせて3時間超ってのを一気に観るよりは、こうして前編1時間53分ってのは実にちょうどいい感じだ(Vol.2は04年GW公開予定)。個人的な体感時間は1時間くらい、とにかくアッという間だった。でも中身はオモチャ箱ひっくり返した系の小ネタ満載! で、細部に懲りつつも話は単純明快な復讐劇――要は「最高の凄腕揃いの女殺し屋チームで仲間からハブにされたヒロインが、一人ずつに仕返してく」って裏『チャリエン』風ストーリーなので、これまでになくわかりやすい。ディテールの元ネタを知らなくても愉しめるはず。とにかくアクションにつぐアクションで押しまくりつつユーモアも随所にちりばめてあるので、血のりドバドバなんだけど打撃や斬檄の痛さに疲れ過ぎることもない。ぶっちゃけ「殺し屋同士の殺し合い」なので、良識的な「ためにするバイオレンス描写は反対」ってな気持ちはほとんど湧かなかったのだ。いや冒頭の「身重の花嫁なぶり殺し」のショッキングさは効いている。つまり主人公への感情移入は掴みバッチリ、しかも幕切れの「ある台詞」によるヒキの巧さも絶品だ。最初から続き物にしようとしてたとしか思えない。でも『マトリロ』みたいに「ん?んん?ここで終わりかい」なんて不完全燃焼なヒキじゃないのが流石のタラちゃん、前作『ジャッキー・ブラウン』が若干ぎこちなかった分、本作では映画内時間の変幻自在の操り方が、もう冴えに冴えてて嬉しくなっちゃうのだった。

主役ザ・ブライドを演じるのはユマ・サーマン(『バロン』『カウガール・ブルース』『パルプ・フィクション』『ガタカ』『アベンジャーズ』『ギター弾きの恋』『チェルシー・ホテル』『金色の嘘』『テープ』など)。B級テイストのおバカ・エクスプロイテーション映画なのに本気なのが実にいい(笑)。しかしこんな壮絶なアクション女優をやることになるとは、彼女のファンも予想だにしなかったに違いない。そしてVol.1最大の宿敵オーレン石井を演じるのがルーシー・リュー(TV『アリーmyラブ』、『ペイバック』『チャーリーズ・エンジェル』『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』『シャンハイ・ヌーン』『バリスティック』など)。この二人が吹き替えじゃない日本語で対決してたりしてるってのが、もう変テコで「なんだか凄いことが起こってます」気分になること請け合い。もちろん異様に日本人俳優が多いのも『キル・ビルVol.1』の特徴だ。まず「世界のソニー千葉」(笑)こと千葉真一。第三章「沖縄の男」にコミカルな寿司屋にして実は伝説の剣豪(って「服部半蔵」という役名でしか表現されないが)+刀鍛冶で、ラスボス=ビルのかつての師匠という役で出てくるのだ(しかし台詞トチって言い直してるのをそのまま使われてたりして、ちと可哀想)。そして『死国』『バトル・ロワイヤル』の栗山千明も見せ場たっぷり、バーでは「私を刺したい?」って下ネタ吐いて、ロリコン・サラリーマン(森下能幸)の内臓をドボドボこぼすわ(じっくり聞くとエロい!)、第5章「青葉屋での死闘」では鉄球ふりまわす殺人狂を怪演するわの大活躍をみせてくれる。他にも國村隼、北村一輝、麿赤兒、大門伍朗らコワモテのバイ・プレイヤーがヤクザの組長として参加、また青葉屋の女将に風祭ゆきってのもシブい。その青葉屋(ブッシュが前に来日した時に小泉と行った居酒屋の雰囲気もある)のデザインを『スワロウテイル』の種田陽平がやってたり、そこでのライブ・バンドがThe 5.6.7.8'S(日本でもマイナーなガレージ・ロック・バンド)で、何故か最近の日本のディーバ系歌手のようにみんな裸足で演奏してたり、はたまた第3章「オーレンの出生」はまるまる日本アニメ(キャラデザインは『多重人格サイコ』の田島昭宇!)だし、とにかく日本市場を意識しまくった「アナザー日本ワールド」が現出するのが、この『キル・ビルVol.1』なのである。唐突にエクスプロイトされる側となった我ら日本人(特に日本の低予算マニアック映画ファン)の正しい態度としては、ショーガツにジンジャに詣でるような神妙かつウキウキした気分で、(何度でも)『キル・ビル』詣でにいそしむべし。というところか。

余談。本作を観てて連想した個人的映画が色々あって、第1章「2番」の幕切れは『ゴーストドッグ』だったり、第2章「血塗れた花嫁」の病院シーンで『トーク・トゥ・ハー』(笑)だったりした。本作には古い日本映画(あ『バトロワ』や『SFサムライ・フィクション』はまあ新しいか)や香港B級映画などが大量に引用されてるんだけど、そんなこたぁどうでもいい。釈由美子版とその題名パクリAVでしか『修羅雪姫』を知らなかった僕でも充分面白かったしね(オリジナルのヒロインは今やってるTVドラマ『あなたの隣に誰かいる』で嫌味な姑役やってる梶芽衣子だったのね、エンドロールの「恨み節」も彼女の歌なのね、というのは後から知った)。それより、そういう元ネタのB級とかカルトな映画を「知ってる知ってる」自慢するオタク連中は誰も言わない映画を連想してしまう僕って……。ちなみに「結局ザ・ブライドのお婿さんって誰だったの?」とかゴーゴー夕張(栗山千明)の制服を一目見て「どこどこの女子高のがモデル」とか言い当てられる人も世の中にはいるんだろうなぁとか、コッパーヘッドの4歳の娘ニッキーが成長した後の話とか、戸田奈津子女王様の記者会見での通訳パロディなんて映画マスコミ関係者しかわからん局地的ギャグは、遥かな未来の映画研究者にどう解釈されるんだろう(僕の記者会見ベタ起こし系の原稿で片鱗は残してあったりもするんだけど、どれが奈津子様通訳かわかるかなぁ?)とか、余計なことを色々考えながら頭ン中で繰り返し再生して楽しみつつ、半年後の完結編(その前にアメリカ公開Ver.も観てみたいけど)を待つ僕なのであった。

Text:梶浦秀麿


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