|
||
【STORY】 パキスタンの難民キャンプで育った孤児の少年ジャマールは、従兄弟の青年エナヤットと共にロンドンへ旅立つ。エナヤットの父が息子の未来を案じ、親戚のいるロンドンに送りだそうと考え、英語が話せるジャマールも同行することになったのだ。見ず知らずの密入国業者に命を預け、ロンドンまで4000マイルの陸路を旅する二人。それは想像を絶する危険と未知の世界が待ち受けていた。 【REVIEW】 マイケル・ウィンターボトムは作品を発表するたび、そのクオリティの高さで評価をあげてきたイギリスの実力派監督である。音楽ファンを熱狂させた『24アワー・パーティー・ピープル』や、トマス・ハーディの文学を映画化した『日蔭のふたり』『めぐり逢う大地』、現代人の群像劇『ひかりのまち』など、同じ監督が手がけたとは思えない作風の広さだが、政治ドラマ『ウェルカム・トゥ・サラエボ』で重いテーマを扱ったかと思えば、一方では軽いタッチで夫婦愛を描いた『いつまでも二人で』などを撮ったりもする。しかもそれぞれの作品が世界的に評価され、数多くの映画祭で受賞をしていることを考えると、ただただ感心するばかりだ。本作も第53回ベルリン国際映画祭にて金熊賞、エキュメニック賞、ピースフィルム賞を受賞し、さらなる名声を上げた。 パキスタンの難民キャンプで育ったアフガン人の少年ジャマールと従兄弟のエナヤットが、自分たちの未来のため密入国業者の力を借りてロンドンに旅をするロードムービー…と言ってしまえばそれだけの物語になってしまうが、イラン、トルコ、イタリア、フランスを経由してイギリスにたどり着くまでには、想像を遙かに超えた難関や試練が数多く待ちかまえる。その様は、ドキュメンタリーと錯覚させるほどリアルなタッチで描かれている。 世界には約1450万人の難民がいて、毎年100万人が密入国業者に命を託しているらしい。舞台となったパキスタンにも約100万人の難民がいて、数多くの難民が密入国業者に高額な料金を払って亡命を図っている。しかし、命の保証は何処にもない。本作は、2000年6月にイギリスのドーバー港に不法入国を試みた中国人58名の死体がコンテナの中で発見されるという事件をきっかけに、構想が浮かんだという監督だが、移民や亡命を図ろうとしている彼らの悲惨さではなく、政治的であれ経済的であれ未来のために行動していることを理解して欲しいと思うし、こうした事実があることを知りつつ、現代の問題について考えるきっかけになってくれれば嬉しいと語っている。 イランの社会的問題を背景にした『ブラックボード 背負う人』やタリバン圧政下のアフガニスタンを描いた『カンダハール』など、最近は社会的問題をテーマにした作品が話題になっているが、本作も同様に難民の問題だけではなく、社会情勢や政治問題など多くのことを考えさせてくれる。鑑賞前にパキスタンの情勢やアフガニスタンとの関係などの前もって軽く調べておくことで、さらに作品が理解できると思う。パキスタンからロンドンまでの4000マイル(約6400km)をジャマールと共に旅することで、きっと「難民=ネガティブ」というイメージは崩れ、彼らをいつの間にか応援していることだろう。 Text:うたまる(キノキノ) Copyright © 2003 UNZIP |