|
||
【STORY】
紀元前52年。エジプトの女王クレオパトラは、愛人シーザーの「ローマこそ偉大なる民」と信じる高慢な態度をあらためさせるため、90日間で砂漠のど真ん中に壮麗な宮殿を建てることが出来たらエジプトの民が最も偉大であることを認める約束をする。そのため呼び出されたのは納期の守れない前衛建築家のニュメロビス。もし90日間で建てることが出来たら巨万の富を、出来なければワニの餌にされる条件を押しつけられ、無理矢理任命される。実際に工事に取りかかろうとしたが、奇跡が起きない限り無理だと諦めかけたニュメロビスの頭に浮かんだのは魔法だった。そこで魔法の薬を手に入れるため北のガリアに向かい、魔法の薬を調合できるパノラミックスと、ローマをやっつけるためなら協力すると申し出たアステリックスとオベリックスを伴って、エジプトに戻る。そして順調に工事は進んでいるかのように思えたが、90日で完成されては困る輩の邪魔が次々に入り始めるのだった。 【REVIEW】 クレオパトラとシーザーの物語は本や舞台、映画など、あらゆる分野で様々な解釈のもと描かれてきた。絶世の美女の愛と欲望に満ちた話や、18世紀の哲学者パスカルの「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら世界の歴史は大きく変わっていただろう」という台詞は多くの人に知られている。映画ではエリザベス・テーラー演じる63年の『クレオパトラ』は有名だろう。そういえば手塚治虫も70年に『クレオパトラ』というアニメを作っていたっけ。 BC69年に生まれたクレオパトラは、プトレマイオス王朝プトレマイオス12世の次女である。父親の死後は、古代エジプトの習慣であった兄妹(姉弟)結婚による王位相続制度により、弟のプトレマイオス13世と結婚して共同統治というかたちで18歳にして女王の座につく。しかしながら弟とのいざこざで命を狙われ、BC48年に首都アレクサンドリアを追放されたちょうどそのとき、政敵ポンペイウスを追ってエジプトにやって来ていた50歳過ぎの英雄シーザーに出会い、20歳を迎えたばかりのクレオパトラは自らを捧げ物として謁見し、ローマとエジプトを併合して世界最大の帝国を造ろうと話しを持ちかける。その知性と美に心奪われたシーザーはアレクサンドリア市民を敵に回して戦い、クレオパトラを女王の位に戻し、2週間の愛欲の生活を送った後、ポンペイウスの残党を片づけるためエジプトを去ったと言われている。 その後、シーザーが暗殺され、暗殺したブルータスをうち破ったアントニウスとクレオパトラが恋に落ちて再び栄光を取り戻したりと話のネタは尽きないが、本作『ミッション・クレオパトラ』の時代設定はクレオパトラとシーザーが出会ったBC48から47年あたりになるはずだ。とはいえ、さんざん御託を並べてきて申し訳ないが、作品中ではそんなことはまったくお構いなしである。設定はBC52年だし。しかも、タイトルから想像すると本作の主人公はクレオパトラやシーザーと思ってしまうがそうではない。元々はフランスで絶大な人気を誇るコミック「アステリックスとオベリックス」というシリーズが原作で、その中の一編が映画化された。クリスチャン・クラヴィエ演じるアステリックスとジェラール・ドパルデュー演じるオベリックスのキャラクター設定はコミックそのままで本作中ではビジュアル化されている。 エジプトを舞台にしながらも演じるのはフランス人でフランス語。なんとも不思議な感じであるが、CGやアニメをふんだんに使い、ポップな映像とコメディが次々に繰り広げられると、それもアリかなと自然に思えてしまう妙な説得力がある。その説得力のひとつには時間とお金を掛けて作られたセットや衣装などの世界観の構築の巧みさであり、もうひとつにはモニカ・ベルッチ演じるクレオパトラの美貌があるだろう。どこかオリエンタルな雰囲気を持つ彼女の顔はエジプトの衣装とメイクがよく似合う。鼻の高さも十分だ。 また、絶妙な間合いで次々に切り替える編集も本作の重要な演出を担っている。普通なら長めに映すであろうシーンもばっさばっさと切り捨てることが、逆にコメディになっているのだ。漫才に例えるなら、ボケた相手にツッコミを入れている途中で、すでに次のボケに入ってしまっている感じである。余計にわかりづらいか。さらにはエジプト人の難解な名前をみんなで言い間違えたり、ブルース・リーを意識した格闘シーンがあったり(しかも中国語の会話付き)、コミックスさながらに人が投げ飛ばされたり、土煙を上げながら高速で走ったりと、とにかく次から次へと、様々な演出が繰り広げられる。アメリカコメディのベタベタなギャグが苦手という人も、本作ならけっこう笑えると思う。 フランス映画史上最大の制作費60億円をかけて作られた『ミッション・クレオパトラ』は、ハリウッド映画には無いおしゃれでポップなファンタジーだと思う。ちょっと毛色の違う作品を観てみたい方には特にオススメだ。ちなみに本作はシリーズ2作目で、横浜フランス映画祭のみで公開された1作目もぜひとも観てみたいものだ。 Text:うたまる(キノキノ) Copyright © 2003 UNZIP |