作品中では治験を受ける患者は基本的に外出禁止、そしてアルコールやたばこも禁止されている。しかし、主人公の福家をはじめ、治験でお金を稼いでいる患者たちも、サークルの合宿のようにわいわいと入院を楽しみ、規則を破って飲酒や喫煙をしている。監督が実体験を元に書いたと言うことになると、これらもみな事実なのだろうか。
Yoichiro Hayama (Director)
僕はお酒を飲みに行っていないんですよ。行ったのは僕の友人で、彼の話を元にそこは書きました。僕の実体験は前半の部分ですね。緻密に描かれていたと思うのですが、入院して投薬を受けて採血をするまでの一連の流れの部分は、実体験なのでスムーズに書けました。副作用の部分はフィクションで、あそこまでひどい目には遭っていませんけど、風邪薬の試験の時に肝臓の計測値が急に高くなってしまって、続けられずに退院させられたことはありました。副作用といってもそれぐらいのレベルの話なので、後半はフィクションとして膨らませて作りました。
「治験」という普通の人はほとんど体験することのない世界を描いた台本を受け取ったとき、どんな印象を受けたのだろうか。 |
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『サル』
2003年12月6日よりテアトル新宿にてレイトロードショー
監督:葉山陽一郎
出演:水橋研二、鳥羽潤、大森南朋ほか
(2003年/日本/107分/配給:アルゴピクチャーズ)
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Kenji mizuhashi
面白かったですね。本って「字」じゃないですか。でも、字を読んで色々な映像が浮かんできたんですよ。最初からホラーって言う印象はなくて、ドキュメンタリーって感じで、こんなことあったら嫌だな〜なんて思いながら読んでました。治験のことは知らなかったし、周りからもそんな事を聞いたことがなかったので、こんなアルバイトもあるんだ〜って思いましたね。でも、この映画のような感じに治験していたら、まともな薬なんて出来あがらないですよね(笑)。
Jun Toba
僕も同じで、面白いなって思いました。治験のことは詳しく知らなかったので、フィクションとはいえ、読んでいてドキドキしましたね。もし出させていただけるなら、やりたいって思える台本でした。水橋さんや大森さんなど共演する方々も良かったですし、作品に出演できたこと自体、とても良かったなあって思えますね。 |
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物語の「結」の部分に当たるラストには治験を終えた福家たちのその後が描かれる。その内容は映画を観ていただくことにして、治験だけで終わらせず、最後にもう一展開を付け加えた意図について尋ねてみた。
Yoichiro Hayama (Director)
青春群像ものとしてのその後もきちんと描きたかったんです。青春の挫折というか、友人に裏切られる事って、誰でも多かれ少なかれ思春期に経験することだし、そこまではきっちり描いてあげたかったという気持ちもあったので、描くことにしました。福家の再生まで描いたので、そんなに嫌なラストにはなってないと思うんですけどね。また、水橋君がああいったシーンにはまるんですよ(笑)。すぐ泣いちゃうところとかも。だからイメージ以上のシーンが撮れたと思います。 |
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『サル』より。右手前から鳥羽潤、水橋研二。 |
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本作で「治験」というアルバイトを友人たちに紹介し、どこか一歩引いて物事を見つめる井藤を演じた鳥羽潤も最後のシーンで、物語の全体においてキーポイントとなる大きな役割を果たしていることがわかる。彼の役どころについて、演じた本人はどう思っているのだろうか。
Jun Toba
井藤のようなヒールというか、ああいった役を演じたのは初めてだったんですよ。最後の水橋君とのシーンも何がなんだかよく分からず、言われるまま笑う演技をしていたんですけど、監督も最後に笑うシーンはちゃんと撮れたからって言うんですよ。作品を観ていただいたほかの方にも、あの最後の笑うシーンは良かったよって言ってもらえたので、自分ではまだよく分からないんですけど、そのシーンを含め、こういった役をやることが出来て良かったって思うし、これからももっともっと色々な役が出来れば良いなって思いましたね。
後半の展開や描き方はどうであれ、前半だけを観ていると、自分も気軽に治験を受けてお金を稼いでみようかな…なんて気分にさせてくれる。そもそも監督がこの「治験」を映画化しようと思いたったきっかけは何だったのだろうか。 |
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Yoichiro Hayama (Director)
自分が治験をやってみようと入院したら、すごく面白い個性のある人たちがいるんですよ。映画の中にブルースバンドをやっている人たちも出てきますが、バンドとか演劇をやって青春に夢を掛けているような連中が一杯いて、やることがないから、みんなそういう身の上話みたいなものをするんです。それで、こういう閉じこめられた中でのコミュニケーションを映画のテーマにしたら面白いんじゃないかなって思いました。思いついてから実際に映画化しようと取りかかるまでに時間はかなり掛かっているんですけどね。「死体洗い」のようなアルバイトの伝説がありますけど、それと並んで新薬の人体実験のアルバイトも噂として囁かれることが多いじゃないですか。自分の周りでやった人がいなくても噂では聞いたことがあるし、どこで何が行われているのか判らないし、そういう好奇心は映画化することで満たせると思ったんです。それは、映画の企画として力を持つんじゃないかと思って、具体的に映画にしようと思い始めました。 |
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気楽に始めた治験が次第に深刻な状況になってくる中で、役者たちはドキュメンタリーの手法からホラーに至るまで幅広い演技が要求されたと思う。それぞれの役を演じる上で難しかったり悩んだりしたことはあったのだろうか。
Jun Toba
もちろん難しいんですけど、現場では夜10時以降は外出できないし、朝起きてすぐに患者服に着替えるのでリアルに治験をしてる感じでしたね。夜もすぐ寝ますし。夜に外出したのも一回だけだったかな。しかも、門限があるから、出ていくときも鍵が閉まっちゃうんじゃないかってみんなで心配して、靴か何かをはさんで出ようか?(笑)みたいなこともありましたし、水橋さんとか南朋さんとかともずっと一緒にいたし、撮影中でもそうじゃない時でも治験の場所にいるっていう感じなので、普通、演じるときには役柄に入り込まなければならないですけど、リアルな場所にいたのですごく入り込み易かったというのはあります。
Kenji mizuhashi
難しかったのは、どうおかしくなっていくか…というところです。別に病気で変になっていくわけでもないし、自分で薬をやったりして狂っていくわけもないし、いつの間にか狂わされている…という感じなので、その都度監督に聞きました。「どれくらいですか?」って(笑)。あんまりウソっぽくなってもいけないし、まだここは普通にしなくちゃいけないとか、そういう段階の演じ分けが難しかったですね。 |
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本作は水橋研二、大森南朋、鳥羽潤をメインに据え、草野康太、水川あさみ、戸田昌弘、中谷彰宏らが共演して作品に彩りを添えている。そういったキャスティングには何かこだわりがあったのだろうか。
Yoichiro Hayama (Director)
皆さん、すでに映画で観ていいなあと思っていた役者さんたちで、プロデューサーのおかげもありますが、脚本に沿った理想的なキャスティングが出来たと思います。特に誰かを想定して脚本を書いていたわけではないですね。書いている間は自分とそのときのメンバーをモデルにしているので、そのときの彼等の顔を思い出しながら書いていました。
ここで前の仕事を終えてやってきた大森南朋さんが合流した。まずは作品に出演した想い出を語ってもらった。
Nao Omori
みんなで合宿みたいに撮影していたので、すごく楽しかったですね。みんなで作品を作っていったという感じがします。ぼくの役柄は白髪のメッシュを入れて、ちょっと老け役だったんですけど、いつもと違う感じの役が出来たので嬉しかったですね。 |
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映画の中に登場する福家たちは自主映画の製作費捻出のために治験を受けている。また生活費を全て治験で稼いでいる強者も登場する。もし、実際にどうしてもお金が必要になったとしたら、治験を受けるのだろうか。また、治験のような変わったアルバイトはしたことがあるのだろうか伺ってみた。
Kenji mizuhashi
いやー、治験は怖いですよね。遠慮したいです。地道に他のアルバイトを探してお金を稼ぎたいと思います。今までそんなに変わったアルバイトはしてないですけど、いろいろ一通りやりましたよ。引越屋、喫茶店、居酒屋とか。一番面白かったのは高校の時の喫茶店かな。カレーライスが美味しくて(笑)。ほんとに幸せでした。
Jun Toba
僕もやらないと思いますよ。けど、やるかも…っていうのも正直どこかにありますけど、副作用とか考えたらやっぱりやらないかなぁ…ってどっちやねん(笑)。今までやってきたバイトではこれといって変わったものはしたことないですね。
Nao Omori
僕もやらないですね。よっぽど大金をもらえるなら別ですけど。(しばらくの沈黙の後)…でも、あまりにもお金がないとやるかもしれないですね。今までバイトでは古着屋とか植木屋とかやってました。 |
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こうやってインタビューをしていくと、佇まいといい喋り方といい、それぞれの素の個性がそのまま映画の中のキャラクターに反映されているように感じる。監督が起用した役者たちと一緒に仕事をしてみた感想を聞いてみた。
Yoichiro Hayama (Director)
みんな思っていたとおり集中力が凄くて天才だと思いましたね。でも、彼等の印象…というよりも、会ったときからその役柄の人なんだって思って接していたし、彼等もそんな感じで役を作ってきてくれたので、初めからその役柄の人間が集まって、「よろしくお願いします」で始まったように感じていました。
一言、一言、言葉を選びながらゆっくりと自分の考えを語る監督。失礼かもしれないが、大勢の映画に関わるスタッフたちをぐいぐいとまとめあげていくような力強さを持っているとは思えないほど、物静かだ。しかし、実際に一緒に仕事をしてきた役者たちは、そんな監督の見た目とは裏腹に別の一面を見出しているようだ。
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Nao Omori
監督の印象は、気合い入ってるなーって感じでしたね。リハの初日とかは特にそういう感じが漂ってました。役柄については台本を読んで自分の思うことと監督の思うイメージがあるので、その辺は相談しました。
Kenji mizuhashi
監督が脚本を書いていたので、どこまで本当に体験したのかっていうのが気になってましたね。現場でも話題になっていましたし。監督は本当に治験に行ったのかとか、本当に狂ったのかとか(笑)。台本は本当っぽかったけど、聞きづらいしなあ〜とか思って、誰が聞きに行くかってジャンケンした覚えがありますね。潤くんが負けましたけど(笑)。現場中は楽しかったですよ。のびのびやらせてくれるし、違うところははっきり違うとか、こうして欲しいとか言ってくれるので、自分の中ではうまくやれたと思います。
Jun Toba
がんがんに熱い方だと思いますね。僕はもうまかせっきりで、最後のシーンとかも不安だったんですけど、まかせられたし。この話も実体験だと言うことも聞いていたので、思い入れとかもあると思うので、気持ちにはこたえたいなーって思いましたね。 |
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実は熱いものを内に秘めたる監督だったとは、思いも寄らなかった。監督は役作りの上で水橋さんがかなり言い合ったということもポロリと言っていたので、よほどやりあったのだろう。短い撮影期間の中でそうした濃い時間を過ごしてきた役者たち。撮影場所は藤沢湘南台にある、企業のセミナーハウスを借り切ったのだとか。住宅地の中で周りには何もなくかなり不便だったことが、より映画のシチュエーションに近かったようだ。最後に、そんな撮影中の想い出をもう一度振り返ってもらった。
Nao Omori
みんなで揃って演技をしてるシーンが多かったので、わいわいやりながら芝居を作っていった感じがします。病室とか喫茶店のシーンとかそうでしたが、みんなとの微妙なやりとりとかがあって、そこが楽しかったです。でも、一カ所特別台詞が長いのがありました。そんなにNGは出していないですね。まあ、僕が一生懸命台詞を覚えているところに、水橋君に遠くからからかわれた記憶はありますけど(笑)
Kenji mizuhashi
どこかのシーンというよりも、みんなでいたあの場所が印象に残ってますね。合宿状態で、朝起きたら入院してるみたいだし、おはようございますって言った瞬間に病人になってる感じだし、お疲れさまですって言ってもまだ病人だし。二週間ぐらいいましたけど、たまに外に出て「今日はすごく日が出てるねー」って思えちゃうぐらい、室内にいましたね。まわりには何にもないんですよ。ご飯は食堂があったので、そこでずっと食べていて、どこまでが撮影なんだよって感じです(笑)。
Jun Toba
僕はあの水橋君が出ている夜の暗いシーンが印象に残ってますね。ドキドキしながら観てました。撮影中ほんとにびっくりして声出した役者がいたぐらいでしたからね。あとは合宿みたいな感じでしたから、みんなといろいろな話をしたりとか、そういったことが印象に残ってます。 |
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インタビューを終えた印象に残ったのは、とにかく「合宿」という言葉が常に出てくることだった。映画の状況的に必要だったことが、学校の遠足や修学旅行のような楽しい想い出となって残ることは、なかなか無いと思う。普通、映画のインタビューで撮影した場所が一番思い出だなんていう事はめったに聞かない。よほど楽しく、そしてみんなが一緒になって作り上げていった作品なのだろう。『サル』は12/6よりテアトル新宿レイトショーを皮切りに全国順次公開予定。
文・写真 うたまる(キノキノ)
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