OUT OF TIME
STORY:
フロリダの小さな町の警察署長マット(デンゼル・ワシントン)は、亭主の暴力に悩む高校時代の後輩アン(サナ・レイサン)と浮気中。マットの妻アレックス(エヴァ・メンデス)は大都市マイアミの殺人課刑事だが、二人は別居中で離婚係争に入る段階。アンは主治医にガンの転移を告げられ、余命いくばくもないことを知らされる。唯一の望みである代替治療には巨額の金が必要となることを知ったマットは、ここで飛んでもない行動に出て、殺人をはじめとする重要事犯の被疑者に自分で自分を追い込みかねぬ、のっぴきならない状況に陥る。ここからどうやって抜け出すか、が『タイムリミット』の由縁。

REVIEW:
1時間30分、ともかく退屈させずに引っ張ってくれる映画ではあるのだから、エンタテインメントとしてはまず合格と言えるのだろう。けれどもデンゼル・ワシントンの出演にあまり多くを期待しないほうが良い。あの『トレーニング デイ』の悪役ぶりとか、『フィラデルフィア』でトム・ハンクスをサポートする弁護士役の複雑な演技などが頭に残っていると、ちょっとがっかりすること間違いない。

それというのも全ては脚本のせいだ。無実の男が罪に追い込まれそうになるのはよくある話だが、これはまず良しとして、限界状況に至るまでと、そこから脱出する経緯には、ある種の納得させられるものが必要で、それがあってはじめて観る側にも緊張感が生まれる。次から次に出てくる難問がどうもありきたりの寄せ集めで、それらへのマットの対応もこうすればこうなると読めてしまうからつまらない。言ってみれば、設定がお子様向けのジグソー・パズルのようなもので、どうも緊迫感が生まれてこない。極め付きは、プロットの大事なところに出てくる「冒険大活劇」的な、ホテルのバルコニーにぶら下がっての格闘シーンで、こんな場違いなものを使われるとこの映画がスリラーなのかコメディーなのか判らなくなってしまうよ。なにもかもリアリスムをというわけじゃないけど、中途半端はいただけない。この脚本はプロット自体、随所に「どこかで見たことが」の印象があるだけでなく、一見まじめな主人公に葛藤を持たせるという前提から出発して、スリラーとしての安易な道具立てを盛り込みすぎたこと、果ては黒人に対する差別に至るまで、あまりにも多くの要素を抱え込んだことで立ち往生しちまったようだ。それでいて最後の数分間には削ってしまったほうが良い場面がくっついている。また、例えば離婚しそうになっているマットの妻、アレックスは、本部の殺人課エリート刑事という役柄だが、どうもその感じが出ていない。メンデスはミスキャストだ。警官とか警察を使う映画ではその雰囲気作りがとても大事で、そこが上手く行かないと全体の味が薄くなってしまう。

儲けものなのは撮影のテオ・ヴァン・デ・サンテによるパステル調のフロリダ風景で、アメリカでも特異なこのあたりの感じが実に美しく描かれている。キャストの中で得をしたのがマットの同僚、酒飲みでだらしのない検視官、チェイ役のジョン・ビリングスリー。役柄にも合っているのだが、さらってしまう場面が少なくない。

全体にきついレビューになってしまったが、実はハリウッドではよく作られるカテゴリーで、最初に言った通り、時間が経つのを意識させぬところは中々の作品。仕事で疲れたアタマを休めるために水割りを抱えてDVDかなんかでエンジョイするには最適と、これはまじめな話、そう思う。

Text:NORIO Saitoh

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『タイムリミット』
2004年4月10日より 渋谷東急ほか松竹・東急系にて全国ロードショー
(2003年/アメリカ/1時間45分/配給:東芝エンタテインメント)

CAST&CREW:
監督:カール・フランクリン
製作:ニール・H・モリッツ
出演:デンゼル・ワシントン、エヴァ・メンデス、サナ・レイサン、ディーン・ケインほか

REVIEWER:
NORIO Saitoh

EXTERNAL LINK:
『タイムリミット』公式サイト