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Van Helsing
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吸血鬼に人造人間に狼男、モンスター大集合祭りに身悶えすべし。
「ダレ場なさすぎ!」(by映画秘宝)の痛快活劇アドベンチャー大作だ!
REVIEW:
ユニバーサルの地球ロゴがモノクロになり、燃え上がって松明の火になって開幕! カッコイイ! 手に手に松明を持った村人が森を抜けてトランシルヴァニアの城へと押し寄せ、墓を暴いて得た死体から人造人間を造ろうとする罰当たりな城主を、血祭りに挙げようとしていた! 古式ゆかしい怪奇映画『フランケンシュタインの怪物』の巻ィ――ってな口上が入りそうな白黒プロローグで度胆を抜いたかと思えば(でもドラキュラ伯爵ネタが絡んでて、んん?とも思う)、その1年後=1888年の夜のパリで、我らが主人公ヴァン・ヘルシング(ヒュー・ジャックマン)が登場! 人殺しとも聖人とも呼ばれるモンスター・ハンターの彼は、超人ハルク化するジキル博士=ハイド氏をロンドンから追ってきたらしく、ついにノートルダム寺院あたりで大活劇を繰り広げることになるのだ! そん時に600年モノの文化遺産であるバラ窓をぶち壊したこともあって、ヴァチカンに戻って枢機卿に大目玉を喰らうのだが、すぐに発明小僧の修道士カール(デヴィッド・ウェンハム)を連れて東欧へ向かうことに――(ニ頭の馬だけでのアルプス越えをスケール感のある空撮にしちゃうのは『ロード・オブ・ザ・リング』以降のお約束かとニヤリ)。そのトランシルヴァニアではジプシーの王族、ヴァレリアス家の末裔であるアン王女(ケイト・ベッキンセール)が、狩り出したウェアウルフ=狼男と死闘を続け、彼女の兄ヴェルカン王子(ウィル・ケンプ)が犠牲となってしまった! さて、ヴァンとアンは女吸血鬼ども(ドラキュラの花嫁たち)の飛来する村で「御対メ〜ン」するのだが……と、ここまででもまだ序の口。矢継ぎ早に見せ場を繰り出し続けるアクション大作は、まさに「ダレ場なさすぎ!」(by映画秘宝)と言いたくなるほどエピソードを満載しまくった、大長編スペクタクル・アドベンチャー映画なのだ。
初見はなんの予備知識も持たず、うっかりアニメにもなった平野耕太の漫画『Hellsingヘルシング』のハリウッド映画化だとか根拠もなく思い込んでた頓馬な僕なのだが(笑)、いやあコッチも凄い。もともとブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』(1897)中の登場人物(つーか手記の書き手の1人)だったアムステルダム大学のヴァン・ヘルシング教授。以後の“吸血鬼もの”には欠かせない必須キャラとして、主役共々、その子や孫や曾孫が登場したり組織の名に冠されたりしてきたのだが、オリジナルは60歳位だったのに(事件自体は1885年が舞台)、本作では3年後に外見上その半分ぐらいの若さになってて堂々のタイトルロール=主役を張ってるという設定には、どうにもヤラレタ感あり。実は彼自身、過去の記憶がなく、反キリスト教な怪物を退治したり怪事件を解決したりするローマ・カトリック教会直属の裏組織「聖なる秩序の騎士団」に拾われてモンスター・ハンターになったらしい――といういきさつが小出しに語られるのだが(平野『Hellsing』では英国国教会直属の裏組織ヘルシング機関って設定だったなぁ)、永遠に生きる吸血鬼とも何やらお知り合いみたい、と言うことは……? とか、元ネタの小説群(メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』1831年、ロバート・ルイス・スティーヴンスン『ジキル博士とハイド氏』1886年、狼男は……?)や往年のユニバーサルのホラー映画群(あと『エイリアン2』とか)を知ってると、はたまた菊池秀行+天野喜孝『吸血鬼ハンターD』なんてのが好きだった人(映画秘宝によると「秋葉系」よばわりされてるが)、あるいは古典文学ヒーロー大集合の『リーグ・オブ・レジェンド』(03)にハマった人なら、ニヤニヤしたり身悶えしたりしてしまうことは請け合う。あ、でも混乱するかも。たぶんこの映画を心底楽しめるのは、そういった余計な知識を全く持ってない人か、全部知り尽くした怪奇幻想オカルト・オタクか、そのどちらかなのかもなぁ……とも思った。
『ミイラ再生』(1932)のリメイク『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』(1999)シリーズでヒット・メイカーとなったスティーヴン・ソマーズ監督が、「ユニバーサル・モンスター大集合映画」という縛りで、さらに<インディ・ジョーンズ>ルックス+無頼派アウトロー・テイストの新ヒーローを据えて挑んだ大作。主演が『X-メン』で狼男系ミュータントのウルヴァリンだったヒュー・ジャックマン、ヒロイン役が『アンダーワールド』で吸血鬼一族の跳ねっ返り娘セリーンだったケイト・ベッキンセールってのも洒落が効いてていい。ま、個人的にはB級ドタバタ・コメディ味の良さがあった『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』の方が好き、今回はちょっとお金掛け過ぎ・凝り過ぎで、胃にもたつきそうなコッテリ演出なのが瑕か。なお本作の前日譚は『ヴァン・ヘルシング:アニメーテッド』(DVD発売中)で要チェック。何故、ヴァン・ヘルシングが「女王陛下のお尋ね者」でもあるのかが、これを観ればわかるゾ! あ、あと本作で一番美味しいキャラ、心優しいフランケンシュタインの怪物の顛末が、何故か『MUSA-武士-』のラストシーンとダブったのは、ひょっとして僕だけ?
Text:Hidemaro Kajiura
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Other Reviewer's Comment:
モンスターの中でも特にメジャーであるドラキュラ。1897年に出版されたブラム・ストーカーの怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」がオリジナルになりますが、それを元に最初に作られたドラキュラ映画は1922年の『吸血鬼ノスフェラトゥ』でした。とはいえ、映画化権を正式に獲得していないのにフリードリッヒ・ウィルヘルム・ムルナウ監督が作ってしまったため、後に著作権侵害で訴えられ、敗訴。映画公開の中止、フィルムの処分などを命じられます。とはいえ、現在では破棄されずに残ったフィルムが著作権保護期間を過ぎたため観ることが出来ます。興味のある方はどうぞ。
そのトラブルの後、正式に映画化権を獲得したのはユニヴァーサル社で、31年にトッド・ブラウニング監督による『魔人ドラキュラ』が製作されます。ドラキュラを演じたべラ・ルゴシの姿が、その後の紳士風なドラキュラ像になりますが、彼が作りだした容姿は原作とは随分と違ったフォルムで、『ノスフェラトゥ』(『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』でも可)の姿の方がオリジナルに近いようです。この映画のヒットにより、ユニヴァーサル社は怪奇ホラーやモンスター映画に力を注ぐようになっていきました。それが行く行く、狼男、フランケンシュタイン、フランケンシュタインの花嫁、透明人間、半漁人といったドル箱スターならぬドル箱モンスターを抱えることになるわけです。
また、ドラキュラと対をなして有名なヴァンパイア・ハンター、ヴァン・ヘルシング教授は様々な人によって演じられてきました。31年の『魔人ドラキュラ』では『フランケンシュタイン』『恋のページェント』のエドワード・ヴァン・スローンが。58年の『吸血鬼ドラキュラ』では『スターウォーズ』や『ゾンビ襲来』のピーター・カッシングが(ドラキュラ役はクリストファー・リー)。79年の『ドラキュラ』では『ヘンリー5世』『嵐が丘』のローレンス・オリビエが(ドラキュラ役はフランク・ランジェラ)。92年のコッポラ監督による『ドラキュラ』ではアンソニー・ホプキンスが(ドラキュラ役はゲイリー・オールドマン)。そして、00年の『ドラキュリア』では『サウンド・オブ・ミュージック』のクリストファー・プラマーが演じています(ドラキュラ役はジェラード・バトラー)。
と、まあ前置きが長くなりましたが、そういったユニヴァーサルの歴史あるモンスターと数々描かれてきたヴァン・ヘルシング教授が本作『ヴァン・ヘルシング』として蘇ったわけです。それに、原作でヘルシング教授は60歳だったので、比較的年輩に描かれることが多かった彼も、ソマーズ監督は本作でキャラクター像を一新し、新たなヒーローとして生まれ変わっています。黒い衣装を身に纏い、つばの広い帽子と装飾の付いた武器。ダークヒーロー的な格好良い姿の主人公ですが、数年前公開された『ヴァンパイア・ハンターD』と良く似ていたりもします。ヴァンパイア・ハンターをビジュアル化すると、似て来ちゃうものなんでしょうかね。
さて、そのスティーブン・ソマーズ監督は、大ヒットした『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』『ハムナプトラ2・黄金のピラミッド』を手がけていますから、日本でももうお馴染みですね。映像面では、ハムナプトラシリーズと同じ匂いが漂いつつも、ストーリーは恋愛からアクションまで盛りだくさん。各モンスターの設定なども、さすがユニヴァーサルだけあってオリジナルを大切にしています。それに“5分に1回の驚愕映像”というコピー通り、ILMが手がけたCGや特撮がこれでもかと繰り広げられるので、上映時間の133分は長く感じません。
ソマーズ監督はドラキュラに加え、花形スターの狼男とフランケンシュタインも登場させていますが(冒頭でハイド氏も登場)、フランケンシュタインはユニヴァーサルがキャラクター・デザインを意匠登録しているので、本家本元、頭が平らで首にボルトの付いている誰もが思い浮かべるスタンダードな姿で登場しています。フランケンシュタインの姿に意匠登録があったなんて今まで知りませんでしたが、どうりでイギリスのハマー・フィルム製作のフランケンシュタイン・シリーズでは、似て異なる姿で登場していますし、「怪物くん」のフランケンも首のボルトは描かれていませんね。そういやティム・バートン監督の『フランケン・ウィニー』は首にボルトがありましたっけ。
出演者に目を向けると、バチカンの秘密組織から命を受けモンスターを狩る男、ヴァン・ヘルシングを演じるのは、『Xメン』シリーズや『ソードフィッシュ』のヒュー・ジャックマン。ソマーズ監督は脚本の段階からジャックマンを想定していたそうです。ドラキュラとの闘いに命をかけるアナ王女を演じるのは『パール・ハーバー』や『セレンディピティ』のケイト・ベッキンセール。『アンダーワールド』では吸血鬼の女戦士セリーンを演じ、狼男族と戦っていましたが、今までのイメージをうち破る“戦う女”が随分と決まっています。世界を手中に収めようと画策するドラキュラを演じるのは『ムーラン・ルージュ』『リーグ・オブ・レジェンド』など、悪役を演じることの多いリチャード・ロクスバーグ。彼もまた、監督から熱烈なオファーがあったのだとか。そして、野獣の毒牙に冒され苦しみを味わうアナ王女の兄ヴェルカン役に映画デビューとなるバレエ界の貴公子、ウィル・ケンプ。さらに、ヴァン・ヘルシングの相棒であり、モンスター抹殺武器の発明家カールを演じるのは『ロード・オブ・ザ・リング』のファラミア役が記憶に新しいデヴィッド・ウェンハム。善人のモンスター、フランケンシュタインに『恋する遺伝子』や舞台で活躍しているシュラー・ヘンズリーなど、個性的な役者が幅広く揃っています。
モンスター達の活躍を楽しむも良し、ゴシック系のデザインをふんだんに取り入れられた衣装を着る登場人物達を応援するも良し、最新技術を惜しみなくつぎ込んだ映像美を楽しむも良し、次々と山場を迎えるストーリーを楽しむも良し。ソマーズ監督らしいざくざくとした編集を雑に感じるか、はたまたスピーディーと感じるかは観客の好みにもよりますが、とにかく大画面で堪能してほしい1作です。
Text:UTAMARU
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Copyright © 2004 UNZIP.
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『ヴァン・ヘルシング』
2004年9月4日、日比谷スカラ座1他・全国東宝洋画系にて公開
(2004年/アメリカ/2時間13分/配給:ギャガ=ヒューマックス共同配給)
CAST&CREW:
監督・脚本・製作:スティーヴン・ソマーズ
出演:ヒュー・ジャックマン、ケイト・ベッキンセール、ウィル・ケンプ、リチャード・ロクスバーグ、デヴィッド・ウェンハム、シュラー・ヘンズリー、ほか
REVIEWER:
梶浦秀麿
UTAMARU
EXTERNAL LINK:
『ヴァン・ヘルシング』公式サイト
DVD:
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