母にも父にも捨てられた孤独な少年と、自身も孤独を抱えるトルコ商人の老人。そんな二人が出会い、互いに必要不可欠な存在になっていく。聡明な老人はコーランの教えを、幸せをつかむ小さなコツを、人生の楽しみを少年に教え、そして少年は人生の豊かさを知っていく。パリの裏通りで繰り広げられるささやかな話。やがて舞台はパリを離れ、海を渡り、トルコへと移って行く。人種や世代にとらわれず、心を通わせることの温かさを描いたハートフルな作品「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」。
大きな包容力で少年に愛情を注ぐイブラヒムを演じたのは、「アラビアのロレンス」の名優オマー・シャリフ。そして、その名優を相手に堂々の演技を見せたのが、本作品がデビューとなったピエール・ブーランジェ。はにかんだ笑顔がキュートだった少年も、今ではりっぱな青年に!今回は公開に先立って来日したピエール・ブーランジェに「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」を語ってもらいました。

初めての演技、初めての撮影現場はいかがでしたか?
イブラヒムおじさんとコーランの花たち 
今回演じたモモと僕の間にはいろいろと共通点があったんだ。年齢のわりに大人びているところ、好奇心や冒険心があるところなんかね。それは演技をするうえでとても大きなことだったと思う。監督からは「勝手にしやがれ」のジャン・ポール・ベルモンドをお手本にするように言われたよ。あの躍動感のある所作を学べって。
撮影現場はとてもいい雰囲気だった。オマーがジョークを飛ばしたり、スタッフやエキストラにも気さくに声をかけたりして場を盛り上げてくれたんだ。この作品は心温まるストーリーだから、現場が和やかであることはとても大切なことだった。彼は本当にプロフェッショナルだよ。
名優と呼ばれるオマー・シャリフとの共演でしたがいかがでしたか?撮影中のエピソードをお聞かせください。
オマーとはいろんな話をしたよ。イブラヒムおじさんとオマーは共に賢明でよく似ているんだ。彼は僕にこう言ってくれた。「モモがもたらしてくれたものはお前のものだよ、モモが失ったものもお前のものだ。」って。これは僕にとって忘れられない言葉になった。モモがイブラヒムおじさんをだんだん尊敬していくように、僕もだんだんとオマーを尊敬していったんだ。撮影の合間にはチェスをした。実は勝てる自信がちょっとあったんだけど、とんでもない!こてんぱにやられちゃった(笑)。僕達は精神的に分かち合うものが多かった。もしオマーと同年代だったらきっと親友になっていたと思うよ。
この作品を通してあなた自身がイブラヒムおじさんから学んだことはありますか?
イブラヒムおじさんはとても賢明な人。口数は多くないけど、彼の言葉(セリフ)はどれもとても意味が深いんだ。どの言葉(セリフ)からも学ぶことが多かった。この作品は全体を通して平和や寛容であることの大切さを伝えてるんだ。僕の友人の中にはユダヤ人もアラブ人もいる。僕自身、元々人種や宗教に対して寛容であったと思うけど、この作品に出演したことでそういうことがとても大切なことなんだって改めて教えられたよ。
映画の中には宗教や民族に触れた様々なセリフが出てきます。イブラヒムおじさんは「宗教はものの考え方だ、内面性だ」と言っていますし、モモは「ユダヤとはパパにとっては落ち込むこと。ボクにとっては足かせだ」と言っています。あなた自身、宗教や民族について何か思うところはありますか?
僕は無神論者じゃないから神はいると思ってる。でも、それは何か特定の神というわけじゃないんだ。信じる神が違うという理由で争っている現状はあまりにも悲しいと思う。イブラヒムおじさんはイスラム教徒、モモはユダヤ教徒だけど、彼らはお互いを必要としていた。そこに宗教や民族は関係ないんだ。僕自身もそうあるべきだと思ってる。その点に共感できたからこそ、この映画に深みが出せたんだと思うよ。
この作品でシカゴ男優賞を受賞されましたが、受賞を知ったときはどんな気持ちでしたか?
とにかくすごく嬉しかった!トロフィーはちゃんと部屋に飾ってあるよ。男優賞は僕で、女優賞は「スイミングプール」のリュディヴィーヌ・サニエだったんだ。彼女と対等な賞をもらえてとても光栄だよ。
目標とする俳優や共演したい俳優はいますか?この先演じてみたい役柄があったら教えてください。
目標とする俳優はパトリック・ジュペール。共演してみたいのはマーガレット・ヨハンソンかな。今後チャレンジしてみたい役は日常から離れた人物。日常の生活空間にはいないような役を演じてみたい。これからも俳優を続けて行きたいと思ってるんだ。自分以外の人間を演じるなんてなかなか体験できないし、素敵なことだから。
これから作品を観る方々にメッセージをお願いします。
この映画は観た後に穏やかになるし、暖かいい気持ちになれる作品なんだ。殺伐とした今の世の中だからこそ、平和や寛容といったメッセージ性のあるこの作品をより多くの人に観てほしいと思う。エンターテイメント性の強い作品とはまた違ったものが得られると思うしね。この作品には60年代のフランス文化が詰まっているんだ。そこに注目して観るのも面白いと思うよ。
とにかく、聡明な青年という印象のピエール・ブーランジェ。自分なりの思想を持って作品をとらえている姿に好感がもてました。パリ生まれのパリ育ちらしく、そこはかとなく漂うインテリジェンスな香りも魅力的。ハリウッド作品にも興味があるそうなので、今後スクリーンで彼の姿を観る機会が増えるかも。現在17歳!これからの活躍が楽しみな俳優です。
Text:Noriko Kaji
[イブラヒムおじさんとコーランの花たち]
2004年11月20日 恵比寿ガーデンシネマにて公開
監督:フランソワ・デュペイロン
脚本:フランソワ・デュペイロン/エリック=エマニュエル・シュミット
出演:オマー・シャリフ/ピエール・ブーランジェ/ジルベール・メルキ/イザベル・ルノー/
   ローラ・ナイマルク/イザベル・アジャーニ
2003年/フランス/1時間35分
配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ
宣伝:ギャガGシネマ風
公式サイト http://www.gaga.ne.jp/ibrahim/
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