Q.映画の中で演じたヤンと自分の共通点、もしくは相違点は? ヤンとの共通点は沢山あると思います。熱い部分とか。ドイツへの怒りも持っているつもりです。違う部分は態度が一貫していない部分でしょうか。社会について友人達と語り合うことはあるけど、具体的に何かをすることはありません。映画の中の登場人物はリアルではありませんし、リスクも描かれています。それらは現実的ではないし、彼らと同じことをする必要もないし、ほかの方法があると思ってます。自分自身は何か組織に入ったり、党に入党したいという気も起きませんね。規則にしばられるのは嫌ですから。一番大切なのは社会に不満を持ち、社会を変えたいという意識を常に持っていることだと僕は思っています。 Q.監督と一緒に仕事をすることになった経緯を教えて下さい 監督とは数年前に一緒に仕事をして、二人のキャリアのスタートでもあったことから、それ以来良い友達になりました。今後良い映画を撮っていこうという話にもなったんです。僕はコメディを撮りたかったのですが、ハンスが政治的なことを描きたいと言うことで、まず彼にシナリオを書いてもらいました。でも、そのシナリオを読んだら、これではちょっと厳しいかも・・・って思ったんです。このヤンという人物はハンスであり、もう一人の監督が登場している作品でもあったんです。だから、ハンスが望む役になりきらなければならなかったのが嫌だったんですよ。でも話し合って、一緒にヤンを作っていこうということになって、結果的には自分とハンスの意見をミックスしたキャラクターになって、面白くなっていきました。 Q.今回の役づくりで特に苦労した点は? ヤンを演じるうえで難しかったのは、観客に共感を持ってもらいながら、ストーリー全体をひっぱっていかなくてはならなかったことでした。彼は攻撃的で、自分に対しても社会に対しても厳しいモラリストとして描かれています。また、親友のガールフレンドを奪って友人を裏切ってしまいます。展開も複雑なので、監督とは何度も話し合いました。何があってもヤンが好意的に受け止められなければならないですから。映画として成り立たなくなりますし。ちなみに、ガールフレンドとのやりとりは、僕が過去に同じような経験をしたので、それを元に演じました。愚かなことではありますが、決して悪ではない点を観客には分かっていただきたいですね。 Q.演技をすることの醍醐味を教えてください 今回、演じる上での醍醐味は、ヤンの持つ多面性だと思います。政治的なところ、反逆的なところ、革命的なところ、そして、彼が初めて恋をするところとかもですね・・。シナリオには特に書いてありませんが、ヤンの恋のエピソードは初恋だと信じて自分は演じていました。ヤンの中の大きな二つの力が衝突する点が、演じていて面白かった点です。あとは若い3人が山小屋で過ごすシーンがとても楽しかったですね。世代間の衝突が描かれているからです。 Q.映画の中では贅沢な生活をしている体制側が登場しています。ダニエルさんにとって許せる贅沢と、許せない贅沢はありますか? 難しい質問ですね。ドイツでも同じ質問をされて、背筋が寒くなる思いをしました。私は役者であってヤンではありませんし、まだ若いです。でも私はこの数年で大きな変化があり、今まで出来なかった贅沢も出来るようになりました。大事な事は、贅沢を出来ているという意識を持ち続けることだと思います。間違っても退廃的になってはいけないと思います。お金を持っている人たちを見ると、僕はそれが幸せなことだとは思いません。でも、好きに旅行が出来るとか、アパートに部屋を借りているとか、車を持っているといった贅沢は手放したいとは思いません。やはり度を超さないことが大切だと思います。 Q.主人公ヤンの魅力は? ヤンには面白い特色を与えたつもりです。一方で強く体制に反抗する一面を持ちながら、一方では、理想の女性像があるために女性と新しい関係を築くことが出来ない、傷つきやすい一面を持っています。映画の中では、その傷つきやすい彼がユールに恋をして、自分の心を開いていく・・・、そんな二面性が面白いと思っています。 Q.この作品を撮ろうと思ったきっかけは? 現在の社会を良い社会へと変えていこうとする若者と、経験があって、現状維持のままで良いと思っている年寄りが世の中にいて、社会はこの両者の対話によって、変革を遂げなければならないと思うんです。でも、今の若者はマスメディアや麻薬などによっておとなしく飼い慣らされていて、対立や対話は生まれていません。社会を変えていく力は眠っているわけです。この問題は、ドイツだけでなく各国でも同様で、社会は崩壊しつつあるのです。そして、富んだものがより豊かになるような税制などができ、富裕層が社会からかけ離れた構造になりつつありますす。その富裕層には大企業が含まれます。ですから、作品の中で、そういったことに対して反逆を試みているのがヤンたちであり、大企業の重役に対して、贅沢する時代は終わったと訴えているわけです。 Q.劇中には様々な曲が使われていますが、選曲は監督がしたのでしょうか? 曲は全て自分で選びましたが、専用のコンサルタントに協力を頼みました。選曲の基準は、登場人物の心情にマッチした曲と現代の若者を表す音楽、そして、良い意味で革命を起こそうと観客に思わせる曲を選んだつもりです。実は、サントラCDには映画の中で使われていない曲も入っています。それらの曲は俳優達がこの映画を意識した曲が収められています。 Q.撮影中の想い出は? 撮影クルーの規模が小さいので、街頭での撮影は映画の撮影だとは思われませんでした。映画の冒頭でデモ隊と警官が衝突するシーンがありますが、撮影中にそこを通りかかった女性が、警官に取り押さえられているデモ隊を見て、「その人達を解放してあげなさい」と、持っていた傘で警官をぼこぼこ叩き始めたんです。デモ隊は警察のバスの中に連れ込まれますが、撮影が終了したので、デモ隊を演じていた役者が車から出てきました。それを見たその女性は、本当に釈放されたと思いこんで、大声で喜んでくれていて、最後まで撮影だとは気が付かなかったんです。それがとても印象に残っています。どうして、その女性が迷わず警官のほうを攻撃したかというと、ベルリンの市民は警察に対して、批判的な考え方を持っているからです。 Q.デジタルビデオカメラを用いた理由を教えてください デジタルビデオカメラにしたのは、ドキュメンタリー風にしたかったこともありますが、ビデオの映像を見ると観客は瞬間的に現代の映像であると思いこむので、その特長を活かして撮りました。また、撮り直しが何度も利くのでお金もかかりませんし、アイデアが湧いてきたときに、色々試すことができるという利点もあります。また若い人たち出てきたときに、たくさん動くのでハンドカメラで撮った方が動きが出ると思ったので使いました。 Q.次の作品については? まだ決めていませんが、その次の作品の構想は出来ています。世界を崩壊から救う革命家のグループを描いた映画です。 Q.映画の見どころは? 見所は“ここ”と知って見に行くのではなく、何の予備知識もなく、フラリと映画館に入ってきて、作品を全身で感じて欲しいと思います。 Interview&Photo:うたまる |
『ベルリン、僕らの革命』原題:Die Fetten Jahre Sind vorbei
2005年春、Bunkamura ル・シネマにて公開 (2004年/ドイツ=オーストリア/126分/配給:キネティック、コムストック)
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