ヴィンセント・ギャロがやってきた!
Press Conference REPORT

待ちに待った待望の新作『ブラウンバニー』がついに日本上陸。その公開を前にこの秋9月、監督、主演、制作、…とにかく作曲以外、またまた一人で全部やってしまったヴィンセント・ギャロが来日、同月22日渋谷で記者会見が行われました。

カンヌでは人生最大の辛酸を嘗めることとなり、「もう映画は作らない。」と言ったとか言わないとか…そんな巷の噂もあったけれど、何はともあれこうして日本へやってきたわけだからもうすっかり気を取り直している事だろうと予測しながらもやっぱりその辺はどうなんだろうなんて好奇心を持ちつつ会見に臨みました。

ちなみに司会はクリス・ペプラーさん。
「ヴィンセント・ギャロの登場です。」
シャツにサンダルもしゃもしゃ頭、そんな格好が素敵妙にセクシーでかっこいいギャロ、表情は穏やかだけれど、会場をキョロキョロ見回す様子からは、リラックスしているのか緊張しているのか微妙に読めない。俳優ギャロというと『バッファロー‘66』の印象だけしななかったので、あまりそれまで深くも考えていなかったけれど、他の監督作品でしばしば特殊な役所をあてがわれているのが何となくわるような気が。カルトの教祖とかそんなちょっとサイコなキャラクター…みんなこの不思議な魅力に惹かれるんだろうなぁなんて。何が素敵と説明しづらい奇妙な引力みたいなものがあるのです。その日同行したUNZIP編集部の中村さんの「私、ギャロのあの佇まいが好きです。」の一言に妙に共感してしまうのです。

Q: カンヌでのバージョンからカット、編集された意図は何なのでしょう?

Vincent Garo:
何度も同じ質問をされるのはむかつく。今回のバージョンが完成版。カンヌに出したものはあくまでラフカットだったんだよ。『バッファロー‘66』だってサンダンスに出した時は違うバージョンだったんだ。それだけだよ。誰かの批評に影響されたなんて思って欲しくないね。

やっぱりカンヌネタには敏感な御様子。怒っちゃったのでしょうか…質問は続く。
『ブラウン・バニー』
2003年11月22日よりシネマライズほか全国ロードショー
監督・プロデューサー・脚本・撮影・編集・ヘアメイク・衣装・美術:ヴィンセント・ギャロ/出演:ヴィンセント・ギャロ、クロエ・セヴィニーほか
(2003年/アメリカ・日本/1時間33分/配給:キネティック)
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Q: 何でも(監督、撮影、美術…等)自分でやっていますよね。やってないのは料理くらいじゃないんですか?

Vincent Garo:
ううん…料理もやったよ。

Q: そんな風に全てのことを手がけるのは喜びなのですか?

Vincent Garo:
もともと全てのことをコントロールしたいと思う性質なんだ、極端にね。

(ギャロの業界暦は25年にもなるという。この世界の馴れ合い的な映画つくりには疑問を感じていて、20年も前から構想を練っていた今回の作品をそんな中途半端な枠に納まったものにしたくなかった。それでコントロールフリークである性分もあって結局全部自分の手で納得いくものに作り上げることに。)

良いものができたよ。勿論そのために友人をなくしお金をなくし健康まで損ねてしまった…大変なんだよ。だからまたやれって言われたらNoだね(笑)

(通訳の女性に)あ、ここからは訳さなくていいから。


(全米横断ロケの真っ只中、それはそれはハードな日だった。それなのにクルーである、いつも不満顔の日本人スタッフやベジタリアンの女の子(レズビアンと彼は呼んでいました)にまで振り回されて散々だったという小話で、会場は彼の話術(魔術)に引込まれていく。)


死ぬかとおもった!映画作りは本当に大変だね。(笑)
その後、ロードムービーでもあるこの映画、ルート選びにもこだわりがあったのでは?という質問には真摯な面持ちで回答。

Vincent Garo:
アメリカ大陸は何度も横断しているけれど、本当に絵になる。ただ一般的に美しいと言われているような風景を撮影したいとはそもそも思わなかったから、雨が降っていれば雨の中で、きれいな川があればそこで撮影をするというふうに撮影していったんだ。自分のその時の感情に近い風景をね。

アメリカの風景と自分(ギャロ)だけの映像が延々と続くシーンに対して「自己陶酔の極みだ」なんて言われていたみたいだけれど、そういわれると、一つ一つの背景だってちゃんと考えて選び抜かれたのだから素直に観てみましょうよと思ってしまいます。この発言が批評に対するエクスキューズだとしても、言葉にできるのだからそれでいいじゃない、なんてことも。

Q: 共演のクロエ・セヴニーについて、共演者に選んだ理由は?彼女の印象は?

Vincent Garo:
(うっすらと含み笑いを浮かべて)ふぅ…そうだねぇ。
クロエは実に一緒に仕事をしたくない、世界でワースト1の女優だったんだよ。彼女とは以前ちょっとしたフレンドシップがあって…そんなわけでね(笑)

あら、そんなこと喋っちゃっていいのかしら?とドキドキ。究極のラヴストーリーの相手役のキャスティング、クランクインを遅らせた一つの原因でもあったらしいのですが、かなりてこずったようです。とにかく、かなり面白くて、気付けば完全にこの会見彼のものに。ギャロのおしゃべりは絶好調。
Vincent Garo:
ある夜クロエが夢にでてきたんだよ。

(この映画の構想を思いついてからずっと、この役をやりたいといってくる女優もいたけれど、誰にするか決められないでいた。なのにクロエが夢にあらわれてからというもの彼女以外のキャスティングが考えられなくなり、偶然手に入れた彼女の番号に電話をかけてみた。)

「ハロー、ぼくだよ。ビンセント・ギャロ…」って思いきって電話してみてね、クロエは最初「何の用?」なんて感じだったけれど、とにかく映画の出演依頼をしてみたんだよね。勿論セクシャルなシーンがあることも含めてね。そしたら返事は、「あなたのこと大嫌いだったし、10年前なら絶対いやといったでしょうけど、今なら楽しいんじゃない。」だって(笑)。

(無事出演交渉も成功し、映画にリアリティーを出すために2人は本当のカップルのようにカルフォルニアのホテルの一室で密な2週間を過ごした。映画界の、特に女優との付き合いがが苦手なギャロだったけれど、クロエの100%の協力で映画は素晴らしいものになった。)


撮影後は電話もしないというルールを決めていたし、あれから彼女には会ってないんだ。撮影でこうやって彼女と再会して恋に落ち、今は失恋をしてしまったような感じだね。
でも…カンヌ映画祭では会わなかったのかしら?まぁまぁ、とにかく彼は演出家だし俳優でもあるのでどこからどこまでが真実なのか分からないのもそれでいい、それにロマンチストなギャロらしくて微笑ましいと思うのでした。しつこいようですが、面白かったし。
裏ネタトークの後
この作品の自伝性について訪ねられると、

Vincent Garo:
『バッファロー66』についてもいえることだけれど、自伝というものではない。そういう事を言われるのは残念だよ。勿論自分の出身地がバッファローであるとかバイクレーサーだったという実際の経験を映画に加えることで、物語にリアリティーを出そうとはしているけれど、例えばスパイク・リ−のような思想的な意味で自分を出したいと思うタイプじゃないんだ。

とにかくはっきりとものを言う人です。
そして最後の質問の時間になりました。
Garo in "the brown bunny"
Q: サウンドトラックについて、レッド・ホット・チリペッパーズのジョン・フルシャンテの楽曲が入っていますね。その経緯はどういうものだったのでしょう?

Vincent Garo:
映画の中では彼の曲は使ってないんだよ。

(彼とはいい関係で、構想の時点から協力してくれた。この作品のために10曲書いてくれたけど、結局この映画には他の曲を選ばなくてはいけないという自分のコントロール出来る範囲をこえたところで感じてしまい、映画には別のミュージシャンの楽曲5曲がセレクトされた。ジョン・フルシャンテの曲はサントラ盤にだけ納めることになる。)

それだけ、これしかないっていう曲に出会えなければいけなかったんだ。

Q: それ以外の曲の選曲のポイントは?

Vincent Garo:
僕は音楽マニアだから…。
けれど2万はあるコレクションからいざ一曲選ぼうとしたってそうは簡単じゃない。本当にこれしかないという一曲でなきゃダメだったんだ。風景が浮かんでくるようなね。

(“この一曲”に出逢うのにも、レアな音源を使う事や著作権の問題をクリアするのにもかなりの時間を費やすことになったけれど、かつてバスキアとバンドを組んでいた事もあるくらいミュージシャンとしてもプロ意識がありマニアックなギャロのこと、決して妥協はできなかった。


風景を彷佛させたり、あるシーンがフラッシュバックされるような、これしかないという一曲をみつけることはそれだけ映画にとって大切な事だと思う。

確かに情景にがっちり合った選曲だと思うし、その辺りはさすがです。サントラ版欲しくなりました。
会見はこうして無事(?)終了、その後中村さんはデジカメを手に撮影陣の渦の中に消えていきました。何が素晴らしいといって、やっぱりそれはギャロマジックでしょう。ナルシストだと言われますが、何でもできる人なのだからそれも当然、それにクリエーターならあれくらいでなきゃいけない。ショッキングなラヴストーリー『ブラウン・バニー』、賛否両論たしかにあると思いますが、ギャロの少年性をこうして感じてみると、本人がこれまで何度も主張してきたように自然体で最高にロマンチックな純愛映画に思えてくるのでした


『ブラウン・バニー』公式サイト
www.brownbunny.net

取材・文:コダマユキコ
写真:うたまる(キノキノ


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