ロバート・エヴァンズの半生を描いた本作はドキュメンタリーというカテゴリー分けに存在する作品ながら、そうは言い切れない面を持っています。あの人はあーだったとかこの事件はこーだったと客観的に語られるドキュメンタリーが多い中で、非常に主観的な視点を持ち、ロバート・エヴァンズという一人の男が過ごした日々を回想するような感じで物語が進んでいくのです。

そんな本作の雰囲気作りに一役買っているのが、主人公であるエヴァンズ自身がナレーションを担当してしまっていることでしょう。ドキュメンタリーで自らが語るなんてなかなかお目に…というかお耳にかかれないもの。しかしエヴァンズらしいと思わせるこの発想は、94年に発売されたエヴァンズ自身が吹き込んだ自伝のオーディオ・カセット・ブックが元になっているのだとか。6時間にも及ぶ自伝テープを売ってしまうなんて、さすがハリウッドのショービジネスで生きてきたプロデューサー!根底には元俳優でもあったエンターテイナーの血が流れているのでしょうね。(商才はあまり無かったようですが…)まだ現役でプロデューサー業をこなすエヴァンズの渋く重みのある言葉が説得力に拍車をかけております。
ロバート・エヴァンズ
『DOGTOWN & Z-BOYS』DVD
価格:4,700円(税抜)/発売元:パイオニアLDC(株)
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そして、面白い点というよりも本作の大きな特徴ともいえるのが、エヴァンズの保管していた膨大な写真をただスライドショーのように見せるのではなく、奥行きを持った立体写真に仕立てあげ、動画として確立した点でしょう。今までのドキュメンタリーといえば写真は写真でしかなかったわけです。ドキュメンタリー映画『DOGTOWN&Z-BOYS』では数多くの写真が使われ、編集機を駆使して写真をスライドやシェイク、回転させたりと、たくさんの動きを付け、クールな雰囲気の映像を作り出していましたが、やはり2次元的な動きにとどまっていました。とはいえ、これはこれですごく格好いいんですけどね。

そんな立体的に見せる一風変わった手法は監督たちが、コマーシャルを数多く手掛けてきたジュン・ディアズという編集マンを起用したことで生まれました。その映像は本作を見ていただくのが手っ取り早いのですが、説明するならば、オフィスで机に向かうエヴァンズの写真があるとします。この写真をオフィスの背景とエヴァンズと机の3つのパーツに切り分け、オフィスの背景が描かれた書き割りの前に人物と机の形をしたポップスタンドを置くような感じで、奥行き感を持たせるのです。その立体的な視覚効果をもたらす作業をしてくれるのがアフターエフェクトという動画編集ソフトなわけです。一見単純な作業のように見えますが、実は切り抜いた後に欠けた部分の処理をしなくてはならないことがとても面倒な作業なのです。
さきほどのオフィスの写真の話に戻りますが、オフィス内のエヴァンズを切り抜いたら、背景のオフィス人の形をしたに穴があきます。それに机を切り抜いたら机の陰に隠れているエヴァンズの体が欠けてしまいます。それぞれ穴が開いていたり欠けている“見えない”部分を一枚一枚、資料と想像力とクリエイターの手腕により補完し、人工的に絵を加え足します。そうすることによって、位置をずらしてもエヴァンズを動かしても欠けのない映像ができあがるわけです。

本編をご覧になる方はよーく映像をご覧になって下さい。エヴァンズがもし横に移動していたならエヴァンズが元いた場所の画像やエヴァンズの輪郭線に注目です。クリエイターの手によって見事に補完・補充され、あたかも、最初から別のパーツで用意されているような映像をみることが出来るでしょう。これだけ膨大な量をこなしたスタッフの努力に涙が出てきそうですね。
『くたばれ!ハリウッド』ではこうした切り抜き記事なども効果的に使われている。
監督たちはこの静止画を動画にする手法を用いることで、非常にキネティックで動的な作品として見られるようになったこと、そして歪んだ感じの映像を作り上げられたことが、作品の質をより高めていると述べていました。特に後者に関しては、『あなた方が観ているのはリアルな現実ではなく、彼の目を通した非常に主観的な、歪んでいるかも知れない事実なんだよ』ということをうまく伝えられたのではないか…と言っています。確かに、動くはずのない写真が奥行き感を持って動けば、なんとも不思議な感覚に囚われますよね。

事実は小説より奇なりとよく言われますが、これほどダイナミックな人生を送ってきたハリウッドの業界人も彼が最初で最後なのでしょうね。成功を収めたとはいえ、悲しみや苦しみを常に背負っていた彼の人生を、手の込んだ映像と共に体験してみてはいかがでしょうか。

Text:うたまる
『くたばれ!ハリウッド』
2003年9月20日より、ヴァージンシネマズ六本木ヒルズほかにて公開
監督・脚本:ブレット・モーゲン & ナネット・バースタイン/原作:ロバート・エヴァンズ
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