[RED SHADOW 赤影]

2001年8月11日より全国東映邦画系にて公開

監督:中野裕之/原作:横山光輝(秋田書店)/出演:安藤政信、奥菜恵、麻生久美子、村上淳、竹中直人、藤井フミヤ、舞の海秀平、谷啓、篠原涼子、きたろう、津川雅彦、越前屋俵太、ピエール瀧、アリーナ・カバエワ、布袋寅泰、風間杜夫、吹越満、椎名桔平、根津甚八、陣内孝則、他(2001年/日本/1時間48分/配給:東映)

公式サイト:http://www.red-shadow.com/



(C)「RED SHADOW 赤影」製作委員会
物語は、野原で蜂の巣を一刀両断し、その蜂蜜を食う浪人、風祭竜之介(布袋寅泰)の姿から始まる(←オイオイ、これは『SF/サムライ・フィクション』の続編かい! と、まず一発ツッコムべし)。とある街道で、その風祭が武士達に絡まれる。通りがかった三四郎(安藤政信)は、武士達の方が危ないと仲介に入り、互いの力量を一目で見極め、なんとか事なきを得る。これはそんな時代------戦国大名が覇権争いに明け暮れ、サムライが奔走し、忍者達もまた暗闘を繰り広げていたって時代の話だ(時代設定はAD1545年、らしい)。

三四郎=赤影は回想する------彼ら“影一族”の歴史を……。535年の隕石落下地点で誕生した製鉄民集団が彼らの先祖だ。“無敵の鋼”と呼ばれる、隕鉄の中でも図抜けた強度を誇る地球外金属で武器と防具を作り、数々の不思議な忍術・体術を編み出してきた影一族。だが戦国の世では地方大名に仕えて生き延びるしかなく、今や頭領・白影(竹中直人)と、赤影、青影(村上淳)、飛鳥(麻生久美子)という三人の若者を残すのみだった。「光ある平和な世界の為に影になって働く」という一族の掟に従って成長した三人は、戦国大名・東郷秀信(津川雅彦)の庇護のもと、天下統一のために隠密任務=ミッションを忠実にこなす。実は秘かに色恋御法度という理不尽な掟に苦しんでいた彼らは、やがて東郷の宿敵、京極兼光の秘密兵器を探るミッションにおいてついに罠にはまり、待ち構えていた根来弦斎(根津甚八)率いる根来忍者軍団との死闘の末、ある悲劇を味わう……。

その後、京極兼光が不審な死を遂げ、彼の孫娘・琴姫(奥菜恵)に実権が移ったことによって、京極城内の力関係が微妙に崩れる------家老・竹之内基章(陣内孝則)が陰謀を企んでいたのだ。野武士に襲われる琴姫を助けた浪人・三四郎として京極城内に入ることに成功した赤影だが、白影から下された命令は実は「琴姫の暗殺」だった。しかも琴姫は根来衆にも、その命を狙われている……。「忍び」の哀しみを噛みしめながら、赤影は決断を迫られる------命令に従うか否か? 竹之内がその野望を露わにした時、彼は敢然と立ち上がった……。

布袋寅泰や今井美樹、GLAY、Mr.Childrenなどのミュージック・クリップで知られ、98年に『SF/サムライ・フィクション』で劇映画デビューした中野裕之監督の第3弾は、2作目『Stereo Future』で2002年のエコロジー&恋愛事情を描いた後、再びムチャクチャ娯楽時代劇へと回帰する。元ネタは67年4月〜68年3月までTV放映され、その後も幾度も再放送されて人気を博した空想科学特撮時代劇『仮面の忍者 赤影』。そのオリジナルをよりバカバカしく荒唐無稽にした忍術活劇映画、もとい「NINJA MOVIE」(笑)なんだけど、何より錚々たる役者達が実に嬉々として演じているってな雰囲気が、この映画の最大の魅力だろう。安藤政信(『キッズ・リターン』『アドレナリン・ドライブ』『スペーストラベラーズ』『バトル・ロワイヤル』『サトラレ』)、村上淳(『バウンスkoGALS』『ナヴィの恋』『式日』『Stereo Future』)、麻生久美子(『カンゾー先生』『ニンゲン合格』『風花』『回路』『Stereo Future』)という三人の若手俳優達の掛け合いは、ホンワカ甘酸っぱい青春ものパターン全開だし(特に何度も出てくる麻生久美子の口をすぼめた顔がいい!)、コミック過ぎる白影を怪演した竹中直人(『Stereo Future』でもっとぶっ飛んでたけど)もグーだ。また根津甚八や藤井フミヤ(『SF/サムライ・フィクション』にも回想シーンで出演)、舞の海秀平ら根来忍者軍団、あんみつ姫もどきのオキャンな琴姫役の奥菜恵、そして野心家役の陣内孝則も、実に愉しそうに役柄を演じている。『SF/サムライ・フィクション』で活躍した風間杜夫、布袋寅泰、吹越満、谷啓に加え、椎名桔平や篠原涼子に津川雅彦、さらに新体操のアリーナ・カバエワ&トランポリンの中田大輔の二大オリンピック選手もゲスト出演ってな超豪華な脇役陣を観るだけでも、元は取った気分になれるかも。まずは俳優達を愉しもう!

で、映画自体はいかにもMTV畑出身ってなギミックな感じ、小気味良い軽快さとわかりやすいヒネ方で展開される新世代アクション時代劇で、その独特のベタでたわいのない笑いのセンスや、類型的で浅い漫画チックな人物造形など批判すべき所も多々あるのだが、これはもう「ちょっと贅沢なミュージック・クリップ」だと思って観ればよいのだ。カット数の膨大さや編集の間のおかしさ、華麗なアクションに劇伴するJ音楽のシンクロ具合の妙をこそ、じっくり愉しむべきだろう。カメラワーク(ステディカム・オペレーターは『マトリックス』のロバート・アガニス)や影一族のコスチューム(デザイン原案はヒステリックグラマーのデザイナー・北村信彦)も見どころのひとつかな。くれぐれも中身の無さ(脚本家の頭の悪さ)をあげつらってはいけない。これはスタイルをこそ愛でるタイプの作品なのだから……。

そういや、あの『猿の惑星』オリジナルの日本公開は68年4月公開だったので、こっちのオリジナルとほぼ同時期。ってなことを考えると、ティム・バートン版『PLANET OF THE APES/猿の惑星』の向こうを張った「リ・イマジネーション映画」とも言えるだろう。原作から「仮面の」を引いて普通の忍者にし、青影を赤影と同世代にして映画オリジナルキャラ・飛鳥との三角関係をダイジェストに描いてみせることでラブ・ストーリー要素を加味、さらに主要キャラみんな頭を悪く設定してバカでも楽しめるようにしてみましたってな感じなのは、オリジナルへの皮肉なパロディだと裏読みしてもいいかも知れない。おりしもTV版『仮面の忍者 赤影』はDVD全4巻の発売がちょうど始まったばかりだし、その引き立て役、もとい挑発的ヴァリアントとして比較検討されるべきテキスト役をも果たしているのだろう。いちおう『仮面の忍者 赤影』の前日譚、つまり「何故赤影はきらりと光る涼しい目をすることになったのか?」が描かれているらしいのだが、背景設定もかなりいじってあるので、つながりを云々するのは無粋かもしれないけどね(TV版第3部「根来篇」との関わりもないみたいだし)。それより中野監督の第1作『サムライ・フィクション』の時代背景が1696年の設定だったから、冒頭で風祭(布袋寅泰)が出てくるってのは150年前に彼がタイムスリップしたってことなのかもしれないし、さらに女忍者として出てきた赤影は、本作の赤影を襲名した末裔なのかも……などなどと邪推するのも、また一興だったりするのだ。中野のコミカル<SF>シリーズはまだ続くような気配だし、彼の人脈を活かした豪華なキャスト(東映50周年記念作品だしね)を本作できっちり押さえておくのも、今後の日本映画を追っかける参考になることは確かだろう。

Text:梶浦秀麿



Copyright (c) 2001 UNZIP