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マネー雑誌のライターで30歳の朝倉ユキ(市川実和子)は、同僚のカメラマン木村(村上淳)と成りゆきでホテルで過ごした夜に、10歳齢上の兄(木下ほうか)の死の報せを聞く。携帯から父の声------「タカが死んだぞ」「いつ?」「知らん」「なんで? 自殺?」「わからん。腐ってドロドロで…何にもわからん。すぐ帰ってこい」。故郷の初狩駅で粗野な父(夏八木勲)と気弱な母(二木てるみ)に迎えられ、葬式を済ませた後、父と共に兄のアパートを訪ねたユキは、台所の床の、人型の赤いシミに蛆が湧いている。兄はここで餓死していたのを発見されたのだ。不思議な魅力を持つ特殊清掃員(斎藤歩)は「お兄さんは家族想いだ」と言う。兄の私物はほとんど何も無かった。ふと、彼女が中学の頃にもらった作文コンクールの賞品の目覚まし時計が目に入る。そして今まさに掃除しようとしたかのように、コンセントに繋がれた掃除機のプラグ……。兄が生前に何か「コンセント」の話をしていた記憶が蘇る。それから彼女は嗅覚異常に悩まされはじめ、昔飼っていた犬のシロの姿や、ついには兄の幻影までも見るようになる。ユキは大学時代の指導教授で、当時愛人でもあった心理学教授・国貞(芥正彦)にカウンセリングを求める。ひきこもりになった兄が父親と酷く衝突したため、一時期兄を引き取って同居していたこと、やがて鬱陶しくなって部屋に戻らないうちに兄が失踪したこと、その後、兄は親から借金してアパート暮らしを始め、すぐに死んでしまったことなどを、ゆっくりと話してゆく……。国貞との愛欲の日々の記憶を蘇らせながらも、彼女は「兄の死の理由」を探して迷走するのだった。かつての大学の同窓生で、シャーマニズム研究をしている律子(つみきみほ)や、今は精神科医になった山岸(小市慢太郎)と再会したユキは、彼女達から沖縄のユタや霊能者、あるいは解離性障害者の自発性トランスについて教えられ、時折激しい性欲に襲われたり、アイデンティティを解体する幻覚の暴走に翻弄されながらも、自らの資質に次第に覚醒してゆく……。 |
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主人公のユキは、なぜか人を惹き付けてしまう不思議な魅力の持ち主。だけど、他人との間に自ら壁をつくってしまうところがある。なんと言うか、ぎこちない女の子だ(30歳という設定を考えると女性と言うべきなのだが女の子と言ったほうがしっくりくる)。市川実和子の個性的な風貌や、ぶっきらぼうなぐらいにナチュラルな演技がその設定に見事にはまっている。彼女と比べると、芸達者なまわりの役者の演技がコテコテに見えてしまい、違和感を感じるのだが、ユキは実際、そういう人間なのだろう。そんなユキの精神の解体の物語…と言うと難しそうに聞こえるが、暗く難しいテーマを扱いながらも、映画はむしろわかりやすく軽快であった。そして何より、市川実和子がよかった。ただ一点、映像に関しては、ポスターのビジュアルから想像できるものと比べると、少々チープに感じてしまった。このストーリーにこのキャスト、とても良かっただけに、少し残念だ。 Text:nakamura [UNZIP] Copyright (c) 2001 UNZIP |