[ジーパーズ・クリーパーズ] JEEPERS CREEPERS
2002年2月9日より渋谷東急文化会館、銀座・東劇他、全国松竹東急系にて公開

監督・脚本:ヴィクター・サルヴァ/製作:フランシス・フォード・コッポラ/出演:ジーナ・フィリップス、ジャスティン・ロング他(2001年/アメリカ/1時間30分/配給:ギャガ・ヒューマックス共同/宣伝:オメガ・エンタテインメント)

→ジーナ・フィリップス、ジャスティン・ロング インタビュー

∵公式サイト

のどかな田園風景が広がるアメリカのとある公道を、一台の自動車が走っている。乗ってるのは大学生のトリッシュ(ジーナ・フィリップス)とダリー(ジャスティン・ロング)の姉弟。春休みに故郷に帰省する途中のようだ。行き交う車もほとんどなく、たまに出会う車のナンバープレートで語呂合わせごっこしたり、姉の元カレ(?)の件で口喧嘩したりして退屈を凌いでいる。と、突然現れたボロボロのトラックが二人の車に急接近してクラクションを鳴らす。慌てる姉妹はなんとか追い抜かせてから悪態をつく。そのシリアル・キラーが乗りそうなトラックのナンバープレートは「BEAT1NGU」----「殴るぞ」と読めた。トリッシュは「ケニーとダーラ」という都市伝説を思い出す。78年のウィートン高のカップルがドライブ中に行方不明になり、車と女の首なし死体だけが見つかったとかいうヤツだ。このあたりは23年ごとに23日間、大量の行方不明者が出るという……。やがて通りがかった廃屋で、さっきのトラックが止まっていて、黒ずくめの大男が廃屋脇のパイプに死体袋のようなものを落としているのを目撃してしまう。気づかれた! 猛スピードで追ってくるトラック! 警察に通報しようにも携帯電話はバッテリー切れだ。思わず道端に突っ込んで逃げると、トラックはそのまま行ってしまった。ダリーは嫌がる姉を説得して廃屋に戻る。もしかしたら袋の中の人間は生きているかもしれない、と。廃屋は教会だったらしく、先程のパイプはその地下室に繋がってるようだ。そこでダリーは恐ろしいものを発見する!

いやあ面白い。出だしは『激突!』『ロード・キラー』の系譜にある「不気味な大型トラックに追っかけられる」系パニックもの。懐かしき導入部に「ははーん」とか油断してたら、猟奇殺人もののサイコ・ホラーになって、だんだんヘンテコなバイオレンス・タッチがエスカレート。途中から話が「怖くて笑える」クリーチャー系パニック・アクションになってゆく。凄え! 強烈なキャラクターで爆笑させる猫ババア(アメリカの田舎にいかにもいそうな独り暮らしの頑固婆さんだ)、あるいは虚言癖だと警察に相手にされない黒人霊能オバハンなどが登場して、姉弟と謎の大男との闘いを盛り上げる。ついには田舎の警察署内での密室パニック・アクション(マジック・ミラーの取調室を利用したギミックあり)に発展して……『フロム・ダスク・ティル・ドーン』第一作もどきのあっけないオチに「終わってへんやんけ!」的ツッコミを入れる愉しみも含めて、B級娯楽ホラーの魅力を遺憾なく発揮しているのだった。さっそく続編も作られてるってのが、また「らしく」ていい。

製作がフランシス・フォード・コッポラ(監督作『地獄の黙示録・特別完全版』も2/2公開!)のアメリカン・ゾエトロープってのが売りになってるようだけど、なにより『スクリーム』シリーズや『ラスト・サマー』『パラサイト』といったアイドル系の青春メタ・ホラーのブームが一段落して、珍品『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』ブームを経た「若者向けホラー路線」の次なる展開として位置付けたい、出色のメタ・バカ・ホラー(笑)なのである。とにかく安い青春ホラー・ファンのツボをつく作りには「確信犯」的なものを感じたのであった。謎の大男=クリーチャーの設定はなんとも膨らましがいのあるものなので、続編では例の都市伝説や教会地下の美術(笑)との整合性もきっちりつけて展開して欲しいと思う。

監督・脚本は『パウダー』のヴィクター・サルヴァ。主演はジーナ・フィリップス(『マンハッタンで抱きしめて』、TV『アリーmyラブ』など)とジャスティン・ロング(『ギャラクシー・クエスト』など)。強烈な猫ババアは『プライベート・ベンジャミン』の軍曹役でオスカー候補になったというアイリーン・ブレナン(他に『ぼくの美しいひとだから』『ラスト・ショー/2』など)。タイトルの『ジーパーズ・クリーパーズ』とは、アメリカ人に親しまれているジョニー・マーサーのスタンダード・ナンバーで、その陽気な曲調とブッキーな歌詞は本作を象徴していると言えそうだ。他にも「ハッシュ(しいっ・静かに→hush-hushで「秘密の」って意味になる)」てな歌詞の怖さなんかも改めて思い至った僕である。殊能某氏のバカ・ミステリ『黒い仏』(講談社ノベルズ)のオチに爆笑した人なんかには特にオススメしたい映画である。

Text:梶浦秀麿

Copyright (c) 2001 UNZIP