『少林サッカー』チャウ・シンチー来日記者会見レポート
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2002年3月19日(火)16時より、恵比寿にあるウェスティンホテル東京B1桜の間にて、『少林サッカー』の脚本・監督・主演をつとめたチャウ・シンチー[周星馳]の記者会見が行なわれた。少林寺拳法を駆使する即席サッカーチームが、少林拳の普及宣伝を兼ねて中国サッカーリーグでの優勝を目指すという破天荒なアクション・コメディ『少林サッカー』は、『食神』や『喜劇王』などのコメディ作品の監督兼主演として香港では知らない人はいないほどの人気者チャウ・シンチーが手掛けた渾身の最新エンターティンメント作品だ。地元香港で記録的なヒットを飾り、ミラマックス配給で北米公開も決定している話題作で、会場は大入り満員。TVクルーやカメラマンへの注意がしつこく繰り返されての会見と相成った。コメディ映画の主演・監督なので笑わせてくれるのを期待した記者陣も多かったような感じがしたけど、登場した本人は真面目そうなタイプに見え、例えば冒頭の英語での挨拶はクールに決めたかったのかギャグなのか微妙だったり…。たぶん「本人のマジ度合いに比例して笑えてしまう」タイプのスターなのではないか。でも要所要所に(ちゃんとギャグとわかる)ギャグも挟んでくれて、会場の雰囲気は結構イイ感じであった。今回の会見は、最初にマルチタレントの梨花が登場して花束贈呈をするというイレギュラーな設定で、いきなり「思ったより小さい」とみんなが思ってたけど言わなかったことを言ってしまう梨花に、つい引きつり笑いしてしまった僕だった。質疑応答も微妙にかみ合ってない感じが気になったんだけど、ま、そんな「微妙に」可笑しい会見風景をできるだけ忠実に再現してみたので、以下のレポートをじっくり読んで、クスッと笑っていただければ幸いである。でわ。



司会:『少林サッカー』脚本・監督・主演のチャウ・シンチーさんです。まずは一言ご挨拶をお願いできますでしょうか。

チャウ・シンチー[周星馳]:「Hai,Everybody. How are you.(何故か小さな笑いが起こる) This is Stephen Chow(スティーヴン・チャウ). and are......(と、中国語に切り替えて)皆さんにお会いできてとても嬉しく思います。こんなに大勢の方に駆けつけていただけるとは思いもよりませんでした。とても緊張してきました。本当にありがとうございます」

司会:はい、ここでシンチーさんの大ファンで、サッカーも大好きという方に、特別ゲストとして花束を持って来ていただいております。タレントの梨花さんです。
(拍手。梨花登場して花束贈呈。TV写真撮影陣による大騒ぎのフォトセッションがあって……)

司会:梨花さん、『少林サッカー』いかがでしたか?

梨花:「もう凄く楽しかったです」

司会:実際にチャウ・シンチーとお会いになって、いかがですか?

梨花:「思ったより小柄で、映画ではとてもおっきく見えました。優しそうな方ですね」


司会:シンチーさん、梨花さんの印象は?

周:「いろんな雑誌のグラビアで見たことがあって、すぐわかりました。先程(名前から)日本人ですか、フランス人のよう……とか話してました。(彼の映画にどうですかと司会に言われて)サッカーはお好きですか? ゴールキーパーかキックするかならどちらを? 私と同じくらいの足の細さだからキック力もありそうだけど(笑)」

梨花:「どうかなあ、やっぱりキックする方かなあ……体力的には自信ないですけど……」

周:「モーマンタイ、モーマンタイ(無問題)。ダイジョーブダイジョーブ。パート2に是非、考えておきますので……私がゴールキ−パーします(笑)」

司会:どうも、梨花さん、パート2出演決定ということで……ありがとうございました(拍手、梨花退場)。ではチャウ・シンチーさんはこちらに座って頂いて……それでは質疑応答に移りたいと思うんですが、ちょっとここで、いいお報せを聞いたんですが、つい先日、香港で、第8回香港電影電影評論学会奨 最優秀映画賞を受賞されたそうですが。まずはそのご感想をお願いします。

周:「受賞できてとても嬉しく思っています。スタッフの努力のおかげだと思います。製作期間は2年かかって、言葉に言い表せないぐらい大変でしたので、そういう意味で、努力が報われたという、受賞できて興奮もひとしおです」

司会:本当におめでとうございます。では質疑応答に入りたいと思います。

Q:この映画はヴィジュアル・エフェクトが非常に素晴らしくてですね、私の知り合いのハリウッドで
働いている大きなスタジオの人間が、何人も集まってどうやって撮ったのか研究しているらしいんです。特に珍しいのは、ワンショットの中で俳優からCGのダミーにスムーズに移り変わってしまうんですが、その移り変わりが全然気づかないほど完璧だとみんな感心していました。それで香港の作品は普通シナリオを作らないで撮ると聞いているんですが、この作品では(CG作業もあるので)綿密なストーリーボードを作られたりしたんでしょうか?

周:「シナリオは予め書きましたが、撮影現場でもっといいアイデアが浮かんだら随時修正を入れていきました」

Q:共同監督のリー・リクチーさんとは、どのような役割分担をされていたのですか? また『少林サッカー2』は「やる」と宣言されていましたが、脚本はもう完成しているのでしょうか?

周:「まず共同監督のリー・リクチーさんのことですが、私自身は脚本も書いていますし監督も出演もしているので、現場で指揮をとってもらう方が必要だったのです。ですから彼には現場でいろいろな指揮をとってもらっています。パート2に関しては、一応アイデアはありますが、ただし最近は非常に忙しくて、プロモーションでアメリカに行かなくちゃいけないし、中国大陸や日本にも来たりしてますので……アイデア自体は既に頭の中に入っていますので、これから形にしてシナリオを起こしていきたいと思っています」

Q:チャウ・シンチーさんの映画には、非常に変な顔の人が沢山出てきて(記者陣笑)、もう観ているだけでも可笑しいのですが、あれはかなり集めるのに苦労されてるんではないかと思うんですが、キャスティングの苦労話などをお伺いできれば。

周:「えー……(苦笑絶句して、記者陣も爆笑)確かに集めるのは大変でした。みんな、どこにでもいる顔ではありませんので(記者笑)。しかし、そういう人達に囲まれることで、一層私のカッコよさが引き立ちますから。理解はしていただけるでしょうか(記者爆笑) 」

Q:先程、おっしゃってた2年間かかったという製作期間で、一番苦労された点はなんでしょう? また劇中で凄い技がいろいろ出てきますが、ご自身が一番気に入っている技はどれでしょうか?

周:「この作品はテーマ自体、題材自体これまでになかった非常に新しい作品ということで、参考になる例もお手本にする作品もひとつもなく、私達も試行錯誤を繰り返しながら、やっと撮れたという感じなんです。ですから2年かかりましたけれど、私はむしろ2年はまだ早い方じゃないかなと思っています。別の人に撮らせればもっとかかったかもしれません。私達の手法は伝統的なワイヤーワーク、ワイヤーで吊るして撮ったアクションに、CGをミックスさせるというやり方をとっています。私にとっても初めての試みですので、いろんな方の力を借りてやっと出来た作品なんです。それから私自身が一番好きな技は、後ろに回転しながらシュートする技が気に入っています」


Q:毎回チャウ・シンチーさんの映画で共演されているン・マンタさんについて、どのようなおつき合いをされているのかお聞かせください。

周:「ン・マンタさんは私にとって、とても素晴らしいすばらしい俳優です。彼無しでは私の作品はできないので、作品を作る時はいつも彼に声をかけています。(ちなみに出会ったキッカケは?と司会に聞かれて)ン・マンタさんは映画のために生まれてきた人だと私は思っています。彼と初めて会ったのは、香港のあるTV局の廊下なんですが、その時彼は地べたに座ってシナリオを読んでいたんですね。それで近寄って見てみますと、その脚本の台詞はわずか3行しかないんです。それから私は食事に行って、数時間経ってまた通りがかったら、まだそこに座ってシナリオを読んでいたんです。それで『どうしてですか?』と訊きましたら『確かに3行の台詞しかありませんが、その簡潔な台詞の中で一番自分のユニークさを出すために、研究しなくてはならないんで考えているんだ』と。私はとても啓発されました。ですから私も彼の言葉や行動からは、非常に影響を受けています」


Q:大変面白くて、是非来年のアカデミー外国語映画賞を獲って欲しいと思ってます。質問なんですが、何故今回、香港ではなく中国本土を舞台にしたのか? それからコメディ映画というのは実は一番難しいジャンルだと思うんですが、チャウ・シンチーさんがコメディを撮る上で、心がけていることがあれば教えてください。

周:「中国人ですので、中国を舞台にした中国のストーリーを撮るのは、非常に必然的なことではないかと思います。またコメディを撮るときに心がけていることは、面白くなければコメディじゃないということで、その為には常にいい、新しいギャグを作品に取り入れるよう努力しています」

Q:全米公開おめでとうございます。ただおめでとうと言っていいんでしょうか? あなたの作品を愛してる香港映画ファンは、あなたの素晴らしい作品にミラマックスがさんざん手を加えたことを怒っています。ミラマックス社が手を加えた作品を観て、シンチーさん自身はどうお感じですか? 言いにくいかもしれませんが。

周:「アメリカで上映されるヴァージョンが短くなっていることについては私は理解できます。といいますのは、アメリカの観客には私や他の出演者、スタッフは馴染みが薄いしよく知られていないと思いますから。私が思ったもっとも印象的だったことは、劇中で私が裸を見せるシーン、自分の非常に鍛えた身体を見せるために服を脱いで見せる、そこは結構一番素晴らしいシーンで、私のブルース・リーみたいな肉体の見せ場なんですが(会場笑)、向こうに持って行ったら、まずそのシーンをカットされました(笑)。私は本当に納得がいかず、理由を訊いたんですが、『痩せ過ぎてカッコが悪い』という返事が返ってきました(記者陣爆笑)。そこでわかったんのは、アメリカとアジアのスタンダード、好みの違いですね。アメリカの場合は筋肉隆々のマッチョ体型を好むし、アジアの人達は引き締まった精悍な体型を好むんです。ですからそれぞれの地域、国の事情にあわせて、映画を作っていく、編集するということは理解しています」

司会:ありがとうございました。ちなみに日本公開版はミラマックス版ではありません、ご安心ください。

Q:大変楽しい映画でした。少林拳で縦列駐車するシーンが特に楽しくて、あれができるなら私も少林拳を習いたいと思いました(笑)。サッカーは国民的人気スポーツですが、そのサッカーと少林拳という二つを一つ融合させた理由は? また少林拳は今、(中国の)若い人にとってどのようなものなんでしょうか?

周:「サッカーは世界的な人気スポーツですし、中国のカンフーも世界的に有名です。私もカンフーは昔から好きでした。ですからこの二つの要素をミックスさせれば、商業的に必ず成功すると思ってたんですね。事前にマーケティング調査をしまして『このアイデアはどうですか?』と訊きますと、みんな非常に興味を持ってくれました。ただ考え方・発想自体は易しくていいんですけど、どうやって両者をバランスよく融合させていくかが難しかったんです。ですから結果的に非常にいい効果、いい成果を上げることが出来て、私は非常に嬉しく思っていますし、満足しています。2番目の質問に関しては、中国大陸では今、少林拳法はブームになりつつあります。そして世界各地で少林拳法を演じる人達のさまざまなパフォーマンスが行われています。日本ではどうなのかわかりませんが、大陸では若い人達にもかなり人気があります」

Q:本作で香港興行収入の記録を久々に奪回されましたが、チャウ・シンチーだんはこれから、10億人を越える中国市場を目指されますか? それともこの作品の北米公開を機に一気にハリウッドを目指されますか? それともジャッキー・チェンさんの『ラッシュ・アワー』と『WHO AM I』のように作品ごとにハリウッド向け・アジア向け、というような形で作られますか?

周:「映画人として、長く、また広い目で考えなくてはならないと思っています。私の夢は世界中で私の作品が評価されることですが、それが実現できるかどうかは別として、アメリカにしろ中国にしろ日本にしろ、広範な人達に私の映画を楽しんでいただければ、と思っています。多くのファンに楽しんでもらうためには、やはりテーマ自体が新しい、そして常に目新しさという要素が必要だと思っています。これからも目標に向かって作品を作っていきたいと思っています」

司会:はい、どうもありがとうございました。


Text:梶浦秀麿
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