[8人の女たち] 8 Femmes
2002年11月23日より渋谷シネマライズ・銀座テアトルシネマほか全国順次公開

監督・脚本:フランソワ・オゾン/原案:ロベール・トマ/出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、ファニー・アルダン、エマニュエル・ベアール、イザベル・ユベール、ヴィルジニー・ルドワイヤン、リュディヴィーヌ・サニエ、ダニエル・ダリュー、フィルミーヌ・リシャール
(2002年/フランス/1時間51分/配給:ギャガコミュニケーションズ)

→特集:『8人の女たち』
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世界的なフランス大女優たち8名が歌って踊る推理劇!?
ウブな男の子鑑賞禁止、女だらけのヘンテコ・ミュージカル。


【STORY】
時は1950年代の冬。所はフランスのとある郊外、人里離れた別荘地に立つお屋敷である。ちょうど一家の主マルセルの長女スゾンことシュゾンヌ(ヴィルジニー・ドワイヨン)が、留学中の英国からクリスマス休暇で帰ってきたところだ。車で迎えに来てもらった母ギャビー(カトリーヌ・ドヌーヴ)に荷物を任せて、まず同居してる母方のお祖母ちゃんのマミー(ダニエル・ダリュー)に挨拶。育ての親でもある黒人家政婦のシャネル(フィルミーヌ・リシャール)と久々の抱擁、そこで新しいメイドのルイーズ(エマニュエル・ベアール)を紹介される。「どこの子?」「この近くの村よ」「いい子で良かったわ」とか言ってたら、父の妹である叔母さんのオーギュスティーヌ(イザベル・ユペール)が不機嫌な顔をして二階から降りてくる。日常茶飯事らしき口論を聞いてると「だーれだ?」と目隠しされるスゾン、「カトリーヌ(リュディヴィーヌ・サニエ)、私の妹!」と子供扱いして当ててあげると、勝ち気な妹は「2月で17歳よ、あら姉さんちょっと太った?」と憎まれ口をたたく(ドキッ)。まだ寝ているらしい父を放っておいて、「♪パパは世間知らず、ちょっとズレてる…」 なんて歌い踊りだす母娘。ところが、朝食を持っていったメイドが悲鳴を上げる――主人のマルセルが背中をナイフで刺されて、ベッドで死んでいたのだ! すぐに警察に連絡をとろうとするが、電話線は切断されていた。乗ってきた車も何故か動かない。それに番犬が吠えた形跡もない。つまり犯人は内部の人間? ひとまずスゾンが探偵役になって、犯人探しが始まった。と、唐突に父の実妹ピエレット(ファニー・アルダン)が現れた。「今朝『お前の兄が殺された』と女の声で電話があって…悪戯かと思ったけど電話も通じないし、心配で急いでヒッチハイクして来たの」と言うのだが、彼女も怪しい。容疑者はここにいる女たち全員だ。雪に閉ざされた邸宅で、和気あいあいだった皆が一転してお互いを詮索し始めた。祖母マミーは株券の件でモメていたし、母は夫の共同経営者ファルヌー氏との関係を問われて言葉に詰まる。元キャバレーの踊り子だったピエレットも、実は金策に兄を訪ねて来ていたようだ。美貌のメイド、ルイーズも嘘か本当かわからぬ不倫を告白し、叔母オーギュスティーヌも、家政婦シャネルも、さらに妹カトリーヌにも秘密があるようだ。そしてスゾン自身にも……。真犯人は父の財産を狙ったのか、愛憎の果てなのか? こうして8人全員がそれぞれの思惑や心情を告白し、あるいは歌い上げ、ついに美しくも怪しいミュージカル・サスペンス劇は、意外な結末を迎える……。


【REVIEW】
大雪に閉じ込められ、密室と化した屋敷で起きた殺人事件。殺されたのは一家の主人。容疑者はそこにいる8人の女たち全員。さて、犯人は誰?――ってな堂々たるミステリー、なんだけど、どうにもヘンテコなのだ。本作は基本的に「邸宅の1階の大広間」というお人形さんの家めいた1セットのみ、そこで映画通なら皆知ってるほどの名女優たちが、観客席を意識するかのように演じ、歌い踊るのである。要は『奥様は魔女』や三谷幸喜『HR』のような典型的なシットコム(シチュエーションコメディ)仕立て、ないし昼メロ『真珠夫人』めいた低予算ソープオペラ仕立ての、つまりは“TVドラマ劇”を、映画でやっちゃおうってな怪作なのである。しかもご丁寧に女優全員の見せ場まである「ミュージカル」でもある! ……僕はいったんヒいた後、このバカバカしいとも言える「縛り」の中での、名女優たちの演技合戦やらオゾン監督独特のシニカルなコメディ・センスを、じっくり堪能することとなったのだった。複雑にはり巡らされた人間関係、というかショーケースに陳列されるかのようにして暴かれてゆく「(醜いとさえ言える)女の生きざま」それぞれが、すべて最後に一挙に、画面にはちゃんと姿を見せない「一家の主」の死因へと辿り着くかのような構成の妙、そのメタ・ミステリな手法には感心した。しかしなぁ……コレ、女性にロマンチックな幻想を持ってる男性諸君(僕もだけど)には心臓に悪い映画なんだよなぁ……。オゾン監督の前作、失踪(自殺?)した夫の幻を追い続ける妻を、これまた名女優シャーロット・ランプリング(『愛の嵐』『未来惑星ザルドス』『さらば愛しき女よ』『マックス、モン・アムール』『鳩の翼』『スパイ・ゲーム』など)がじっくりと演じた『まぼろし』とは、まさに正反対の「女性像」のようにも思える。だけどよく考えると本作の「女たちの生きざま」もまた、ある意味で「愛に生きる女の真実」を衝いているのだ。てなワケで、まったく本作の「あっと驚く事件の真相」には戦慄するしかないのだけれど……。映画評論家らクロウト衆、特に女性には受けがいいようなのも頷ける映画ではある。あ、ウブな男の子は観ちゃダメって一応言っておくべきかもしんないなぁ。

さて。本作の見どころのひとつは何といっても世界的な活躍を誇る女優陣である。出演作に本作での各々の衣裳カラーを加えて紹介してみよう。まず『悪徳の栄え』『シェルブールの雨傘』『昼顔』『終電車』『インドシナ』『ポーラX』『ダンサー・イン・ザ・ダーク』などのカトリーヌ・ドヌーヴ 演じる母ギャビーは濃いエメラルドグリーンが基本色。『愛と宿命の泉』『天使とデート』『エレベーターを降りて左』『無秩序な少女』『美しき諍い女』「赤ずきん」『ミッション:インポッシブル』『見出された時―『失われた時を求めて』より―』などのエマニュエル・ベアール演じるメイドのルイーズはモノトーンの黒と白(→タイトなメイド服が着崩すとエロティックに)。『バルスーズ』『勝手に逃げろ/人生』『天国の門』『主婦マリーがしたこと』『愛・アマチュア』『ピアニスト』などのイザベル・ユペール演じる叔母オーギュスティーヌは焦茶に緑(→変身後は光沢のある水色へ)。『愛と哀しみのボレロ』『隣の女』『日曜日が待ち遠しい!』『リディキュール』『エリザベス』『星降る夜のレストランテ』などのファニー・アルダン演じる叔母その2のピエレットは鮮やかな真紅。『メランコリー』『カップルズ』『シングル・ガール』『プレイバック』『ジャンヌと素敵な男の子』『天使の肉体』『ザ・ビーチ』などのヴィルジニー・ルドワイヤン演じる導入時の主役スゾンはパステル・ピンク(白のチェック柄の上とそれを細かくした柄のスカートでお嬢様風)。『夫たち、妻たち、恋人たち』『レンブラントへの贈り物』『焼け石に水』などのリュディヴィーヌ・サニエ演じる妹カトリーヌは明るいグリーン(淡いグリーンのパンツに鮮やかなグリーンのセーター)。『うたかたの戀』『輪舞』『快楽』『たそがれの女心』『赤と黒』『ロシュフォールの恋人たち』などのダニエル・ダリュー演じる祖母マミーは薄紫。『ロミュアルドとジュリエット』『エリザ』などのフィルミーヌ・リシャール演じる家政婦シャネルはくすんだブルーグリーンに大きな白いエプロン。ふー。こうやって主な出演作を並べただけでも壮観だ。とにかく彼女たちの華麗なる競演をこそ、まずは愉しんで欲しい。フランソワ・オゾン監督作の中では『焼け石に水』に近いので、あのコケットでシニカルな感触の演劇的演出にシビれた人には特にお勧めしておこう。

Text:梶浦秀麿

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