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【STORY】
オーケストラに下手糞が一人混じってる。とあらば殺して食べてしまう――そんな連続猟奇殺人鬼、「人食いハンニバル」ことハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)は、捜査の助言を求めてきたことで親しくなったFBIの敏腕捜査官、ウィル・グレアム(エドワード・ノートン)に、ついに正体を見破られる。大怪我を負いながらもレクターを捕まえたグレアムは、マスコミの大騒ぎにも嫌気がさして引退し、3年がたった。フロリダで妻子と穏やかに暮らす彼に、だが安息は訪れなかった。元上司のジャック・クロフォード(ハーヴェイ・カイテル)が、新たに起こった連続猟奇殺人事件の解決を頼みに来たのだ。幸せな家族全員を惨殺する犯人は、死体への不揃いな噛み跡からマスコミに「噛みつき魔[歯抜け妖精]」と命名されていた。仕方なく協力することになったグレアムは、現場の再検証で再び事件が起こると直感。だが犯人像を詰めるには、かつての協力者、レクター博士の洞察が必要だった。凶悪犯罪者を収監する精神病院で再会する二人の間で、熾烈な心理的駆け引きが展開される。「崇高な犯罪美学を持つ師匠」としてレクターを尊敬していた犯人の「噛みつき魔」は「レッド・ドラゴン」と自称し、レクターの巧みな導きで、グレアムの家族をも標的にする。FBIの指示で犯人を挑発する記事を書いたゴシップ記者フレディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)も血祭りにあげられた。もはや後戻りはできない。こうしてグレアムとレクター、そしてレッド・ドラゴンの三つ巴の闘いが、繰り広げられることになる。 【REVIEW】 『羊たちの沈黙』と『ハンニバル』で世界的に有名な「究極の猟奇連続殺人者」となったハンニバル・レクター博士。実はその前に映画化された『マンハンター(邦題『刑事グラハム/凍りついた殺意』・ビデオ題『レッド・ドラゴン/レクター博士の沈黙』)』で既に登場していたのだが、ここにきてそのリメイク版が登場することとなった。もちろん、名優アンソニー・ホプキンスという演者の統一で、三部作を“彼のもの”とするためである(←って、言い切っていいのか?)。オリジナルより(原作小説よりも!)出番が増え、特に『ハンニバル』の優雅さにそのままつながるかのような出だしのシークエンスは、この三部作が見事にループを描いて円環を閉じるかのような味わいがあって、まさに絶妙の出来。そのまま「レクター逮捕」報道のスクラップ・ブックをタイトルバックにして話をすすめるアイデアも秀逸だ。つまり、そのスクラップ・ブックの作成者が、新たな連続殺人事件の犯人であり、黙示録を引用した「見よ、大いなるレッド・ドラゴンを…‥」という表紙の章句がタイトルになるって具合。そのまま小気味いいテンポで展開してゆくサスペンス・ドラマの堂に入った展開ぶりは、ひょっとして三作(オリジナル含めると4作)の中で一番好きかもってな気分にまでさせる。いやホント。僕はアカデミー5部門獲得の『羊たちの沈黙』(ジョナサン・デミ監督/テッド・タリー脚本)にどうしても許せない「作劇上のトリック」が一ケ所あって、バッファロー・ビルという犯人造型のイマイチさも相まって個人的には評価が低いし、『ハンニバル』は僕の好きなリドリー・スコット監督(『エイリアン』『ブレードランナー』『グラディエーター』)の映像や演出にゾクゾクするものの、話は未消化で(原作にあったイル・モストロ事件ネタも撮影はしたらしいがカットされたとか)やっぱり微妙なイマイチ感が残ってしまってたのだ。ところが本作はテッド・タリー脚本も完璧だし、演出のキレも実にスマート。犯人「噛みつき魔」ことフランシス・ダラハイドの映画的書き込みもほぼ不足なし、特に盲目のヒロイン、リーバとの交際描写がいい感じで、オリジナルはおろか『羊たち』の犯人描写より説得力がある。実はあんまり期待せずに観たせいかもしれないけど、なかなかスタイリッシュで鮮烈なサスペンス劇に仕上がってて大満足しちゃったのだった。必見。 監督は『ラッシュアワー』シリーズ『天使のくれた時間』のブレット・ラトナー(1970年生まれの32歳)。プロデューサーは超有名なディノ・デ・ラウレンティス、なんとオリジナル版も彼の製作なので、同じ作品を二度プロデュースする、という珍しい事態になってるのも面白い。前作『ハンニバル』での来日記者会見時には、本作と共に『ハンニバル』の続編(舞台は東京?)も匂わせる口ぶりだったが、リップサービスだったのだろうか? さておきアンソニー・ホプキンスと共演できるって事で、キャスト陣も当代の名優が集結している。FBI捜査官グレアム役を『ラウンダーズ』『アメリカン・ヒストリーX』『ファイト・クラブ』などのエドワード・ノートン。レッド・ドラゴン=フランシス・ダラハイド役を『シンドラーのリスト』『イングリッシュ・ペイシェント』『ことの終わり』『オネーギンの恋文』などのレイフ・ファインズ。彼を愛す盲目のリーバ・マクレーンを熱演したのは『奇跡の海』『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』『クレイドル・ウィル・ロック』『アンジェラの灰』『ゴスフォード・パーク』そして『パンチドランク・ラヴ』が待機中のエミリー・ワトソン。その『パンチドランク・ラヴ』にも出てるフィリップ・シーモア・ホフマン(他に『ブギー・ナイツ』『ワンダーランド駅で』『ビッグ・リボウスキ』『パッチ・アダムス』『マグノリア』『フローレス』『リプリー』『あの頃、ペニー・レインと』など)も悲惨な目に会うゴシップ記者フレディを開演していた。 Text:梶浦秀麿 Copyright © 2003 UNZIP |