[キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン]
Catch Me If You Can

2003年3月21日より、日劇1他、全国東宝洋画系にて公開

監督:スティーブン・スピルバーグ/ 原作:フランク・アバネイル+スタン・レディング『世界をだました男』(新潮文庫)/出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス、クリストファー・ウォーケン、ナタリー・バイほか
(2002年/アメリカ/2時間21分/配給:UIP映画/協力:タキコーポレーション)

∵公式サイト


TM & (c) 2003 Dreamworks L.L.C. (c) 2003 United International Pictures
【STORY】
アメリカの70年代のクイズ番組『本物は誰だ?』(たぶん77年放映のもの)に、パンナム航空のパイロット姿の男が三人登場する。実はこのうちの一人が本物のフランク・ウィリアム・アバグネイルJr.、19歳までに26ヵ国で400 万ドルもの小切手偽造詐欺を働いたという「希代の最年少天才詐欺師」なのだ。その本物(レオナルド・ディカプリオ)が「誰があなたを捕まえたのですか?」という質問に「カール・ハンラティ」と答えて、場面は過去を行ったり来たりしながら、実直なFBIの捜査官カール・ハンラティ(トム・ハンクス)と、彼に何度か追い詰められつつも逃げきってきたフランクJr.との、奇妙な関係を描いてゆくことになる…‥。63年12月のNY州ニューロッシェルで、地元の名士となった父フランク(クリストファー・ウォーケン)と美しいフランス出身の母(ナタリー・バイ)の仲睦まじい姿。そこが始まりだ。没落から離婚に向かう両親を目にしての64年8月、マンハッタンへ家出したフランクJr.は、偽の副パイロットとしてマイアミ、ニュージャージー、ニューヨーク、ハリウッドと飛び回り、アトランタでは小児科医として、ニューオリンズでは検事補として、さらにマイアミ、ヨーロッパへと、いくつかの偽名と新手の小切手詐欺を開発しつつ、逃避行を続けるのだった。時折父に会い、何故か毎年のクリスマス・イヴにはハンラティに接触するという、妙な縁を結びながら…‥。

【REVIEW】
「捕まえられるもんなら、捕まえてみろ」ってな追いかけっこを、レオナルド・ディカプリオ扮するフランク・アバグネイル Jr.とトム・ハンクス扮するFBI捜査官カール・ハンラティが繰り広げる、トムとジェリーが仲良く喧嘩するみたいな愉しい映画であった。近年のスピルバーグ監督作品3作の中では一番好きかもしれない。とにかく観逃してはならない傑作クライム・コメディである。でも、予告編でつい予想してしまった「軽い爆笑タイプのコメディ」なんかでは全然なくって、しっかり適度にドラマチックなんで、まずびっくりした。いや、ギャグもあるし、ちゃんと笑えるのにもびっくりしたんだけどさ。

スピルバーグの前作『マイノリティ・リポート』の寒い悪趣味ギャグの連発には、僕はちっとも笑えなかったが、コッチは飛行機プラモのデカール剥がしネタとか、随所で無防備にナハナハ笑っちゃたのだ。しかもしかも、じんわりイイ感じで泣ける!ってのにもちょっと驚いた。つまり本作は、前々作『A.I.』の「ナルシスティック(自己陶酔的)な純粋マザコン賛歌の感動」と対になる「ホモソーシャル(男社会的)な屈折ファザコン賛歌の感動」を明るくしっかり描くものであり、「屈折した信頼(トラスト)をめぐる寓話」なのだ。わかりやすくいうと「父と子」ものの感動ってヤツだな。←って、噛み砕き過ぎ。詳しくはコラム(シネP VOL.5)でやるけど、この映画は、ヨーロッパという「没落した父」ないし「厳格だが甘やかしもしてくれる父」と、アメリカという「父が恋しい甘えた息子」ないし「詐欺的に父を欺いて成り上がったことの許しを乞う息子」の寓話――西欧と米国の親子関係をめぐる寓話なのだ、と思ってみると面白い見え方になるはず。トム・ハンクスの前主演作『ロード・トゥ・パーディション』やレオナルド・ディカプリオの前主演(?)作『ギャング・オブ・ニューヨーク』も併せて、「父と子」問題を探究するってのもオススメの観方である。某CUT誌では「深みもサプライズもないけど、良質な娯楽映画」なんて評されてる『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』だけど、そこにサプライズと深みを(捏造してでも)見い出してみるってのは、かつて『A.I.』特集で散々「スピルバーグ賛歌」を謳って売り上げを増したらしい某CUT誌(舞い上がったボスS氏が翌月号とかで自画自賛するオマケつき)が本来やるべきことなんだけど…‥ま、いっか。

レトロでオシャレなタイトル・シークエンスは「60年代のソウル・バスやモーリス・ビンダー風に」というスピルバーグの注文で、イギリスのネクサス・プロダクションに所属するオリヴィエ・クンゼル&フロランス・デガというフランス人アーティスト2人が作ったものだとか(詳細はCUT4月号P113小西未来「映画の『科学と学習』」第28回参照)。あ、あらすじ冒頭のTV番組"To Tell The Truth"を僕は『本物は誰だ?』ってしたけど、なっちゃん大先生による字幕は『真実の告白』だった。「字幕の女王なっちゃんウォッチゃー」の面々は余計なツッコミをしないように(笑)。

Text:梶浦秀麿


Copyright © 2003 UNZIP