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【STORY】 休暇をとり、趣味のチェロを抱えてリゾート地の音楽祭に出かけるはずだった窃盗課の刑事ジャック(サミュエル・L・ジャクソン)は、隣人に頼まれて家出娘を探すハメになってしまった。不良BFとのツーショット写真を手に、近隣のターク通りで聞き込みする彼を、持病の糖尿病からくる目眩が襲う。車に戻ってインシュリン注射で一息つくと、にわか雨で大荷物のお婆さん(グレイス・ザブリスキー)が往生しているのが目に入る。手を貸して家の中に買い物袋を運んだ彼は、頑固そうな老主人(ジョス・アックランド)にも紹介され、お茶をごちそうになることに。そこで、ふと「実は刑事で、人を探してる」と何気なく写真を出そうとするが、ポケットにない。どうやら家の前で落としたらしい。「青い目で、金髪で…‥」と説明しようとすると後頭部に銃が。見知らぬ若者が「何故わかった?」と言うやガツン! …‥気がつけば椅子に縛り付けられていた。実はこの家は、銀行強盗を計画する一味の隠れ家だったのだ。メンバーは英国紳士風のリーダー格の男タイロン (ステラン・スカルスゲールド)と、魅惑的な美女エリン(ミラ・ジョヴォヴィッ チ)、先程ジャックを殴ったフープ (ダグ・ハッチソン)という若い男は銀行の電気工作を担当し、老夫婦は高飛び用の飛行機の操縦を受け持つってな具合。犯罪計画が発覚したと勘違いした彼らは、ジャックをエリンに見張らせて、急いで銀行へと出発した。残った二人の間で、駆け引きが始まる。糖尿病の昏睡を機転を効かせて助けたエリンが、彼のチェロを持ってきて、銃を向けたまま束縛を解き、「合奏して」と言い出す。ロシアからの亡命ピアニストだったらしい彼女は、支配力を持つタイロンの呪縛から解放されたがっているようにも見えた。一方、ターゲットのセント・ジョセフ銀行では…‥行員でエリンに惚れているデヴィッド(ジョナサン・ヒギンズ)の協力で、1000万ドルを架空口座に入金させるところまでは漕ぎ着けたタイロンとフープ。小さな民間飛行場では、老夫婦が大金を得た後のリゾート暮らしを夢見て盛り上がっている。後はデヴィッドからパスワードを聞き出して、国境を越えれば成功…‥なのだが、実はこの計画、各人の思惑が錯綜していて、密かな裏切りや偽りの誘惑、さらなるアクシデントの勃発で、事態は思わぬ方向へと転がっていく。このままでは殺されるのを待つだけかもしれないジャックもまた、この疑心暗鬼に満ちた犯罪チームの心理戦に、巻き込まれてゆくことになる。 【REVIEW】 オールド・ファッションな骨格を持つ、渋いサスペンス犯罪もの。なにせ原作は「ハードボイルドの元祖」ダシール・ハメットの短編小説「ターク通りの家」で、1924年4月に発表されたもの。つまり80年前のパルプ・フィクションなのだ。が、しかしこれが現代に置き換えられてみると、なかなかに味わい深い心理サスペンス劇になるってのには、ちょっと感心した。手の込んだクレバーな詐欺計画の小出しにした見せ方や、強奪メンバー各々の性格造型描写の適度な丁寧さ、そこから発生する人間関係の機微、ささいなアクシデントが次の伏線や展開へと鮮やかにつながってゆく様、それぞれの行動の動機もきちんと腑に落ちるように描写され、精巧な職人細工の時計のように芸術的な仕上がりの、現代的フィルムノワールの逸品となっているのだ。気に入ったのは、孤独を愛する主人公の刑事が、一味の魅力的な女に、思いがけず私室を覗かれることになる展開があって、その部屋を見て来た女が、彼の孤独癖を見抜いて同志的共感を表す――ってな一連のシークエンスだ。主人公がそのことで彼女に惹かれてゆく感じまで、実に無理なく無駄なく導いてゆくので、束縛を解かれ、奇妙な二重奏の後、彼女を抱きかかえるようにしてチェロの弾き方を教えるって前半の見せ場が、全く不自然に思えない。これは凄い。濃厚なセックスシーンのようなチェロ指導の場面の官能的な美しさは、後で出てくる騙され男とのベッド・シーンと比べても格段の差で、ミラ・ジョヴォヴィッチの独特の色気を再認識してしまった。ここで合奏されたのが、デュパルクの「悲しき歌」。そして映画は、「悲しき歌」という題名が象徴するハードボイルドな苦味を余韻にして幕を閉じる…‥うーん、やっぱり渋い。 監督は『ファイブ・イージー・ピーセス』『郵便配達は二度ベルを鳴らす』『ブラック・ウィドー』『愛と野望のナイル』『ブラッド&ワイン』のボブ・ラフェルソン、御年68歳! 主人公ジャックを『交渉人』『シャフト』『スターウォーズ エピソード1〜3』『アンブレイカブル』『チェンジング・レーン』『ケミカル51』のサミュエル・L・ジャクソンが演じ、ヒロインの魔性の女エリンを『フィフス・エレメント』『ジャンヌ・ダルク』『ミリオンダラー・ホテル』『バイオハザード』 『ズーランダー』『めぐり逢う大地』のミラ・ジョヴォヴィッチが演じている。ステラン・スカルスゲールド(『奇跡の海』『アミスタッド』『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』など)、ダグ・ハッチソン(『グリーンマイル』『アイ・アム・サム』)、ジョス・アックランド(『白い炎の女』『リーサル・ウェポン2 炎の約束』など)、グレイス・ザブリスキー(『ノーマ・レイ』『愛と青春の旅立ち』『マイ・プライベート・アイダホ』『アルマゲドン』『60セカンズ』など)それぞれの演技のアンサンブルも絶妙である。 余談。ハメットの《コンチネンタル・オブ》シリーズには、エリンが再登場する続編もあるとか。うう、同じキャストで観てみたいかも。しかし主人公が敬愛する音楽家がヨーヨー・マ…‥ってのは、うーん、インなのかアウトなのか、ビミョーだなぁ。あ、ところで近所のおばちゃんの家出娘は、見つかったんだろうか? 僕はうっかりそこんとこを観損ねたのかもしれん。 Text:梶浦秀麿 Copyright © 2003 UNZIP |