[8マイル] 8mile
2003年5月24日より、日比谷スカラ座ほか全国ロードショー

監督:カーティス・ハンソン/音楽:エミネム/出演:エミネム、ブリタニー・マーフィ、キム・ベイシンガー、メキー・ファイファー、ユージーン・バード、タリン・マニング、イグジビット、エバン・ジョーンズほか
(2002年/アメリカ/1時間50分/配給:UIP映画)

→Monthly Feature『8マイル』
(コラム“『8マイル』と青春映画”、“ブリタニー・マーフィ”)
∵公式サイト

【STORY】
1995年ミシガン州デトロイト。ヒップホップ・クラブ“シェルター”のトイレの鏡の前で、ラビットことジミー・スミスJr.(エミネム)はバトル前のプレッシャーと闘っていた。ここは黒人ラッパー達が技を競い合うラップ・バトルのメッカだ。彼はバトルの司会役のフューチャー(メキー・ファイファー)にリリック[歌詞]の才能を見い出された白人青年だったが、その実力を発揮できずにいた。今夜も対戦相手のパパ・ドック(アンソニー・マッキー)率いるラップ・グループ“リーダーズ・オブ・フリーワールド”の下っ端に「クロの真似して金儲け!」なんて挑発されても言い返せないまま棄権してしまう。彼女のジャニーン(タリン・マニング)とも別れたばかりで、寝床のボロ車も彼女にやってしまった。仕方なくバスで母親のステファニー(キム・ベイシンガー)と幼い妹リリー(クロエ・グリーンフィールド)の住むトレイラー・ハウスに戻る。母の今の男は怪我での失業保険を当てにしてるグレッグ(マイケル・シャノン)、あろうことかラビットの高校時代の先輩だ。母も働きもせずグレッグに頼り切っている。こんな現状を打破して、仲間たちと作った“3-1-3rd(スリー・ワン・サード/デトロイトの局番から)”で成功したい。だが仕事場のプレス工場では上司に目をつけられながら、仲間と車で街を流してはパトカーに悪戯したり、レイプ事件のあった廃屋に放火したり、ライバル・チームと喧嘩する日々に、未来は見えない。プレス工場で知り合ったモデル志望のアレックス(ブリタニー・マーフィ)は、「あなたは成功する予感がする」とラビットに囁く…‥。「勝手にバトルにエントリーした」と喧嘩したフューチャーとも気まずくなり、立ち退き命令書を見つけられてグレッグに捨てられた母はラビットを罵る。イカサマ臭いウィンク(ユージン・バード)の「ラジオ局にコネがある」という誘いにスタジオを訪ねたラビットは、コネを餌にアレックスを抱くウィンクをぶちのめしてしまい、デビュー話はオジャンに。さらに逆恨みしたウィンクはフリーワールドに頼んで、妹リリーの目の前でラビットを襲撃する。身も心もボロボロのラビットは、ラップ・バトルのある週末もプレス工場で働きながら、決断の時が迫るのを感じていた…‥!

【REVIEW】
ちょいシブ(渋)な青春ストーリーである。アフロ・アメリカン発祥のヒップホップ界に、ホワイト・トラッシュの自負を持って殴り込んだ「ホワイト・モンスター」エミネムの、半自伝的映画、なんだけど、だからって彼のサクセス・ストーリーをただ拝聴するようなものではなく、はたまたルックスのいい彼をフィーチャーしただけの単純なアイドル映画でもないってのがミソだ。今年のアカデミー賞では主題歌「ルーズ・ユアセルフ」が最優秀歌曲賞を受賞した(ゴールデングローブの方はU2の「ザ・ハンズ・ザット・ビルト・アメリカ」に敗れたが)だけだけど、映画自体も少なくともノミネートに値するのではないか(作品賞とか主演男優賞とかね)、くらい思っちゃったことは告白しておこう。いい映画である。

ヒップホップ・ミュージックをノリで聴くような若者ではないので、歌詞の内容もわからずにクラブで盛り上がる日本人なんてのには偏見を持っている僕だけど、本作ではリリック[歌詞]シーンもちゃんと字幕がついてて、しかもそれが物語に大きく関係しているので、「なるほどこういうものなのか」って腑に落ちる感動もある(いやラップ・バトルって発想自体はバカバカしいとも思ったけどさ)。ま、わかりやすいヒップホップ入門としてもオススメか。しかし伏線キイワードが「私立高校」で、クライマックスが開き直った“最低競争”ってのも、ある意味スゲエって感じ。でも感心したのは、クズ競争でクズ野郎を目指すぜってオチでは決して無い主人公の最後の台詞(内緒)。なんか裏腹にハードボイルド映画の風格もあったりして、だから「渋い!」と思っちゃったのだった。

タイトルは、かつて自動車産業で栄えたデトロイトの、裕福な郊外住宅地と貧困層の都市部との境界線である“8マイル・ロード”に由来する。この道路が白人と黒人とを分ける分割ラインにもなってて、このボーダーライン上にいるエミネムのアイデンティティを象徴しているのだろう。そういやワシントンD.C.を舞台にした『SLAM』(98)ってポエトリー・スラムを社会派な視点で扱った音楽映画もあったけど、話題性に差があるのは、歌そのものの持つコマーシャルな力の差、なんだろうか? いや確かに「ルーズ・ユアセルフ」には青春の焦燥感のようなものがヒリヒリ伝わってくるので、予告編観た時点でかなりインパクトがあったんだけどさ。

ちなみにエミネムってのは彼の本名マーシャル・ブルース・マザーズ3世を略したM&M(エムアンドエム)がさらになまったものとか。本作では主人公の妹の「お兄ちゃん!」って叫びが涙を誘うのだが、実際のエミネムの兄弟は弟だ。つまり映画を実話と思っちゃいけない、あくまで青春映画の秀作として観るべしってことかな。監督・製作は『L.A.コンフィデンシャル』『ワンダーボーイズ』のオスカー監督カーティス・ハンソン。彼の『L.A.コンフィデンシャル』でアカデミー助演女優賞に輝いたキム・ベイシンガーが自堕落な母親役を好演。『17歳のカルテ』『サウンド・オブ・サイレンス』のブリタニー・マーフィがヒロインのアレックス役、元カノ役をミュージシャンでもある『ノット・ア・ガール』『ホワイト・オランダー』のタリン・マニングが演じている他、『O(オー)』『クロッカーズ』のメキー・ファイファー、『バニラ・スカイ』『パールハーバー』のマイケル・シャノン、『デッドマン』『スリーパーズ』のユージン・バードら若手俳優も主人公役のエミネムを取り巻いている。

Text:梶浦秀麿


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