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THE UNINVITED
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STORY:
結婚を間近に控えたジョンウォンは地下鉄で毒殺された幼女を偶然見かけてから、不思議な光景を目にすることになる。婚約者のヒウンが彼の家に運び入れた食卓に、死んだはずの幼女が座っているのだ。たまらずジョンウォンは教会の牧師である父の元に転がり込む。ある日、教会の信者であるヨンを家に送り届けるよう家族に頼まれたジョンウォンだったが、車内でヨンが急に意識を失ったことに気づき、とまどいながらも自宅に運び入れる。そして彼女が目覚めた翌日、帰りがけにつぶやいた「テーブルにいる子供達を寝かせたら?」という言葉から、ジョンウォンは自分以外にも幼女が見えるヨンに助けを求めるのだったが…。
REVIEW:
地下鉄で毒殺された幼女を見かけたジョンウォンと、不幸な事件がきっかけで嗜眠症になった女性ヨンが、ジョンウォンの食卓の椅子に死んだはずの幼女を見たことから、幻覚の世界へと足を踏み入れていく本作。その嗜眠症のヨンを演じるのは『猟奇的な彼女』で魅力的な女性を演じたチョン・ジヒョンその人。猟奇的だった彼女が趣を変え、精神的に病んだ役を演じているが、すっぴんの顔やちょっと年上に見える服装といった外見とか、時間をかけて作り上げた演技には、今までと違う一面も持っているのよ!と言わんばかりの意気込みを感じる。主人公ジョンウォンを演じるパク・シニャンも良い演技をしているけど、すっかり彼女に喰われしまっている、ように見える。
韓国は残虐なシーンには比較的寛大なようで、本作でも目を背けたくなるようなシーンが平気で出てくる。その露骨さがホラーに括られているのだけど、そういった描写だけでなく、曖昧さの狭間で揺れ動く現実と幻覚、妄想と悪夢の間に漂う主人公たちの行動に、観客は勝手に想像を膨らませ怖さを見出していく。そして、その足場として、怖さの象徴となるであろう「暗闇」とか「誰もいない空間」といった「記号的」(もしくはステレオタイプ)なものも本編中に散りばめられているのだ。だから逆に言ってしまえば、「夜中の校舎内を一人で歩けない」とか「ちょっと開いたドアやふすまの向こう側が怖い」とか「洗顔して顔を上げたら鏡越しに誰か映っていたらどうしようとびびる」などを想像しない人には、その「記号的」な場面はちっとも怖くない。しかし侮る無かれ。そんな人たちには、怪しい発言や事件の数々が待ち構える。ミステリーとかスリラーとしての側面を堪能できる懐の深さが本作にはあるのだ。強引だけど、観る人がジャンルを決める作品と言えよう。だからこれはコメディだ!と言った人がいても、否定はしない。まあ、同意もしないけど。
ちなみに、ヨンが患う嗜眠症(しみんしょう)とは眠り病とも言い、場所や時間に関係なく発作的に短い睡眠に陥る病状のこと。人によっていきなりだったり感情が激しく動いた時だったりと、発作のきっかけはまちまちらしい。意識はあるのに鮮明な夢を見るので、現実との区別が付きにくくなって精神を病む人もいるのだとか。だからこそ監督は、ヨンのパーソナリティーの一部として用いたのでしょう。よく仕事中や勉強中に激しい睡魔に襲われることがありますが、それは全然違います。そういえば『フレンチ・ドレッシング』(98)で櫻田宗久演じる岸田真弓も嗜眠症でしたっけ。
ところで、『4人の食卓』は原題の直訳かと思っていたら、実は『THE UNINVITED』が原題であることにプレスを見て気がついた。訳すと「招かれざる客」「お呼ばれしない者」「余計な人」あたりが当て嵌まるだろうか。これは映画を観た人なら「なるほどね〜」と納得する単語だったりするんだけど、いかんせん「UNINVITED」なんて、日本では馴染みのない言葉。邦題に『アンインヴィテッド』とか『招かれざる客』も候補にあったろうけど、まあ却下でしょうね。そう考えると『4人の食卓』はうまいタイトルで、作品同様に複数の解釈が出来るし、「4人」や「食卓」がキーワードとしても機能している。これから作品を鑑賞される方は、原題と邦題の持つ意味を心の片隅に置いておくと、より作品の深い部分に入り込むが出来ると思われます。
ホラーに“一応”ジャンル分けされる本作ですが、断片的な映像の積み重ねや、複数の意味を持つシーンの連続、そして結末から、どんな解釈をするかは観た人次第。見終わった後に意見交換すると、それがまた作品の楽しみの一つになるかも…。何はともあれ深〜い作品なのです。
Text:UTAMARU (KinoKino)
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Other Reviewer's Comment:
うひゃー恐ええ。冷たく静かに恐ええっ――と戦慄しちまう現代派のコリアン・ミステリアス・ホラーだ。まずとにかく不必要にエグい残酷シーンとかも平気で見せるのに参った。『パッション』観て死んだバアサンとかなら数回は死ねそう、って宣伝文句になりますかなりませんかそうですか。いやそれともみんなこんなの平気なのかなぁ……毒殺死体に墜死体に轢死体に焼死体にetc.……って“物体”が、油断してるとクッキリハッキリ鮮明に、あるいはその死に至るシチュエーションをリアルに描きつつ物語の要所要所で提示されるんだけど……。ま、『世界残酷物語』とか好きな人は喜びそうかな。年功順に犠牲者を並べるなら、猫飼い女、ヒロインの元隣人、主人公の幼い妹、地下鉄の幼い姉妹、貧民街の幼児、赤ちゃん……と、女性が多いのも興味深い。女性監督ならでは、なのかわからんけど、“女の恐さ”みたいなのも色々と描かれていて、僕は特に主人公の婚約者(しかもどうやら彼の父親が教会を建てる為に借金した相手の娘らしい)が浮気されたと勘ぐって「雨乞い」の譬え話を淡々とするところが恐かったりした。
とはいえ本筋の方は「現代社会の病理」を鋭く抉るかのような問題提起にもなっていて、団地が並ぶ光景の異様さやら、そこに詰まってる個人主義的な現代人達の心理の歪みやら、そうした現代人の宗教心(韓国人の4人に1人がキリスト教徒とか、そういや原理研=統一教会ってのもキリスト教分派だな)やら、ほんの少し前まであった土俗的な慣習や貧富の差なんてのを忘れたふりしてる感じやらがモチーフにもなってる。貰われっ子幻想、育児ストレス、ナルコレプシーといった心理学ネタに、雨乞いや霊媒や飢餓人肉食やら幽霊話が重ねられ、『ディアボロス』『ノイズ』系列の二重化(マタニティ・ブルーや都会ノイローゼなのか本当に“悪魔的な何か”が存在するのかがサスペンスとなる)に似て、精神の病が見せる幻影に過ぎないのかオカルトな真実なのかが曖昧なまま、とにかく話がどう展開するのか、なかなかわからないって構成が秀逸といえばいえる。
最初の地下鉄のシーンから、都市伝説的な日本のホラーを想起してたら、冷たい金属とガラス製の四人がけテーブル&座席に座る人にスポットが当たる照明――というどう考えても趣味の悪いセットを、「これがナウいのよ」ってな感じで用意するのがインテリア・デザイナーである主人公の婚約者の照明デザイナー……ってとこでズッコケそうになり、このいかにもありがちな舞台装置が「無機的な/クールな現代性」を象徴するのかと思ったら、欠陥建築ネタを経て、やっと、相手のトラウマを幻視する能力を持つらしき嗜眠症ヒロインの登場(おお『イルマーレ』『猟奇的な彼女』のチョン・ジヒョン!しかも素っピン演技!)。ちょっと『ギフト』とか筒井康隆『家族八景』とかを想起しちゃった。この、伝奇SFか超能力者ものの味がするところは個人的に好きかも。でも彼女は夫と別居中で、唐突に法廷劇みたいなのが挿入されるようになり、その夫が証人らしい男と裏取り引きしてたり、彼女の方は夫の母親にサ店で罵倒されたりとどうも先の読めん妙な方向に……さらには主人公の幼少時の記憶ってのが、なんだかゴミゴミした坂の多い狭い道だらけの「汚い尾道」って感じの貧民街で、これが郷愁と悪夢的めまいの混合した情趣を呼び……と、まぁいろんなトーンの挿話がテンコ盛りなのは韓流ってことか。なんとか静かに不気味に例の舞台装置に着地するんだけど、高層マンション群ってのが重要なオブセッション(強迫観念)になってるのはようくわかった。高島平とか多摩ニュータウンとかって、生理的に恐いもんな、僕。ところで彼女の子はどうなったんだ? あと借金して建てた教会のその後も気になる、主人公の父や妹は彼の(封印されていた)「罪」によって不幸のズンドコに……? つーかその場合、「罪」を裁くのは誰? 神? それとも……。おー、そこらへん考えると深い話ができそうかも。
余談。観終わっていったん帰りかけて、頭の中ですぐにツジツマが合わないので、くるっと引き返し、配給のN姐さんに「説明してくれーっ」と泣きついた事は内緒なのだが(笑)、昔、同じ韓国のサイコ・ミステリ映画『カル』を観た時の気分になったことは告白しておこう。大枠の謎解き(と着地点)はわかるしドラマ・バランスとして『カル』よりさり気ないのはいいんだけれど、ディテールまで完全にツジツマの合う観方がどうしてもできない。ま、「伏線ほったらかし疑惑」は韓流映画につきまとうもの、ソコを気にし過ぎちゃ愉しめないのかもなぁ……。逆に『カル』のカルト人気はそういう“解けない謎”にこそあるようだし、ハマる人はハマる映画だろうとは言っておこう。あ、もちろんチョン・ジヒョンのファンは必見であることは言うまでもない。
Text:Hidemaro Kajiura
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Copyright © 2004 UNZIP.
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『4人の食卓』
2004年6月5日からシネマスクエアとうきゅうにて公開
(2003年/韓国/2時間10分/スコープ/ドルビーデジタル/配給:東芝エンタテインメント)
CAST&CREW:
監督脚本:イ・スヨン
出演:チョン・ジヒョン、パク・シニャン、ユ・ソン、チョン・ウク、キム・ヨジンほか
REVIEWER:
UTAMARU
梶浦秀麿
INTERNAL LINK:
チョン・ジヒョン『猟奇的な彼女』来日会見レポート
EXTERNAL LINK:
『4人の食卓』公式サイト
DVD:
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