CODE46
近未来で学ぶ運命の恋。
マイケル・ウィンターボトム監督初のSF作品。

REVIEW:
人は誰かと深く愛しあうとテレパシーでその人を感じることができるようになる。たとえ遠く離れていても、その人がどこにいるのかわかったりする。声が聞きたいと思えば電話がくるし、どこに行きたいか何を食べたいか、言葉にしなくてもわかってしまう瞬間がある。それは単なる偶然か、恋愛ボケのノイローゼか、はたまた想いが強すぎてお互いの気持ちが共鳴しあっているのか?『CODE46』はこの「共鳴」がまさに鍵となっている。

舞台は環境破壊の進んだ近未来。徹底的に管理された都市部(内の世界)と砂漠で荒れ果てた「外」の世界。都市から都市へ移動するには外の世界を通って行かなければならないのだが、それには一部の認められた人間にのみ発行されるパペルという滞在許可証が必要になる。上海でこのパペルが違法で次々と発行される事件が起き、調査員のウィリアムがやってくる。このウィリアム、共鳴ウイルスというものを服用しているので、短い会話をかわすだけで、相手が嘘をついているかどうか見破ることができるのだ。そしていとも簡単に犯人をみつける。パペルを審査、発行しているスフィンクス社に勤めているマリアだ。しかし、彼はマリアを犯人だと報告しなかった。なぜなら、彼はマリアに恋をしてしまったから…。

お互いのことは何も知らない。今までどんな風に生きてきたのか、家族は?兄弟は?夢は?何も知らない共通点もないふたりの恋はまさに絶対だった。一夜を共にしてしまった後、ウィリアムはシアトルで待つ妻と息子のもとに戻る。しかし、スフィンクス社からまた違法のパペルが発行され、上海行きの命令が下される。マリアともう一度会おうとするのだが、彼女は職場や自宅から姿を消していた。ようやく彼女の居場所を探し当て、マリアに会うことができたのだが、マリアはウィリアムに会ってもまるで初めて会う人のように接する。実はマリアは「CODE46」という法に違反したため、ウィリアムとの記憶を消去されてしまっていたのだ。記憶までも改ざんしてしまうこの「CODE46」とは…?

お互い強くひかれあいながらも様々な出来事が二人を引き裂き、それでもまたすぐに引き寄せられる。まるで磁石のように。この映画でとても印象に残ったセリフがある。

「もし自分の行動の結果がわかってしまっていても、同じように行動するだろうか?」

普通の精神状態だったら答えはNOだろう。しかし恋をすると、人はどこまででも突っ走る。たとえ結果が絶望的であったとしても。二人の行動は、最後悲劇的な結果を招いてしまうが、ラストにマリアが祈りのようにくり返す言葉が、ウイリアムにいつかきっと届くような気がして、きっとまたふたりは出会えるだろうと予感せずにはいられなかった。共鳴ウィルスなんか飲まなくても、誰の心にも共鳴装置がちゃんとあるということを、そして運命ということが確かに存在することを、この映画は証明してくれた。

SF映画でありながら「これは愛の映画」だと監督のマイケル・ウインターボトムは言う。「SF」と「恋愛」。一見、奇妙な組み合わせにも思えるが、「ブレードランナー」も「フィフスエレメント」もじつは「愛の映画」だったりする。なぜ人は恋をするのだろう。誰もが思うこの神秘的で永遠の謎をこの映画はいともあっさりと解明してくれる。どんなに世界が変わってしまっても、人が恋する気持ちだけは変わらない。未来も捨てたもんじゃない。

Text:Yukiko Katsuyama

Other Reviewer's Comment:
タルコフスキー版『惑星ソラリス』(72)は1960年代の東京の首都高を未来の風景として描いたが、ウィンターボトムの『CODE46』は現在の上海の浦東新区を未来都市とする。シアトルから大平洋を超えてやってくる調査員ウィリアム(『ミスティック・リバー』のT・ロビンス)は、大洋ではなく砂漠しか目にしない。自然環境の荒廃は著しく、前作『イン・ディス・ワールド』で描かれたような難民キャンプが点在する「外」と、無菌化された「内」側の街との格差も激しい。太陽光は有害で、夜明けが迫ると人々はにわか雨を避けるかのようにジャケットを被って陽光を浴びるのを防ぐ。北京語ウィルスで言葉を覚え、人の心が読める共鳴ウィルスが犯罪調査員の武器となる。そんな未来。旅行や移動も極端に制限されているが、自由を求める「輝く目を持つ」人々を、密かに支援するレジスタンスもいる。本作のヒロインであるマリア(『ギター弾きの恋』『マイノリティ・リポート』『イン・アメリカ』のS・モートン)はそんな女性であり、だが彼女を捕まえに来たウィリアムと、運命的に恋に落ちてしまうのだ……。

ソダーバーグ版『ソラリス』(03)がSFの衣裳を着た「愛の記憶の無限反復」をめぐる唯我論的メロドラマだったのと同様、本作もシビアなSF設定(管理と荒廃の進んだ未来世界像)を背景にしつつ、実はマリアによる「至高の愛の記憶の回想」を枠としたメロドラマだ。ただし記憶さえ操作される未来における愛とは、かくも残酷な試練なのか……?

Text:Hidemaro Kajiura


Copyright © 2004 UNZIP.
『CODE46』
2004年9月上旬シネセゾン渋谷、シネスイッチ銀座ほかにて公開
(2003年/イギリス/93分/配給:ギャガ・コミュニケーションズGシネマグループ)

CAST&CREW:
監督:マイケル・ウィンターボトム
キャスト:サマンサ・モートン・ティム・ロビンスほか


REVIEWER:
Yukiko Katsuyama
梶浦秀麿

INTERNAL LINK:
マイケル・ウィンターボトム監督インタビュー
コラム“マイケル・ウィンターボトム監督についてのささやかな論考”

EXTERNAL LINK:
『CODE46』公式サイト