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いきなり紫バックに50年代風ダンス・ミュージック。若いダンサー達のシルエット、ツイスト、クラッピング、ホーン音……映像は白く飛び気味の金髪の女性が微笑む姿を二重写しに捉え、拍手が賑やかにこだまして……闇に煙草の火が浮かび、くすんだ赤っぽい毛布の表面をカメラが舐める------そこが物語の始まりにして謎の突き当たる場所だ。と、「MULHOLLAND
DR.」の標識がヘッドライトに浮かぶ。夜のカーブを黒いリムジンがゆく。テールランプが赤く滲む。後部座席に黒髪の女。ハリウッド・サインのある山の中をくねくねと走る道路=マルホランド・ドライブの途中で、不穏に停車するリムジン。助手席の男が女に銃を向けて、同時に峠を攻める若者の車が2台、奇声を上げて猛スピ−ドでチェイスしながら迫り……正面衝突。駆けつけた警察は全員死亡の惨事を前にたたずむが、リムジンの後部座席にパールの耳飾りを見つける。「誰かこの場を離れたものが?」「そうかも」……。女はフラフラと森を下り、サンセット大通りに辿り着いて茂みに隠れ、朝になって旅支度で出かける婦人の隙を見て邸宅に侵入、テーブルの下で眠りにつく。同じ頃、ファミレス「ウィンキーズ」でダンという長身の男が、2度も見た悪夢について刑事に話している。その悪夢はやがて現実になる。そして鏡ばりの不思議な赤い部屋では、奇妙な老人(マイケル・J・アンダーソン)が女を捜しているのだった……。
LA空港を降り立ったベティ(ナオミ・ワッツ)は憧れのハリウッドに来てワクワクしていた。名女優である叔母のルースがカナダ・ロケで留守にする間、その家を借りて女優のオーディションを受けるのだ。と、留守のはずなのにベッドにカバンや服がある。バス・ルームに女性の気配。出てきた黒髪の彼女(ローラ・エレナ・ハリング)は『ギルダ』のポスターを見てリタと名乗るが、やがて交通事故にあったようで記憶が無いことをベティに告げる。手がかりを探して開けたリタのバッグには、幾つもの札束と、青い鍵が入っていた。何らかの事件に巻き込まれているらしい彼女に同情したベティは、二人で私立探偵めいた行動を開始することになる……。一方、ライアン・エンタテインメント社に呼び出された新進気鋭の映画監督アダム・ケシャー(ジャスティン・セロウ)は、マフィアらしきカスティリアーニ兄弟(アンジェロ・バダラメンティ&ダン・ヘダヤ)が、主演女優を押しつけようとするのに憤慨して会議の席を立つ。だが、それから彼は理不尽な事態に徐々に追いつめられてゆく。進退窮まって会うことになったカウボーイと名乗る謎の男(レイパエッテ・モンゴメリー)は、指示通りカミーラ・ローズ(メリッサ・ジョージ)という女優をオーディションで採用するようアドバイスするのだが……。 ボブ・ルッカーという老監督の前で、チープな脚本を情熱的に演じて見せたベティはオーディションに見事合格する。ところが別のオーディション会場を見学していて、そこにいたアダムに何故か目を奪われるのだった。「リタとの約束が……」と慌てて去るベティ。リタが思い出した「ダイアン・セルウィン」という名前を電話帳で調べ、その家へ行ってみることにしたのだ。だがそこで二人が見た光景は、とんでもないものだった。打ちのめされて戻った二人は、恐怖から逃れるためか、愛し合うことになる。その夜、リタのスペイン語の寝言を聞いて起きたベティは、彼女に請われるまま真夜中にタクシーでLAの街へ出かける。不思議な劇場に辿り着き、奇妙な演目に魅せられ、戦慄する二人。ベティは、いつの間にか青い箱を手にしていた。戻った二人は青い鍵を探す。と、ベティがいない。リタは青い箱をついに開ける。その中には……。 そして、物語の後半ではすべてがひっくり返るのである。レズビアンの痴情のもつれが描かれ、またしてもリムジンはマルホランド・ドライブの途中に止まり、森の抜け道はアダムの豪邸へと続く。そこでのホーム・パーティの会話には「ボブ・ルッカー監督『シルヴィア・ローズ物語』の主演女優カミーラ・ローズ、共演ダイアン・セルウィン」の話が出たりする。そして「ウィンキーズ」での殺人依頼。あの札束がテーブルに置かれる。その店の裏手にはやはり悪夢が形をなし、孤独な部屋で狂気もまた形をなす。そうして桟敷席の青い髪の女が「お静かに(シレンシオ)……」と語るのだ。------いやあ凄い。前作『ストレイト・ストーリー』とは違う、お馴染み「ワケわからん」ヴァージョン(笑)のリンチ節が全開だ! その、解釈を許さない摩訶不思議な夢の論理の世界は、もうリンチならではのもの。まずはミステリを愉しみ、ホラーな不気味さに恐怖し、独特の笑いのセンスを堪能し、そして結末に呆気にとられよう(笑)。 |