「主人公なりきり」ウケ必至の傑作『8マイル』

うおおおおおっっっっ――て歳甲斐も無く興奮するほどではないのだけど、『8マイル』には「うおおっ」ってくらいは胸の中の“熱血魂”みたいなのを揺さぶるものがある。もう少し若けりゃ(20代前半だったら)フード被って鋭い目をして、夜の街を彷徨ってしまいそうなくらい。観終わった後にそんな「主人公なりきり観客」を大量に生む力を持った映画だ。特に渋い幕切れは、感染力がある。ヒップホップ・スターの自伝的映画をそのスター本人が演じているってネタ自体は、どうもクロウト受けし辛いようだけど、そんなの無視して観て、素直にいい映画だって思ったのだった。…‥あんまりゴタクを言いたくないので、ネットで見つけたプロのライターさんの、とってもいい感想をひとつ、無断(笑)引用しちゃおう。「森直人・脱力日記」(密室カルチャー・レディオ!ってサイトの中にある)の、2/17(月)付の記述。

<試写『8マイル』。エミネムモデルの主人公をエミネム本人が演じてる話題作です。/ベタ中のベタ中のベタベタの、大大大、超傑作!!/偶然会って一緒に観たヴュージック斎見さんは『嵐を呼ぶ男』と言っていたけど(笑)、確かにエミネムという特権的な存在のスター映画ってのがまず大きい。物語構造は完全に『ロッキー』。カーティス・ハンソンの演出も70年代風(くすんだ映像がたまらん)。フリースタイル・バトルはエイドリアーン!よりグッときたよ。/いろいろつっこみは可能な本作だけど、こういうのは、時代の中の突出点として問答無用に支持する必要を感じるんだな。ポップ・カルチャーの奇跡みたいな、ごくまれにしか生まれない映画だから。今年の一番でもいいですよ、ええ。>
『8マイル』
監督:カーティス・ハンソン/製作:ブライアン・グレイザー/脚本:スコット・シルヴァー/キャスト:エミネム、キム・ベイシンガー、メキー・ファイファー、ブリタニー・マーフィ他
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すげえ鋭い感想だ。かっこいい論評である。特に「物語構造は完全に『ロッキー』」ってのは、UNZIPの中村編集長も言ってて、なるほどって思ったトコだったのだ。『ロッキー』公開時(76)には僕は11歳だったけど、友達に映画の真似して生卵パカパカ割って呑んでジョギングするヤツがいて、僕も最初試してみてウエエってなったのを思い出したり、でもコンパ芸みたく人前でやる時は、平然と呑んでみせるのが通だってしきたりがあった(←ないない)ので、そういう時は平気なふりしてたっけ……(恥)。『8マイル』でそういうトレーニング・シーンに相当するのは、バスの窓から荒れた街の風景を見ながらブツブツと呟きつつチビっこいノートにリリック[詩]をなぐり書きすることだったりなんだけど、さすがにこの歳だと真似できんかも。余談だけど僕が本気で「主人公なりきり観客」になった最後の思い出ってのは恥ずかしいけど『ニキータ』だったりする。あの夜の映画館で独りで観た後の「凶暴な気分」は結構キョーレツで、今や映画通には馬鹿にされまくってるリュック・ベッソン(製作・脚本の『TAXi3』がもうすぐ公開)を、未だに贔屓目で見てしまうのは、『グラン・ブルー』体験ではなく実は『サブウェイ』や『ニキータ』のせいかも、と今になって気がついたり。こーゆーのも出会うタイミングなんだよなぁ。

ああ、森直人さんは3/2の日記でも『ボウリング・フォー・コロンバイン』を「やっぱりコレは超すごいよ!」と誉めていて、しかも「マイケル・ムーアもマリマン(マリリン・マンソン)も、ほんま“芸人”ですよね。芸人はすごいな。実はエミネムの『8マイル』もそういう要素強い。『8マイル』&『ボウリング〜』はちょっと別格のオーラを放ってます!」とまで言ってるので、凄い共感してしまったり。うう、お友達になりたい。――って、そーゆーのは本人にラブレター書けってば(←いや人見知りするんで…‥←だから自問自答するな)。というわけで、他人の巧い評を引用しただけで、後は「必見!」で終わりたい、んだけどサスガにそれじゃあマズイか。気乗りしないが、もうちょっと考えてみよう。

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